第44話 ジャパニーズ・マフィアのとある日常☆
極道。
英語では、ジャパニーズ・マフィア。
世間一般の彼らは宵闇で暗躍し、危険な薫りを漂わせている。
しかし、この話に登場するジャパニーズ・マフィアは、照りつける太陽が似合うほど脳天気で、いろいろと明るくお茶目すぎる。
うぱまろが借金取りの事務所を水浸しにした後。
裏カジノ店長は路上にてヒステリックに叫ぶ。
「スーツをクリーニングに! 私のお気に入りの、マルマーニのスーツちゃん!」
スーツの上だけではなくズボンまで脱ぎ出そうとする。
「店長! やめなはれっ!通報される!」
スキンヘッド男とモヒカン男は必死で裏カジノ店長の手を押さえつける。
ずぶ濡れになった衣服を乾かす為に、借金取り達は公園でジャングルジムの横で日光浴をする。
母親らしき女性と手を繋ぐ幼い女の子が、借金取りに指を指して無邪気な声をあげる。
「ママ、あの人達、プールに入ったのかな?」
「しっ!だめよ、見てはいけないわ。それより、今日のおやつは……」
足早で立ち去っていく。
佇む借金取り達に「ドンマイ」というように、生暖かい風が吹く。
モヒカン男はスキンヘッド男に話しかける。
「ツルツル、ウィッグが濡れて、雫が滴っててアンニュイだな」
ツルツルと呼ばれたスキンヘッド男はぱっと表情を明るくする。
「マジすか、モヒカンのアニキ! スポーティーに行きたいときはスキンヘッド、色気を出したいときはウィッグを濡らして……デートに出陣っスね!」
「お前、ファッションは髪型に合わせてとか言ってて、前からオシャレだったもんなぁ」
「アニキ……!よく分かっている……!」
スキンヘッド男とモヒカン男は華やいでいる会話に、裏カジノ店長がけたたましく叫ぶ。
「もうっ!2人とも、ふざけてる場合じゃないでしょう!事務所が水浸しになっちゃって
、保管してあった書類もビチャビチャ、パソコンだってデータがだめになっちゃって!この大騒ぎのせいで、カジノだって閑古鳥が鳴いてるじゃないのぉっ!」
「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ店長。まさかあのウーパールーパー……なのか分からないけど、こんなことができるなんて誰も思ってなかったッスもんね!」
スキンヘッド男は店長をなだめるのに必死なのに対し、モヒカン男は店長をからかう。
「てか店長、興奮すると女性みたいな話し方になるんだな」
店長は両手をグーにして上げ、地べたを踏み鳴らして怒る。
「もうっ!あんた達がきちんとしないからじゃない!島を荒らしてしまったんだから、組長の前で私達落とし前つけないと……」
「落とし前!何されるんッスかね?!」
「ぜってー、こえーやつだわ。こえー…。大丈夫かな……」
3人は肩を組んで円になって今後の恐怖に怯える。
裏カジノ店長は苦いものを口に含んだような顔で言葉を吐き出す。
「……こうなってしまったのは、仕方ない。せめても、組長の機嫌が良いときに報告しよう」
スキンヘッド男も、ひらめいたようだ。
「俺達も、ウーパールーパー……奴の飼い主から、とんでもないものを没収してやったッス!金庫なんだけど、ガチ重くて。絶対札束が大量な予感!」
3人は目を合わせ、頷く。
「決行は、組長がラーメン『つるはら』に行った帰りだ!」
お昼時、組長の家に3人は行く。
「いつ見ても、立派な日本庭園ッスね!あ、この白い花なんだろう」
スキンヘッド男は組長の庭園に心踊っている。
「鯉だ!パンとか食べるかな」
モヒカン男は黒い鞄からメロンパンを出し、ちぎって池に投げ入れようとする。
「もうっ!組長が大事にしている鯉にメロンパンなんかあげて病気になっちゃったら、首までふっとぶわよ!」
裏カジノ店長の甲高い叫びに、鯉は隅に逃げていく。
「お前ら……何してる」
鋭い声がして3人が振り返ると、黒いジャケットに黒いズボン、黒髪に鬱陶しい前髪の30歳程の男が立っている。
よく見ると、右目もとに小さな涙ホクロがある。
「組長……セイイチさんっ!報告がありまするっ!」
3人は背筋をピシッと伸ばし、敬礼する。
掛け軸のかけられ、日本刀の飾られた和室にて。
「……で、お前らは、島1つ台無しにしたわけか」
氷のような冷たい声で、セイイチは呻く。
組長という立場なのに、座布団に座り、下と同じ正座の姿勢を崩さない。
「申し訳ございません」
3人は畳にひれ伏す。
「数年前、まだ親父が生きてて、親父が現役の組長だったときに金を貸した奴の話だよな」
父親の話をすると、声色が更に曇る。
「左様でございます」
3人はひれ伏したまま頭を上げない。
「俺は、奴を公務員と聞いていたんだが。ウーパールーパーだかなんだか知らないが、人外というのは初耳なんだが」
正確には、セイイチの頭には、数時間前にラーメン屋で出くわしたウーパールーパーのぬいぐるみがよぎり、まさかとは思ったが、そのまさかだったことを認めたくはなかった。
「はい、公立の水族館で働いていたようで、その水族館のタグも着けられていたので……公立の施設で働くって、公務員ッスよね?」
スキンヘッド男の言葉に、モヒカン男も次ぐ。
「先代から頂いたマニュアルで、公務員は収入が安定してるから大胆に貸して大丈夫って引き継ぎました!」
「もともとは病院に来てたお客さんなんだけどね……」
裏カジノ店長はぼそりと呟く。
「……お前ら」
セイイチは震えている。
「人外に、金を貸したとか、頭、マジで、いかれてるだろ!何だよ、公立の水族館で働いてるから、公務員って!まさか、イルカとかにも貸してないよな?! ワニとかシャチとかもやめろよ! しかも、病院って、あの病院だろ!何で、一般人……一般人外……何でも良いけど、部外者を!受け入れてるんだよ!訳分かんねぇっ!」
セイイチは全ての事柄について一通り突っ込んだ後、バン、と畳を拳で殴る。
「ごめんなさいごめんなさい、金持ってたんです!良いカモになるかと思ったんです!薬を、トウモロコシだと言って騙しました!それがこんなことに!」
3人は寄り付き、手を握り合っている。
「善良な一般人には手を出すなって教えだろ。手を出していいのは、この世界の掟を分かった上で突っ込んでくる奴らだけだと」
セイイチは3人を睨みつけた後、はっと気が付いた。
善良な一般人には手を出さない。
これは、セイイチが組長になってから掟として決めたことだった。
父の代では、「金を持つものなら容赦なく搾り取れ」というスタンスだ。
今回の人外は、父の代に生まれてしまった被害者だ。
セイイチは深い溜め息をつき、頭を抱える。
「……でも、俺達、奴の飼い主からとんでもないものを没収してやったッス!これで事務所の修繕くらいは期待できるかも!」
スキンヘッド男は金庫をセイイチの前に差し出す。
「開け方分かんないんで、バーナーで壊しますねッ!」
スキンヘッド男はバーナーで金庫の蝶番部分を壊す。
金庫がパカッと開く。
「札束か?札束か?」
スキンヘッド男とモヒカン男はワクワクしながら金庫の中身を取り出す。
「なんだこりゃ!」
金庫の中から出てきたのは「ポーカー探偵☆エクスプレス」の同人誌だった。
「組長、ホントすみません!こんなガラクタを金庫に入れるとか、狂ってますね!すぐ組長の目の前からこれら消しますから!」
3人は同人誌を金庫に戻そうとする。
「それはいいから、とっとと目の前からいなくなれ!1人にさせてくれ!」
セイイチの怒りは落ちる雷の如く3人を直撃した。
ピシャリと障子を閉める。
誰もいない和室。
セイイチは金庫から同人誌を取り出し、ぺらりとめくる。
「うおおおおおおおおっ!これは廃盤になったレアものの同人誌! このタマキさん!マジ、マジ、すげぇ!かっけぇーッ!」
雄叫びが響き渡るのだった。
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