はじまりの街の話
はじまりの街の話①
古い昔話だ。
はるか昔、
栄華を極めた王国があったそうな。
しかし、ある時その王国にもついに終焉がやってくる。
突如として現れた悪しき竜が国を襲い、数え切れぬほどの村や街が焼かれた。
数多の豪傑が立ち向かい、そして死んでいく中、一人の男が現れた。
男は宝剣を手に竜に立ち向かった。
戦いは三日三晩続き、ついに決着が訪れる。
宝剣は折れず、曲がらず、そして鋭さを失わず、ついに邪竜の首を落とした。
そんなよくある古い昔話。
蓋を開けてみれば、どうせそのへんの
なんにせよ、その男が生まれた地こそ、この『はじまりの街』であるという。
「そこのもの、とまれ!」
道を塞ぐ番兵に男は歩みを止めた。
一回りも二周りも大きい巨体、破れた編笠から突き出る片角、赤い長髪赤い肌、派手な赤い羽織に裾から伸びる長い尾。
傷ついた馬と荷物が霞んで見えるほどの異形のそれを、番兵が警戒するのも無理はない。
定期的に同じ道を往復する運び屋ならば違うのだが。様々な場所を渡り歩くミロクにとって、信用など無いに等しいため慣れた問答だった。
しかし、それではやっていけない。
が、ミロクにはその信用の担保になるものがある。
それが首から下げた認識票だ。
「失礼、我、
「む……改めさせてもらおう」
一見ただの小さな金属板に見えるそれだが、由緒ある貴族や国から認められた証であり、奪って首に下げることも、偽造することも打首必須の大罪である。
そも、それがされないように魔術的な認識もされるのであるからその信頼は目の前の大男に勝るというもの。
訝しむことこそ避けられないが、流血沙汰は避けられる。
「なるほど、本物のようだ。して、その馬はどうされた?」
「ここへ来る途中盗賊に会いましてな。目の前でこの馬の主人は死にました」
ぽいと投げ出されたのは血の滲む麻袋、文字通りの賞金首だ。
番兵の血の気が引くが、誰も責めることなど出来ないだろう。
「そうか、それが本当ならば大変なことだったな」
「この馬と荷物はせいぜい持ってこられた御者の遺品、全ては回収できなかったのだが、目録はこれだ……」
古い羊皮紙の巻物を渡すと、そこまで言ってミロクは意識を頭上に向けた。
「これについてなにか知りませぬか?目録にも乗ってないのだ」
「ぷぃ……」
いつの間にか寝息を立てている毛玉を見せるようにして頭を下げる。
番兵はあまりにも不釣り合いなその光景に目を白黒させながらも、頭上のそれを物珍しそうに観察している。
「いや、見たことがない……」
「ふむ……」
「だが、この荷物は商人ギルドから出たものだ。持っていくとなにかわかるかもしれない」
「ふむ、では通していただこう」
「くれぐれも、騒ぎは起こすなよ」
「国王と麗しき姫君の名に誓って……」
道を開ける番兵に会釈をしつつ、落ちかけた毛玉を手で抑えながら関所を通る。
かつて英雄を出した町といえば聞こえはいいが、どこにでもある普通の町並みだ。
大通りには露天が並び、様々なものが売られている。
比較的野菜や果物が多い、内陸部故に鮮魚はないが、港の方から来た様子の行商人が塩漬けの魚を売っている。
ほんのりと血の香る方向を見れば、血まみれの肉屋が大きな包丁一本で力強く豚を解体している。
「ふーむ、腹は減ってなくともなぜだかこういう場所に来ると串焼きの一つでも食べたくなるものだ……」
大通りは人でごった返しているが、ミロクの足を遮るものはない。
だれしも異形の大男なぞに関わりたくはないというのがよく分かる。
だが、ミロクはそんなことは意に介すはずもなく、一つの露天の匂いに惹かれて立ち寄ることにした。
「失敬、一つ欲しいのだが」
「あ、あぁ……大銅貨で1枚だよ」
「おぉ、有り難く」
薄く焼いた生地の上に、タレを付けて焼いた肉と刻んだ野菜を乗せて包むこの簡単な料理はこの地方においてはよく見るものだ。
料理の名前はよく知らないが、行く先によって中身や味が変わるので飽きが来ないため、ミロクは行く先々で食べている。
最も、大抵は硬めに炊いた麦粥を包むことが殆どで肉なんていう高級品を買うのは金に余裕にある行商人程度のものだが。
普通の人間なら一つで腹が膨れるそれを、彼はわずか二口でたいらげた。
「そういえば、お前は何を食べるのだ」
「ぷぃ?」
見たところ草食だろうか。
歯を見れば何を食べるか分かると古い知り合いが言っていたような気もするが、よく覚えていない。
そこから更にしばらく歩けば、大きな馬車が出入りする建物が目に入ってくる。
その建物こそこの町の商人ギルド、ミロクが運んできた荷物の届け先でもあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます