竜魔激突⑥
「遅かったではないか。なぁ、フゲン」
「《
「ふはは、そう憤るな、戦だ、大戦だ」
フゲンと呼ばれた青の竜人は氷の壁から飛び降りると、腰に差した太刀を引き抜き、すれ違いざまに
まるで標本のようになった
「ふん、他愛ない。しかしこの数、さすがの貴様でも堪えるか」
「なにせ、守るものが多い」
フゲンは背後に広がる街を氷越しにみやるとふんと鼻を鳴らした。堅物で仏頂面の男だが、この状況は悪くないと思っていることはミロクにはわかっていた。
「大物が来るぞ、我に合わせろ」
「わかっているとも」
赤の竜人ミロクと青の竜人フゲンは肩を並べて巨大な敵を見上げる。柱の如き足が、仲間であるはずの有象無象を踏みつけながら前進してくる。
「踏み潰してくれるわ」
地鳴りにもにた低い音が声を紡ぐ、それは、常人の二十倍はあろうかという巨体を持つ
「
ミロクは巨大な前腕に力を込めると、鱗が展開し形状そのものが変化し始める。肘に空いた穴からは他の鱗の隙間から漏れ出る噴射炎とは比較にならないほどの熱量が噴射され、それはミロクの巨体を音の壁を貫いて、重力を振り切って空を舞わせる。
大質量が超高速を伴って飛んでくる、その衝突に耐えれる物体などいくつあるだろうか。強烈な一撃により、石の鎧ごと胴体を貫かれた
しかし猛攻は止まらない。ミロクはそのまま巨体へ食らいつき、石の鎧に熱を流し込む。ものの数秒で全身を覆う石の鎧は赤熱化し、自らを守るはずの防具は、自らを焼く拷問具へと変貌した。
「おおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」
巨体をよじって悶絶する
しかしそれで終わりではない。今度は高熱で赤熱化していた石の鎧が一瞬で凍りついた。
「
フゲンだ。彼は先程注ぎ込まれた膨大な熱を全てを一瞬で吸い尽くした。大量の
「「他愛なし」」
ふたりの竜人の声が重なり、どちらからともなく拳を打ち合わせる。
それを合図にしたかのように、急激の温度の変化についていけず、石の鎧が、いや。その肉体そのものがひび割れ、崩れ落ちていく。超高温の炎で焼かれた後、一瞬で氷漬けにされて砕かれた巨人は数多の肉塊の雨となって地表を血で濡らした。
それは、まさに絶望だった。
兵が、将が、切り札が、その軒並みを湯水のように投入してもまだ足りない。その様子を居城から使い魔を通してみていた巨大な悪魔がわなわなと拳を震わせ、ついには長机を叩き割った。
「馬鹿な!馬鹿な!馬鹿な!」
身を焦がす灼熱の炎が空を舐め、あるいは魂すら凍りつかせる冷気が足元をさらう。際限なく出現する魔族の大群が、まるで滝壺に吸い込まれるようにその数を減らしていく。軍団を率いる
それは、本来自分たちが齎すべき特権のはずだ。
計画は順調に進んでいた。
自分が最も賢いと考えてはばからない馬鹿な人間をたぶらかし、亜人共を軒並み滅ぼすためという名目で交易の拠点を襲撃させる。
流通というのは国の血流に等しい、その心臓部が機能停止すればどうなるか、まともな人間なら理解できよう。此度の計略は、それを足がかりとして国そのものを逐次乗っ取るという計画だった。
内通者をばらまき根回しを行い、進軍を楽にするために内輪もめの火種を撒き散らした。計画は着々と進み、さぁ進撃だ、ここまで計画通りに進むとつまらんと思っていたところに足元に小石が現れた程度の障害が現れた。
しかし、小石程度と思っていた障害は、近づいてみれば見上げるほどの大岩だった。
たかが蜥蜴二匹程度、と侮っていた敵に配下が次々と葬られていく。雑魚の逐次投入は悪手だと一大戦力である
魔族は誰もが、その自信を喪失しかけていた。
魔族の殆どが有する再生能力をもった強靭な肉体になんの意味があろうか。傷口が焼かれ、あるいは凍らされてはそんなもの機能しない
数倍の巨体を持っているからと言って、あの化け物じみた連中の猛攻に耐えれるわけもない。
膨大な魔力を駆使した強力な魔術を駆使すればどうだ。魔術を構築している隙きに殺してくださいと行っているようなものだ。
出鱈目にもほどがある。
「決めた」
「私が出る。貴様らはその好きに街を侵略しろ!」
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