第3話 どうしてこうなった。


 和泉が睦月探偵事務所、もとい睦月邸に到着。チャイムを鳴らし、中から優夜が迎えてくれた。

 優夜の顔は表情こそは変わりはないが、内面ではかなり驚いているのが和泉にはわかる。


 既に睦月邸リビングには召喚された少女──アルムと、この家に住む住人たちが集まっていた。


 住人たち……睦月竜馬、その息子の和馬かずま、文月優夜、長月遼、神無月猫助かんなづきねこすけ、久遠響の6人。

 それぞれが座布団なりソファなりに座り、茶を啜っていた。


 しかし和泉がリビングに入るや否や、アルムはその顔を見て声を上げる。



「……イズミ兄ちゃん!?」


「……え?」



 素っ頓狂な声で和泉は返答してしまい、混乱はますます拡がった。

 和泉に妹がいたのか。和泉はいつこんな子と会ってたんだ。従兄弟の可能性は?等、色んな憶測が友人達から飛び交う。


 だが和泉ははっきりと彼女との関わりについて否定し、またアルムも彼との関わりについて否定する。

 追加で、アルムは和泉が従兄弟にそっくりだから驚いたことも伝えた。



「にゃー、まさかいじゅみそっくりな人がいるなんて……」


「和泉君のそっくりさんなぁ。ちょっと会うてみたいよな」


「ということは、和葉ちゃんがいじゅみのそっくりさんに会ったら『和泉兄ちゃん!?』って驚くんだよねぇ。僕、それも見たい」


「あ、ええなぁ。俺も見たい」



 すぐ側で聞こえる猫助と響のやり取りを無視して、和泉はまず遼に事情聴取。

 遼が行った召喚術でアルムが呼ばれたことについて、どんな召喚術を行ったか、その召喚術の出処はどこか等々、質問攻め。

 和泉は過去の事件でも似たようなやり取りをしているので、質問内容は割とスムーズに出てくる。


 ただし和泉が事情聴取する場合、一つだけ問題がある。

 和泉が極度のオカルト嫌いであり、直接遼の部屋にある魔法陣を見に行けないという一点。

 黒板に書かれていたとしても、部屋から持ち出されたという事実だけでも和泉は竦み上がってしまう。


 というのも、遼の部屋はオカルトマニアならば誰もが入りたがり、堪能したくなるような部屋。

 言い換えれば和泉のようなオカルト嫌いならばそこに近づくことすら恐れる場所。


 和泉が扱った今までの召喚術事件では、対象の部屋がどのような場所かも知らずに入ることがあったため、特段気にすることはなかった。(それでもビビりではあったが)

 だが今回の対象は、長月遼という友人。それもガチ勢のオカルトマニア。絶対に入りたくないと豪語出来るレベルの部屋の持ち主。やりかねない奴が本当にやってしまった。


 ……和泉の盛大なため息が、周りの人間の耳に届く。それを見た和馬が和泉に声をかけた。



「お前も大変だな。俺が代わるか?」


「いや、これは専門の方がいいだろ。召喚術はお前よりかは俺が詳しい」


「でもお前オカルトダメじゃん。オカルト系列は俺に回してるし」


「うぐっ……それは、その、お前が暇だろうからと」


「仕事持ってても回されるんだが???」



 和馬の的確なツッコミに、うぐ、と再び声を詰まらせる和泉。


 確かに和泉ははっきりとオカルト案件だとわかる仕事は、全て和馬に渡している。

 逆に和馬が召喚術系列の案件を受けた場合には和泉に渡されるので、相互関係としては申し分ないのだが。


 と、ここで。アルムが和泉と和馬のやり取りを聞いて、声を上げた。



「あ、あの。今回はその、怖いことと言うよりも……あたしの世界で起きたのが原因、だと思います」


「……アンタの世界? と言うか、すまない、事情聴取していたからアンタについてあまり聞いていなかったな」


「あ、えっと。あたしはアルム・アルファードと申します。よろしくお願いします」



 彼女の名を聞いた竜馬の顔が、少しだけ強ばる。その変化には、周りは誰も気づいていない。

 そして、竜馬は思わず和泉よりも先にある質問を投げる。



「……えっと、君の世界についても聞いていいかな……?」


「ええと、そうですね……。あ、剣と魔法の世界って言えばわかる、らしいです」


「……剣と、魔法……」



 竜馬はなかなか納得がいかないという顔をしているが、それでも数分もすれば深く考えることをやめたようだ。

 続けて、和泉が別の質問を投げかけた。



「さっき、アンタの世界が原因だって言ってたけど、それはどういうことだ?」


「あたしの世界には、【ゲート】というものがあります。世界と世界を繋ぐための、えーと、筒……みたいなものなんですけど。それがこちらで勝手に発動したからというか、なんというか……」


「つまりアンタはそのゲートを通って、こっちへやって来た。なら、帰ることも可能だよな?」


「そう、なんですけど……」



 そこまで言うとアルムの言葉が詰まる。彼女のその顔は、「なんて言えばいいか」ではなく「これを言ってもいいのだろうか」という顔の方が近い。しかもチラリと遼の様子を伺っている。

 どうやら彼のためを思って言わないようだが、それはそれ、これはこれと優夜が促してくれた。



「……実は……その、あの……か、帰れなくなりまして……」


「……はい?」



『帰れなくなった』。たった一つの言葉だけであたりが静まり返る。

 その後、遼が和馬の手によって土下座姿勢を強要され、頭を踏みつけられたのは言うまでもなく。

 もちろんアルムは遼の擁護のために、彼は悪くないと言い張る。



「あっ、ああ、えっと、遼さんは(ほぼ悪いんだけど)悪くないですよ! ただ、あの、タイミングが悪かったというかなんというか……」


「タイミング悪すぎなんだよねぇ!? 痛い痛い痛い痛い!」


「ああ、遼さーん!?」



 謝罪の言葉を受け入れてもなお、和馬は怒りから遼の頭を押し付けたまま。

 そもそも異世界から召喚、しかも還せないと来た。これから先起こりうる出来事を考えると和馬もやりきれない気持ちでいっぱいなのだ。


 そんな和馬の気持ちも汲み取りつつも、和泉はアルムや優夜たちに対し今後の話を語る。



 まず、アルムを帰す手段を確定させること。これは何よりも優先されることで、遼が使った魔法陣を再起動させる方向で考える。

 使用出来ない場合に備え、別の手段を考えておく必要があるのでそこはまた行動中に探ることになった。


 続いて彼女を匿う場所。見たところアルムは普通に外国人として通用できる瞳なので、竜馬曰くある程度のごまかしは効くだろうとのこと。

 ただし、外出時は誰かが常に傍にいることを条件としたほうが良い、ということで落ち着く。


 最後に彼女の行動範囲。先に述べたように外出時には誰かが常に傍にいることを条件としても、行動範囲に制限をつけたほうがいいのではないか、というのが響の提案。

 九重市は広いため、間違っても曰く付きの裏山へと迷い込んでしまえば搜索も困難になるため、制限は必要だと言う。

 これについては後日、危険地帯をピックアップした九重市マップを用意することで決着がついた。


 話し合いのメモを取りつつも和泉は何か思いつかないか、と全員に問いかける。その返答をしてきたのは、猫助だった。



「……雪乃おばさん入院中だけど……服、どうなるの?」


「あ」



 ……実は彼女たちにはまだ色々と話し合うことが、多いのかもしれない……。

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