竜魔激突③
表に出ると嫌な肌寒さが鱗を撫でた。夜半ということもあるのだろうが、昼間はあれだけ賑わっていた大通りも廃墟もかくやと言わんばかりの閑散具合で町ごと棺桶の中に収められたような寂しさがあった。
空を見上げれば二つの月が睨み合うように浮かんでいる。もうすぐ日が変わる時間だ。来るとすればそろそろだろう。
指笛を一つならすと、即座に
「早う頼むぞ」
町並みは飛ぶように過ぎる、考えている暇すらなく、風よりも早く城門を抜けた。想像以上に足が速い。これは良い拾い物をした。
「門の中で控えていろ。何があっても外へは出るな」
難しい指示などわかるはずもない。とりあえず待っていれば十分だ。舌を出して『待て』を受け入れている様はもはや只の犬のようだが、今はそれが都合がいい。
「さて、と」
懐から取り出した錠剤を一つ、口の中へと放り込み一息で飲み込む。拳帯を解き、両腕の封印を開放する。おそらく、十中八九、先日ぶつかりあった悪魔かそれ以上の存在を相手にする可能性がある。全力で戦うべきだろう。
「全く、あとで小言を散々聞かされることになる……」
竜胆香の効果もあり、もはやそれは竜の特徴を持った人というよりも人型の竜というべき姿になっていた。
目は爛々と輝き、巨大な前腕は高熱をまとい空気を歪める。窮屈とばかりに羽織を脱ぎ捨て着物をはだけさせ、上体を夜風に晒すと、両拳を打ち付ける。
「ふぅ…………」
まさに臨戦態勢、背中の魔法陣が熱を持ちはじめ、
「GYIAAAAAAAA!!!!!!!」
言うまでもなく、魔族の軍勢だ。丘陵の向こうから徐々に姿を表したそれは、下は最下級の
「ふはははははははははははははははは!!!!!!!!」
ただし、この男が居なければ。
超高熱の噴射炎で夜空に赤い軌跡を残しながら飛来した灼熱の竜人が呵々大笑しながら魔族の軍勢の中央へ飛び込んだ。迎え撃ってくるであろうと予測していた魔族であっても、まさか一番数の多いところに真正面から突っ込んでくるなど予想だにしておらず、一瞬にして場が混乱に陥った。
それは、恐怖でもなく、驚愕でもなく、ただただ意味不明だということだ。高熱の何かが飛んできたかと思えば、数体の仲間が声もなく『蒸発』し、それの巻き添えで多くが衝撃波や熱傷による大打撃を受けた。状況を把握するために、どうしても一瞬隙きができる。
「貴様っ……!!!」
その直後聞こえたのは、指揮官に値する
視線を向けるとそこにあったのは、腹を突き破られ、腕を引きちぎられ、喉笛を食いちぎられた、無残な
不幸にも、吹きとばされた人食い鬼を気にしていたせいで反動で飛び上がった竜人を見逃した間抜けな
「次は貴様だ」
通説として、魔族は恐怖を感じない。それはある意味正しく、ある意味間違っている。人という生き物は、痛みや喪失を通じて恐怖を知る。しかし、魔族は高い再生能力や強力な呪文により、それを克服しているためにそれらに対する耐性が高いだけに過ぎない。
あるいは、低すぎる知性がそれを認識していないという場合もあるが、それは小鬼等に限られるのだが、理由はどうあれ、魔族という存在は、根本的に『危機感が欠如している』というわけだ。
ミロクは徹底的に嬲り殺すことで、弄んで殺すことでそれを植え付けていっていた。再生を許すことなく即死させる。あるいは死ぬまで痛めつけられる。そして、次にこうなるのはお前だと指名する。
そう実例を見せられ、理解していく毎に、魔族の心のなかに恐怖が産まれていく。
次はお前だと、燃え盛る獄炎に包まれた指で差された魔族の一人が思わず後ずさり、ミロクはしたりと獰猛な肉食獣の笑みを浮かべる。
そして次の瞬間、影すらも置き去りにするような速度で繰り出された抜き手が腹部を貫通し、その余波で胴体を消し飛ばした。
ミロクは一見、巨大な指揮官を集中的に狙って叩き潰しているように見える、しかし相手は軍勢、強烈な熱波や攻撃の余波で次々と乱雑に殺戮されているとしても、雑魚を見逃していてはいつしか浸透される。
「その竜人は無視しろ!進め!」
無論それを理解しない魔族ではない、そう叫んだ人食い鬼の将軍の首が吹き飛んだとしても魔族は侵攻をやめない。
しかし、次の瞬間軍勢は足を止めることになる。
巨人すらも乗り越えさせることを許さないと言わんばかりにそびえ立つ氷の壁。双月に照らされて立つ、青の竜人の姿がそこにあった。
「待たせたな、
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