竜魔激突⑪
天に立ち込める黒雲には雷鳴が轟き、逆巻く暴風は岩を薙ぐ。
打ち付ける雨には雹がまじり、なぎ倒された木々が中を舞う。
その中にあってなお威容を示す両雄があった。
方や魔族を閉める魔神の将、すなわち
たかが辺境の主要都市を巡る決戦というには豪華すぎる面子が揃ったと言えよう。
「貴様……原初の十三か……」
「いかにも!我こそが原初が十三、第六席に連なる赤き龍。ミロクである」
仰々しい名乗りを上げるミロクに、フゲンはふんと鼻を鳴らした。戦うことが楽しくて仕方がないこの同胞の最大限の力を発揮できるように、その膨大な熱量を調整しなければならない。
この強大極まる『リアクター』を上手く調節し、冷却し、あるいは蓄積し再分配する。それが『コンデンサ』たるフゲンの役目だ。
「調整は任せる」
「言わずともわかっている」
フゲンはミロクの肩に立ち、容赦なくその首元に太刀を突き立てた。その程度で鱗が抜けるわけでもなく、痛痒にもなりはしない。ただ体を支えるためにそうしたのだ。
と言ってもそれは一種の言い訳だろう。いきなり呼び出されたかと思えば
「こちらから征くぞ!」
仕掛けたのは炎熱の赤龍だ。巨大な翼で空気を打ち付け、ただ一つの羽ばたきで音の壁を突破すると、勢いそのまま巨大な前腕を打ち付ける。
「ぐぅぅ!」
黒金の鎧がひび割れへしまがり、その衝撃は全身に伝わる。しかしそれで終わりではない。鱗の隙間から高熱の炎が吹き上がったかと思えば、それは一気に手のひらに凝縮され、
鎧は完全に破壊され、高熱の奔流は体を突き抜ける。
「なんの!」
しかし流石の
それを真正面から受け止めたのは龍の顎だった。ガッチリと咥えこんで、離すどころかそのまま圧し折る勢いだ。
「化け物め……」
「貴様が言うか」
ミロクの口内に溢れ出す高熱に気づいた
「ふはははは、これで素手同士だな」
「まだまだだ!」
その爪が振るわれ、ミロクは巨大な腕で守るものの、鱗が、肉が切り裂かれる。
「魔剣の類は通じるようだな?」
「ふはははは、そうこなくてはな!」
まるで力試しと言わんばかりに手四つで掴みかかる。ミロクの腕は爪が食い込み、
「ここは我の距離だ!」
まず一つ、顎を大きく開けて噛みつき、そのまま
ミロクは鎧の残骸と肉塊とが一緒くたになったそれを吐き出すと、もう一つ、破城槌の如き尾の一撃を、回し蹴りのようにして叩きつけた。
「舐めるなよ、蜥蜴風情が!」
鎧などもはや意味がないと判断した
すると肉が泡立つように盛り上がり、その背中から二本の新しい腕が出現した。
「驕るな蝙蝠、たかが腕二本増えた程度で、千本でもはやしてから出直せ!」
対するミロクは両椀に炎の爪を纏わせる。フゲンの力により調整されたそれは、まるで炎が刀剣を形作ったように洗練されており、また相応の鋭さを持っていた。
数秒のにらみ合いの後、十指と四腕がぶつかり合う。骨に罅が入る音が大きく鳴り響き、肉が焼ききれる嫌な匂いが漂う。
引きちぎられ、焼ききれた腕が土埃を上げて地面に落ち、ついでどす黒い血液が雨のように降り注ぐ。その上空では赤い龍が呵々大笑し、魔神の将が腕を失った肩を抑えている。
「小癪な!」
「ふはははははははは!!!!!!!!!!!」
近接戦は不利と距離を取ろうとする
「さぁて……」
ミロクはその速度をそのまま威力に変えた突進は、
「何をする気だ!」
「それはお楽しみ」
対流圏を突破し、成層圏に達してもまだ止まらない。中間圏を通り過ぎ熱圏と外気圏との境目に来たところで、ミロクは向きを変える。
真下へと。
今度は重力の助けを借り、断熱圧縮の高熱を纏って地表へと近づいていく。高い熱体制を持つミロクはともかく、
「貴様も、道連れだぞ!」
「いや」
がっしりと掴みかかる
「一人で死ね」
フゲンが吐き捨てるようにそう言うとミロクは急制動をかけるようにして翼を打ち付け、
すでに翼膜が焼け、背中も肋骨まで見えている
大地を揺るがし、衝撃を撒き散らし、その瓦礫と一緒くたになりながら、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます