第?話 同じ顔の見知らぬ男


 場所は変わって、見知らぬ草原地帯。

 睦月和馬、文月優夜、長月遼、神無月猫助の4人は謎の生物に追いかけられていた。



「んにゃーーーー!!! たぁすけてーーー!!!」


「なんだってこんなことになってんだァーーー!!??」



 先程まで睦月家でそれぞれやることをやっていたはずなのだが、気づけば草原の中に立っていて、ガオーと鳴いてる謎の巨大生物に追いかけられているという状況。

 比較的冷静な優夜と遼でさえも、流石にこの生物相手は危険だと判断して逃げ続けている。


 だが、しかし。問題はそれだけではない。


 彼らは今、『九重市ではない見知らぬ土地』にいるという状況がさらに混乱を悪化させていた。

 故に巨大生物に追いかけられている今、何処へ逃げるべきなのか、何処に逃げれば助かるのかが1つもわからない状況。何も無いという状況が、彼ら4人を襲いかかっていた。



「優夜! 何処へ向かうべきだと思う!?」


「僕に聞かれてもわかんないよ! 遼の意見は!?」


「同感!! 俺もお前と同じ―――」



 そこまで言って、遼の姿が不意に無くなる。

 どうやら彼は草と石につまづいて転んでしまったようで、巨大生物も立ち止まってすっ転んだ遼へと目を向けた。


 これはまずいと、和馬と猫助が彼を助けようと動き出した。石を投げて意識を別に向けさせようとしていたが、巨大生物は遼を覗きこんでいて見向きもしない。



「ちょ、ちょ、ちょ……俺じゃなくてあっちの和馬を食べてくれないかなぁ~~……!!」



 何やら生贄発言をしたが、彼の言葉は巨大生物には聞こえてても意味がわからないらしく。

 小さく尖った爪を伸ばし、遼の頭に触れて―――そこで、稲光と電流が巨大生物を貫いた。



「……は??」


「遼!!」



 すぐさま3人が駆けつけ、無事遼は救出。巨大生物は頭に電流が走った痕をつけ、倒れたまま動く様子がなかった。


 何が起こったのかと遼が巨大生物へ触れようとしたその瞬間、男の声がそれを遮った。



「ドラゴンの子供に触れんな、馬鹿野郎」



 その声は、和泉と同じ声。

 ああ、彼も一緒に来ていたのかと振り向いてみれば……そこにいた"彼"は、和泉に似て非なる者だった。


 顔つきや髪型はまさしく和泉と似ているが、半裸に黒のベストと黒のレザーズボン着用という大胆な服装。

 さらに彼はその手に2つの剣を携えており、どう見ても和泉ではあるのだが、違和感しかなかった。


 助けてくれた礼を言いたいのだが、4人はどうしてもギャップが凄まじすぎて言葉を失ってしまっている……。



「え、ええと……」


「ったく、お前らがドラゴンの遊び場に入ったからこんなことになったんだぞ。どうしてくれるんだ」


「え、いや、いじゅみ、どうしてって言われても……」


「そ、そうだぞ! だいたい、なんだよお前、その格好! 和馬でも着ねぇぞそんな服!!」


「? お前ら、何言って……」



 そこまで彼が声に出した瞬間。

 耳をつんざく雄叫びが辺りに響き、地面を揺らした。


 鳥の群れが何かから逃げるように飛び去り、動物達もパニックになって遠くへと逃げ出すその様子に、和馬はただ事ではないと察したようだ。


 彼もまた、厄介な出来事が起きたと呟き、2つの剣を構えた。



「おい、若造共よく聞け。今からめんどいのが来るが、うろたえずにその辺の木や岩の後ろに隠れてろよ」


「お、おい、何が起こるってんだよ」


「決まってんだろ。ガキが倒されて一番怒り狂うのは、誰だ?」


「……ま、まさか……」


「ご明察」



 そこまで言い切ると、彼は剣を振って風圧を生み出し、襲いかかってきた炎を真っ二つに切り裂いて4人を守る。

 尋常ではない、日常では有り得ないその光景は和馬達にとってはまさに『異様な光景』だ。


 幻想でしか語られない存在、ドラゴン。

 それが今まさに、目の前にいる。


 ドラゴンは倒れたままの子の姿を見てさらに声を大きく荒らげ、彼が犯人であると断定して襲いかかってきた。

 和馬達も同様の共犯であると判断したのか、全員を巻き込むようにブレスを吐き続ける。



「ちっ、団体扱いされちまったか……!」


「い、イズ君!」


「誰と勘違いしてるかは後で聞く! とりあえず、お前らは隠れてろ!!」


「ちゃんと後で説明してもらうからな!! 馬鹿野郎!!」



 色々と言いたいことはあるが、今は生き残ることを優先することとなった和馬達。


 果たして、彼の正体は―――

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