第24話 紅葉の好きな人


桃達はラーメンを堪能していた。

店長の作るラーメンはとても美味しかった。

モンクも早く一人前になり、一人でラーメンを作るのが目標だ。

すると、花が桃の耳元で周りに聞こえない声で内緒話をしてきた。


「 ねぇ、ねぇ。 モンクを今度デートに誘いなよ? 絶対上手くいくから。」


「 えっ!? 絶対無理だよ。 断られたら怖いし。」


桃はフラれたら怖いので、一歩踏み出す勇気がなかった。 見かねた花は尽かさず追い討ちをかける。


「 んじゃぁ、モンクが他の人に取られても良いのね? 私はそれでも全然良いんだけど。」


桃はその話を聞くと、とてつもない焦りと不安が押し寄せてきた。 絶対に取られたくない欲求。


「 決めた。 誘う! 」


単純な煽りに簡単に引っ掛かる。 単純で可愛い桃なのだ。


「 モンクさん。 ちょっと良い? 」


急に話をかける。 心臓は破裂する寸前。

だって誘うなんてことするのは、生まれて初めての経験なのだから。


「 ん? どうしたの? 」


呑気なモンク。 頭の中は仕事の事でいっぱい。


「 あの…… 今度の土日休みかな?

休みだったら、えっと…… 何処かにご飯でも

食べに行かない? 嫌じゃなければ……。」


モンクはビックリしていた。 女性から誘われたのは生まれて初めてだったのだ。


「 日曜休みだよ。 うん。 僕で良ければ喜んで。」


桃は幸せいっぱい。 頭の中でダンスを踊ってしまう程に。


「 やったぁ! それじゃあ、日曜にお出かけしましょ。 楽しみ♪ 」


「 うん。 僕も楽しみ。 ありがとう。」


女メンバーは初々しい二人を見て喜んでいた。


( いやぁーー!! デートじゃん。

羨ましいぞぉ。 桃の奴ーー。)


みんなは声には出さないが、嫉妬の炎がメラメラと燃えたぎるのだった。


店を出て桃は嫉妬される的になっていた。

一番疎く、デートなんて夢のまた夢だと思っていたのにまさか、桃がデートなんて……。


「 おめでとう。 桃。 楽しんできなよ? 」


「 ありがとう。 自分でもビックリ。

フォローしてくれて助かったぁ。」


花達もビックリしていた。

あの男性に興味が無く人見知りな桃が、あんなにも積極的に行動するなんて。

可愛くて優しい女の子が誘ったら、基本の男はイチコロであろう。 花達は改めて桃の生まれ持っている、スペックと優しさと行動力に驚かされるのだった。

桃以外のみんなは元気が無くなりつつ帰るのだった。


ラーメン屋店内では……。


「 鈴木君。 モテモテやないかい。 嫉妬しちゃうなぁ。 この! このぉ! 」


肘で脇腹を突ついてくる。 少し強めに。


「 全然。 ただの友達ですよ。 僕に興味ある子なんていないですよ笑。」


相変わらずの鈍感。 桃の気持ちなんて知るよしもなかった。

その会話を遠くからずっと聞いている海荷。


( モンクの癖に。 少し誘われたからってデレデレして。 とんだ思い違いに違いないわよ。

全く…… 性もないんだから。)


海荷は何故か、浮かれるモンクが気に食わなかった。 なので見てみぬフリをする。 女心はとても難しく、デリケートな問題だった。


モンクはバイトが終わり家に帰る。

何時もよりも足は軽く、スキップしながら帰る。

最近は本当に毎日が幸せ。 サムが来てからモンクの生活は、180度変わるくらいに違う物になっていた。


「 ただいまぁ。 サムちゃん。 美味しい高級モンブラン買って来たわよ♪ 」


明らかにテンションが違う。

これがモテキ到来した男の姿なのか?


「 怪しい。 晴斗君。 どうかしたの?

高級な物なんて珍しい……。 しかもモンブラン。

何があったんだぁ!? 」


サムにはバレバレだった。

モンクは隠し事が下手。 即バレ。


「 分かるぅ? 今度の日曜に桃ちゃんとご飯の約束したんだよね。 嫌ぁ…… 困ったなぁ笑。」


満面の笑みが溢れる。


「 良かったね。 よっ、モテ男!

イケメン! やるぅ! モンブランもう一個頂戴! 」


「 何でもあげるとも。 思ったんだけど、キミが来てから僕の人生は最高なんだぁ。

本当にありがとう。」


改めてお礼が言いたかった。 ありがとうと。


「 前も言ったけど、僕は切欠を与えたに過ぎないよ。 全ては晴斗君の力だよ。 自信持ちなよ。」


「 またまた大袈裟な事言って。」


二人は楽しくオヤツを食べた。

でもサムには気掛かりな事が……。


「 ムシャ、ムシャ…… ごっくん!

晴斗君。 紅葉ちゃんが好きなのに良いの?

紅葉ちゃんに知られたら不味くない? 」


モンクは急に落ち込む。 そしてゆっくりと話す。


「 ああ。 …… それなら良いんだよ。 紅葉ちゃんは好きな人居るからね。 仕方ないんだよ。」


サムは初耳だった。 モンクは滅多に女の子の話をしないから。

それにしても誰に恋しているのか?


「 そうだったの? 誰に!? 」


「 ん? …… 白夜。」


そうなのだ。 紅葉はあのクラスのイケメン、秀才帰国子女の白夜に恋していた。


「 あのキザな奴?? 何が良いんだろ? 」


「 分かんない…… 白夜に告白するのも時間の問題だよ。 前偶然聞いたの。

白夜が好きだって友達に話してるのを。」


モンクの悲しい出来事だった。

恋するのは毎回上手くはいかない。

とても難しいのだ……。

でもサムは話を聞いても納得しない。

サムには紅葉はモンクが好きなんだと見えていたから。 なんとなくの感なので、胸の内にしまうのだった。


次の日。 土曜日は学校が休みだがモンクは朝からバイトへ行っていた。

一人ではとても暇なサム。

お庭のハンモックでぶらぶらと揺れながらお昼寝。

そこへ隣の塀からぴょこった顔が出てきた。


「 おーい! サムちゃんや。 美味しいクッキー焼いたんだけど食べにおいでよ。」


ん? クッキー? ムクッと起き上がる。


「 お邪魔しましょうか。」


直ぐに紅葉の家へ。 部屋はとても綺麗。

可愛いカーテンに小物が沢山。

モンクの部屋とは大違い。


「 綺麗だね。 良い匂い。」


「 またまたお世辞言って。 クッキー食べて。

そして感想聞かせてよ。」


沢山頬ばる。 焼き立ての香ばしい匂いに、サクサクとした歯ごたえにチョコが練り込まれている。

最高の一品だった。


「 もぐもぐ…… 美味いよ。 最高!! 」


「 良かったぁ。 誰にあげても大丈夫ね。」


サムはモンクの話を聞いて、気になって仕方がなかったので聞いてしまう。


「 紅葉ちゃん。 好きな人居るの? 」


「 ゲホッ! ゲホッ! いきなりなに?

ビックリしたぁ笑。 居るよぉ♪ 」


やっぱり噂通り。 事実だった。


「 それって白夜って人? 」


「 何で知ってるの?? サムには言うけどそうなの。 ずっと片思い中。 この前やっと学校に海外から帰って来たから、告白しようか悩んでるの。

凄いモテるから笑。」


かなり好きな様子。 モンクの予想通り告白寸前。


「 ふーん。 何で好きなの? 」


素朴な質問だ。 単純に気になる。


「 実はね。 小学生一年生のときにね、夕方ニワトリさんのお世話してたらカギが閉まって出られなくなったの。

暗くて怖くて、周りも全然見えなくてずっと泣いてたの。 そしたら必死に外から抉じ開けようとしてくれてね、ずっと私に優しく励ましてくれたの。

私もパニックってたから、全然覚えてないんだけど凄い嬉しくて。

それで直ぐにカギを持って戻って来たの。

カッコいいでしょ?? 」


正直子供なのに格好良かった。 さすがは白夜。


「 カギ開けてくれて、嬉しくて抱きついちゃってね。 そのときから忘れられなくて。」


「 格好良いねぇ。 男だねぇ。

晴斗君はそのときは何してたの? 」


「 一緒に帰る約束してたのに、学校にもう居なかったの。 勝手に帰っちゃったのかな?

次の日ね、風邪引いて休んでたの。

水浸しになって風邪引いたんだって。

モンクンらしいよね笑。」


サムは苦笑いするしかなかった。

もしもその場面にモンクが居たら、白夜とは立場が逆転していたのだから……。

少し悔しいサムなのでした。



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