第?話 苦しいのは僕だけでなく


「…………」


 とある日の夜、睦月邸の優夜の部屋。

 彼は眠りにつこうと何度もベッドに潜ったのだが、眠れずじまい。今は明かりをつけて、パソコンでネットサーフィンをしていた。


 本当なら父の下へ向かう事も出来るのだが、胸の苦しさが強くなることを考えるとこのまま部屋でじっとしている方がいいと判断。喉の乾きを潤すために麦茶を手元において、じっくり、自分だけの時間を楽しんでいた。



「……やっぱり、ない、か」



 小さくため息をついた優夜。彼はネットサーフィンの合間にも、九重市で起きた大きな事件を探していた様子。

 少しでもなにかの情報があればと思って始めたが、情報収集の類が少々苦手な優夜はこれ以上は無理だと判断し、そのままネットサーフィンを続けた。


 しばらくネットサーフィンで楽しんでいたが、ふと優夜はメッセージチャットに1件のメッセージが入っていることに気がつく。どうやら自分宛てのようで、ダイレクトメールが届いているようだ。



「……ん、あれ。メッセージ……」



 誰からのメッセージだろうと開いてみると、和馬からのメッセージだった。つい先程送られたものなのだろう、心配そうにするメッセージが送られていた。



《もう、大丈夫なのか?》



 会いたくても会えない、和馬からのメッセージ。不思議なことに、メッセージで心配される言葉を見ても、特に胸が痛む事はなかった。むしろこれは好都合だと気づいたのか、優夜はそのメッセージに答えを返した。



《うん、大丈夫。こうしてメッセージだと、会話は出来るみたい》


《それはよかった。機械のない世界の症状だから、これには手出し出来ないだろうと踏んでいたが、予想が当たっていたみたいだ》



 和馬はどうやら、ガルムレイという世界には機械がないという情報から、コンピューターで発信される文章類、ひいてはメッセージアプリ等と言った会話の出来るものを介して優夜に声を届けることが出来るのではないかと予測をしていたらしく、優夜が寝付けない今なら会話出来るだろうと思ってメッセージを飛ばしたようだ。


 優夜はそこまでの考えが頭に巡らなかったために、和馬をべた褒めした。彼がこうして機転を利かせてくれるのは今に始まったことではないが、どうにかして和馬と会話したいと思っていたので、とにかく彼を褒めに褒めた。



《よせやい。照れる》


《そういうところが和馬らしくて、やっぱり僕は》


「……っ……」



 好き、と入力しようとしたところで……どうしても胸が痛む。痛みに耐えきれずに途中で送信してしまったが、和馬はそこから続く言葉を理解してくれたようで、次のように言葉を返した。



《大丈夫。わかっているから》



 その言葉に対して、ありがとう、の一言も返すことが出来なかった。文章で見るのは問題ないが、返答の時にはどうしても胸を締め付けられてしまうようで、そのことをしっかりと和馬に伝えた。


 しばらく和馬からの返答はなかった。思考を巡らせているのだろうか、画面の向こうの彼は優夜から声をかけられるまではメッセージを送ってこなかった。



《ところで、和馬はどうして起きてるの?》


《資料が足りなかったんで作ってた》


《今日の依頼?》


《そう》


《なにかあった?》


《このあと遼が見に行くと行っていた》


《だから帰ってきてないんだ?》



 そういえば、遼の姿は見ていないなと気づいた優夜。夜は彼の楽しみの時間なのであまり何も言えないが、無理なことをしないでほしいな、と和馬と2人で愚痴を呟きあっていた。


 その合間に、優夜は一瞬だけ未来を視た。

 ――遼の瞳から、黒い涙が流れる光景が。



「……え……?」



 思わず手を止めて、辺りを見回す。何の変哲もない、自分の部屋が優夜の視界に映り込む。

 だが、たった今見えた光景が嘘とも言い難い。父の神夜が未来を見ることが出来ると聞いているため、今のも自身が未来が見たのではないか? と予測を立てるが……優夜にはまだ、《預言者プロフェータ》の発動条件などがわかっていない。


 そこで和馬にメッセージを送り、神夜の持つ力の発動条件などはどうだったか、と問いかける。当然話の内容が突然変わってしまったため和馬は困惑していたが、条件は『突発的だとしか聞いていない』という答えだけを返してくれた。



《じゃあ、いきなり発動するの?》


《らしい。……どうしたんだ?》


《和馬。今から言うことは、僕達だけの秘密にしてね》


《……わかった。お前がそう言うときは、俺たちの中の誰かだからな》



 そうして、優夜は1つの情報を渡す。

 これから先、遼の身に闇落ちの症状が現れる可能性があることを――。

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