竜魔激突⑦
宰相は恐怖といらだちと、無力感と怒りと、ありとあらゆる負の感情が渦巻く心境を、ただ一言の絶叫として吐き出した。
「どうしてこうなった!!!」
長年続けてきた計画が、大詰めのところでたった数人のどこの誰とも知らない馬の骨にひっくり返される。
そんな事があってたまるかと叫びたいが、それは現実で起きている。
まともにやりあえば、どんな軍勢だろうがかんたんに蹂躙される。そんな戦力が、たった二人の竜人により蹂躙されている。普通は逆だろう!
そんな行き場のない怒りを、彼は物にぶつけ始める。高価なグラスを、ワインのボトルを叩きつけ、踏みつけ、踏みつけ、踏みつける。何度も何度も。
そうしたところで状況が変わればいいのだが、当然の如く状況は変わらない。
その様子をヴァンダムはニヤニヤとした目つきで眺めていた。宰相の計画は失敗するだろう。主である
しかし、彼の計画は順調だ。多少イレギュラーはあるものの、許容範囲内だ。
彼にはもはや、当初の計画など眼中になかった。いや、あの赤い竜人、『原初の十三』の一つが現れた瞬間から、もはやあの計画は成功するはずもない。それほどに、その武力は強大だ。
はるか昔、この王国を作り上げた
ヴァンダムはそれが欲しくなった。
おそらく、この調子で行けば
どちらにしろ、手柄は独り占めすることができる上、原初の十三の力を取り込み、自らが魔神将へと入れ替わることも夢ではない。
だからこそヴァンダムは、竜人のことを報告しなかった。報告すれば、
「貴様!何を笑っている!」
掴みかかってくる宰相をひょいと避けつつ、ヴァンダムは自らの口元を確かめた。思わず笑みがこぼれてしまっていたらしい。倒れてはいつくばる宰相を見下ろすと、その口角が上がるのは避けられない。
「どいつもこいつも、自分の計画だけはうまくいくと思ってやがるからだ」
状況に応じて臨機応変に、たとえ目的が変わったとしても、最終的に自分の利益になるならば計画は成功だとすればいいのに、どいつもこいつも最初に掲げた理想ばかり目指すから破綻するのだ。
もうこいつは用済み、これ以上引っ張っても面白くもなんとも無い、ぶっちゃけてしまえばどれだけ面白くなることやら。
ヴァンダムはいびつな笑みを浮かべて、宰相と目を合わせるようにしゃがみこんだ。
「てめぇの計画はハナから失敗するのが前提だったんだよ。
宰相が大きく目を見開く、おかしくて仕方がないと言わんばかりに嘲笑混じりに言葉を続ける。
「てめぇは俺を利用してると勘違いしてるみてぇだが、逆だ逆ゥ!俺たちがてめぇの欲望に漬け込んで好き放題させてもらう計画だったんだよ!」
襟首をひっつかみ、領主の椅子に投げつけるようにして座らせると。ヴァンダムはわざと外の光景を見せるようにして窓に向けた。
「まぁ見てろ、お前の計画が水泡に帰す様をヨォ!!!」
宰相は何か言おうとしているが動けない、なんらかの魔術で縛られているようだ。
そこまでしておいて、ヴァンダムはやっと乱雑に扉が叩かれる音に気がついた。
「うるせぇ!今は取り込み中だ!」
そう叫んでみても、ドアを叩く音は止まない。お楽しみの最中に水をさされたヴァンダムは、ついにその扉を開けた。
「やはー」
気さくな挨拶が聞こえたか次の瞬間、中へと身を投げだしていた。腹部に穴が空いている。再生できない。阻害の術式?混乱する脳をなんとか抑え込みながら、屋敷の中をにらみつける。
「やっぱここか、馬鹿とけむりは高いところが好きってか?」
真っ白な大地母神の
「なんだ貴様!大地母神の神殿に、大司教はいなかったはずだ!」
「そりゃあ各地を回ってたからなぁ……」
彼女は先程ヴァンダムを一撃で吹き飛ばした自分の背丈より長い長杖を、体の一部であるかのように自在に振り回してその先端をヴァンダムへと向けた。
「種を蒔くのはもうおしまい。あとは実りを待ち、大樹のように見守るときだってなぁ……」
過ちを正さなければならない。堅苦しい立場が嫌いで、その資格は合っても、この服に袖を通すのを拒んでいた。この神器を持つこともまた、拒んでいた。
だがそのせいでこの街はこの有様だ。だから責任を取る立場に立たなかった責任を取らなければならない。
「
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