第2話 呼びました。
時は和泉に電話が入る1時間前。
九重市のショッピングモールにて、3人の男たちがそれぞれに買った食材や必要道具を車に詰め込んでいる。
多人数で消費するものなのだろう、量が多い。
「ふぅ。これで頼まれたものは買い終わったかな?」
トランクを閉め、購入リストのメモを眺める男性──
彼の片手にはペンがあり、それで購入を終えたものにチェックを入れている。
「あ、いや、優夜から連絡入ってる。和馬のマウス用電池だって」
スマホを眺めながら、新しい購入品を伝える男性──
返答を返し、近くで買えそうな場所をキョロキョロと見渡す。
「ん、ほんなら100均にも行かなアカンね。ほかに必要なもんあるんやろか?」
遼の目線を近くの100円均一ショップへと向けさせている男性──
あっちだよ、と指をショップの方へと向けさせている。
「あ、俺、オカルトマニアックス買ってかなきゃ。今月号は特に読みたい内容なんだよなあ」
「ああ、そういや今日が発売日だったね。響君と遼君で買いに行くかい?」
「せやねぇ。俺が電池買いに行ったるから、りょーくんはマニアックス買っといで」
「ん、わかった。おじさんはなにか必要です?」
「俺は特に必要なものはないかな。車で待っておくよ」
「じゃあ俺ら、ちょっと行ってきます」
いってらっしゃい、と竜馬に促されて遼と響は2人は再び買い物に出かける。
その後2人は本屋と100円均一ショップに別れて買うものを買った。
遼は毎月購読しているオカルトマニア必見の雑誌、オカルトマニアックスを手にする。
今月号の特集は召喚に関するもので、西洋東洋の様々な形式の召喚術について書かれているようだ。
しかし、今ここで読むわけにはいかない。
読んだとしてその召喚について語れる人物が、今は別行動中で100円均一ショップにいる。
仕方ないので響には今月号の特集の内容だけを伝え、購入を終えてから戻ることにした。
戻る最中に響と合流し、竜馬とも合流して車で家へと戻った。
『睦月探偵事務所』と書かれた看板の建てられた、家へ。
睦月探偵事務所は睦月竜馬の家のある一画に事務所を作っており、そこで相談を受けている。
事務所用の物件借りるのが面倒だった、と探偵本人はいうのだが真実は定かではない。
事務所側の入口には『相談中』の看板が立てかけられていたので、静かに音を立てないように入ろうとするが、中から優夜がドアを開けてくれた。
「おかえりなさい。すみません、おじさん。買い物に出てくれてありがとうございました」
「いや、構わんよ。暇だったから丁度いい。和馬は仕事中か?」
「さっき依頼人がやってきて、ちょっと相談に、と言われたので」
「なるほどね。ってことは花壇が途中かな?」
「ああ、そうなんです。途中までだからやっておいて、って言伝が」
「ん、わかった。じゃあ夕飯までには終わらせておくよ。遼君たちも手伝うかい?」
「俺はオカルトマニアックス読むんで、自室にいますよ」
「俺は眠いから寝とくぅ。お夕飯出来たら呼んでなぁ」
あふ、とあくびを漏らした響を部屋に連れて行ってあげて、遼はそのまま自室に戻る。その手にはしっかりと、オカルトマニアックスが。
今月号のオカルトマニアックスは、いつもより厚めだ。そのせいか遼の心はウキウキと弾んでいる。
先月号はハズレだったのもあり、今月号により一層の期待を膨らませているのだ。彼は早速、とページを読み進めていく。
「ふーむ……だいたい知ってる奴が多いなぁ……。あ、これは初耳かも……付箋付箋……」
ポツポツと独り言を漏らしながら、自分が関心を受けたページには付箋を貼っておく。
これは後で響が見るときに、遼が重要だったと知らせるために貼っている。
書籍が半分近く進むと、あるページにたどり着いて遼の手がピタリと止まる。
なんてことはない、そのページには召喚術のやり方について載っているだけなのだが……。
「え……これなら、俺でも出来るんじゃね?」
好奇心とは、恐ろしいもの。
たった一つのやり方が載っているだけで、それが出来るからと手を伸ばしてしまうのだ。
「……確かチョーク、使ってないのあったよなぁ……」
ゴソゴソと棚を漁り未使用のチョークを探し出し、床を汚さないようにと黒板を棚の後ろから取り出し、準備万端。
書籍を読みつつ、魔法陣を描いて書かれていた呪文を読み上げてみる。
……もちろん、何も起こらない。
「……ま、そりゃそうだよなぁ」
この世界に召喚術なんてあるわけがない。それは、当然わかっていたこと。
期待しても仕方がないと気を取り直して、と立ち上がって椅子に戻ろうと振り向いたその時。
彼の後ろに重いものが落ちる音が聞こえた。
そして、女性の「きゃあっ!」という声が聞こえたのも同時刻。
音の正体を確認すべく、彼は振り向く。
「……えっ?」
魔法陣の上には、薄紫色の髪を持った女性が座っていた……というよりも落ちてきた格好そのままでいた、という方が正しい。
彼女は青い瞳で周囲を見渡し、遼を見つめ、また周囲を見渡している。
召喚されて軽く混乱している様子ではあるが、比較的冷静な様子だ。
「今のは……ゲート? でも、何かが……」
彼女はこんなにも冷静な様子だというのに、遼は驚きを隠せない。
それはもちろん、召喚術に成功してしまったという驚きもあるのだが、もう一つの事柄──どの悪魔を呼んだのか、と混乱している。
混乱のあまりに、遼は彼女にこんな質問を投げかけてしまった。
「あ、あ、あの。どちらの悪魔さんですか!?」
「……はい??」
女性は質問の意図はわかってはいるものの、何故そのような言葉が先に出るのだ?と困惑してしまった。
当然ながら、返答は「自分は悪魔ではない」の一言を返したのだが。
そして女性はゆっくりと立ち上がり、まずは落ち着いて自己紹介。
「あたしはアルム・アルファードと申します。えっと、あたしはあなたが想定しているような悪魔じゃないんです」
「えっ、悪魔じゃなかったら何?」
「何と言われましても……人間です、としか……」
言えないんですよねぇ、と少しだけ目を逸らしたアルム。
説明するにもかなり長い説明が必要のようで、彼女はここをどう乗り切ろうかと考え込む。
どう説明したものか……とアルムが悩んでいると、遼の部屋の扉が優夜の手によって開かれる。先ほどの大きな音について注意しようとやってきたようだ。
「ちょっと遼~、和馬が集中してるんだから大きな音出さない……で……」
扉を開けば、いつの間にか遼が女性を連れ込んでいる。
いつの間にいたのか? どうやってここに来たのか? 何故遼の部屋にいるのか? そのような本来なら流れるべき考えについては頭からすっ飛び、ただ『女性が遼の部屋にいるという事実』だけが優夜の頭の中にインプットされてしまい──
「……ひっ、ひびき、響君、響くーーーん!! りょ、遼が、遼が女の子をーーー!!」
「おわあぁ!? ちょっと待て、響にだけは、響にだけは言うんじゃなーーい!!」
大声を上げ、ドタバタと部屋を出て行く優夜と遼。
部屋に取り残されてしまったアルムは、オロオロと狼狽えるだけだった……。
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