第?話 邂逅


 和馬達が危険な状況なのは、今もなお変わらなかった。


 九重市ではない、草原の広がる場所。

 目の前には、幻想や創造の世界で語り継がれると言われるドラゴンの姿。

 そして、友人である和泉に瓜二つの男の姿……。


 一体何が起こっているのかさえわからない彼らは、ドラゴンの猛攻と謎の黒髪の男性の攻撃を一心不乱に避け続けていた。



「チッ、流石に俺1人だと全員は守りきれねぇ……なっ!!」



 男が天に手をかざして一瞬にして振り下ろせば、一瞬にして空に陰りが現れ天から雷を落としてドラゴンに直撃させる。鱗で覆われている分その威力は減衰しているようだが、効いていないというわけではなさそうだ。


 一方で、和馬、優夜、遼、猫助の目はまんまると開いていた。

 というのも、目の前で男が使ったのはまさしく『魔法』。現代社会ではゲーム内でしか使うことが出来ない、再現不能な技術に驚きの表情を見せている。



「にゃ、にゃにゃ、あれ、アレって……」


「ま、魔法……?!」


「ど、どういうことだよ……なんで和泉のやつが使えてるんだ!?」



 未だに彼の事を和泉だと判断している和馬達は、余計に混乱する。

 いつの間に使えるようになったのか、何故そんな技術が使えるのか、というか腕を振り下ろしただけで使えるってすごくないか、などなど言いたいことがいっぱいなのだが、それよりも今はドラゴンの攻撃から逃げるのに必死で何も言えなかった。


 炎を吐いて、爪を振り回して、尾を振り回して、ドラゴンは彼らの体力を確実に削ってゆく。慣れない土地に慣れない戦闘で振り回されてしまう和馬達は、限界が近づいていた。

 だがそんな中でも、男は2振りの剣を振るいながら雷を落としてドラゴンの勢いを減らし続けた。和馬達に傷を与えないようにするために、絶対に生かして帰すという勢いで猛攻を続ける。



「おらァ!!」



 2振りの剣でドラゴンの身体をえぐり、更にその傷目掛けて雷を走らせ肉の内部を焼き切る戦法を取りつつも和馬達に目線を送り、避難先を指示する男。彼は長引く戦いに終止符を打つため、ドラゴンの腹に刃を突き立てて剣をねじ回してトドメの一撃を与えた。


 耳から頭に抜けて貫くような凄まじい咆哮の後、ドラゴンは倒れる。まだ生きている様子だが、刃で貫かれた部分からは激しく血が流れ、死が近い様子だ。

 しかし男は剣を収めると、倒れたドラゴンに向けて水薬をぶっかける。それ以外は何もせず、ただただドラゴンを見つめていた。


 その様子は和馬達にも度し難いもので、すぐに男へと近づき問いただす。

 ドラゴンが起き上がった場合に備えてなるべく近づかず、少し距離を保ったまま。



「な、何してんだ……?」


「この国では襲われる場合以外では魔物の殺生は禁止なんだよ。だからこうして復帰を待ってるんだ」


「え、いや、和泉お前、この国って」


「……お前ら、マジで誰と勘違いしてんだ?」


「えっ、あの……如月和泉君、でしょ……?」


「…………は?」


「えっ」



 お前達何を言ってるんだ? と言わんばかりの目線を向ける男。

 むしろ和泉じゃなかったら誰なんだお前。と言わんばかりの目線を向ける4人。


 互いの視線が交差したかと思えば、むくりとドラゴンが起き上がる様子が和馬達の目に映ったため、一気に距離をとった。

 しかし男はドラゴンに向かい合うと、先ほど傷つけた部分をゆるゆると撫でて普通に会話をし始める。言葉については通じているような通じていないような、そんな雰囲気だ。



「お? 起きたか。まあなんだ、悪かったな、子供の遊び場に入って。ごめんな、腹ぶち抜いたりして」


「ぐるる」


「ああ、いや、アイツらにお前を殺す意図なんて無いよ。大丈夫、俺が言い聞かせておくから」



 友人と話すかのように会話をする男は、一言二言ドラゴンに言葉を投げるとそのまま見送り、和馬達にもう大丈夫だと告げる。

 恐る恐る男に近づいてもドラゴンが戻ってくる様子はなく、本当に帰すことに成功したようだ。


 ……が、男はやはり、和馬達の言い分がよくわかっていないようで。



「お前らが誰と勘違いしてるかわからねぇけどよ。俺はお前らの言う和泉というやつとは違うぞ」


「にゃ……でもかなり瓜二つ……」


「双子か? ってレベル」



 猫助と遼でわさわさと男の身体を調べてみると、和泉の身体には付いている右肩の弾痕や左腕の龍の刺青がない。半裸ベストだから隠しているのかと思っていたようだが、どうやら違うらしい。


 極めつけは優夜の質問だった。彼は和泉であれば必ず答えられるような質問には答えることが出来ず、それどころか和馬の料理についての問いには『美味しいもの』と答えていたため、彼が和泉ではないということが証明された。



「ということは……もしかして、キミは……」



 先程は戦闘中だったために全くたどり着かなかった答えに、冷静になった故に優夜はたどり着いた。


 アルムが最初に睦月邸に来た時の反応。

 彼女が言っていた和泉と顔が同じ従兄弟の話。

 そして、極めつけは……やはり和馬の料理下手を知らないこと。


 これらの話をまとめれば、目の前にいる男が誰なのかははっきりとわかる。



「……アルムに出会った、ってことは……そうか、お前らの世界にアルムがいるってことか」


「確か、イズ君と名前も同じ……」


「俺の名前はイズミ・キサラギ。……ややこしいようなら、ジャック・アルファードの方でも良いぞ」


「にゃ? 名前が2つあるの?」


「諸事情でな。で、お前らは?」



 自己紹介を終えると、イズミは何やら口元に手を当てて考える。彼らの名前が、つい最近やってきた男女2人組の名前にそっくりなのだそうで。

 恐る恐る遼がその名前を聞いてみると、イズミは『みかげかずは』という女性と『みなづきれいじ』という男性が先程こちらの世界に迷い込んだ、と答える。



「か、和葉ちゃんと玲二さん!!?」


「にゃ、にゃんれ!?」


「知り合いか? ……って、そう言えばあの子も俺のことをいずみ、って呼んでたっけな……まさかお前らの知り合いの和泉ってやつか?」


「えっと、キミをイズ君と間違えたのであればそうだね。……でも、そんな……どうして……」


「……。ともかく、知り合いだと言うなら会っておいたほうが良いだろう。ついてこい、案内する」


「いいのか? 俺ら、ある意味不法侵入みたいなもんだけど」


「この国はそういう異世界からの不法侵入者が多いから、特に問題ねえよ」


「それはそれとしてどうなんだ??」



 和馬達はイズミと共に、草原の中を突っ切って森の中の洋館へと向かう。

 4人の持っていたアルムに関する様々な情報を彼に共有しつつ、今彼らの身に起きていることの対処を取りながら……。

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