第21話 今日より明日の自分


二人はモンクが起きるまで、ご飯を作り待っていた。 モンクが気絶している理由は落ちた衝撃もあるが、もう一つあった。 それは、「 能力 」の使い過ぎ。 慣れない能力を連発した事により、脳が活動限界を越えてしまっていた。 それにより、今は人間の体の本能によって眠りについていた。


「 ん? ここは? 」


モンクがゆっくり目覚めた。 海荷は料理を止めて、直ぐに駆け寄り抱き締めて来た。


「 モンク!! やっと目覚めたのかよ!

心配させやがって。」


海荷は心配で、心配で、仕方がなかったのだ。


「 海荷ちゃん? 苦しいっよ。 どうしたの? 」


モンクの記憶は、少しだけ飛んでいた。

海荷が起きた事を説明すると、やっと思い出した。


「 そうだった。 必死になりすぎて、疲れて気絶してたみたい笑。 海荷ちゃん? もう気にする事何か何もないよ? 僕やサムが付いてる!

今日の自分より、明日の自分を好きになって欲しい。 自分を嫌いになんかならないで。 だって、僕達は友達なんだからね? 」


「 うっせぇよ……。 もう、自殺なんかしねぇから安心しなよ。」


海荷は凄く嬉しかった。 ここには、こんなにも暖かい友達が居るのだと分かったのだから……。

サムも台所から、モンクの所に来る。


「 おはよう! 相棒。 大活躍だったね。」


「 うん。 凄い疲れたよ。」


二人はハイタッチをした。 最高の親友。


「 相棒に良い話と悪い話がある。 どっちから聞きたい? 」


嫌な予感。 モンクは何となくは想像出来ていた。


「 嫌な話から。」


「 良い根性してるねぇ! 悪い話は、海荷ちゃんに僕の素性や能力が全てバレました笑。」


最悪だ……。 予想が的中! 助ける前から覚悟していた事だった。


「 良い話は、また一人僕達と秘密を共有出来る仲間が出来たんだよ。 嬉しいね。」


嬉しい事だけど、海荷が?

この話を、ギャルと共有するのはちょっと……。


「 あはは…… それは嬉しいね。」


「 何嫌がってんだよ! 今日からは同じ秘密を、握る仲間だな。 宜しくなぁ♪ 」


苦笑いするしかない。 モンクは愛想笑いを浮かべた。


「 そんじゃあ、ボンクラ共。 ご飯にするか? 」


テーブルには、すき焼きやサラダやポテトやハンバーグ。 子供の大好きメニューてんこ盛り。

サムのお願いで作ったメニューなのは、直ぐに分かった。


「 美味しそう。 いただきまぁす! 」


三人ですき焼きを食べる。

声を揃えて。


「 美味しい♪ 」


お肉は柔らかく、すき焼きの味付けも最高。

口の中でとろける。 まるで、黒毛和牛の……ん??


「 ちょっと待ってよ? このお肉なに? 」


黙りまくる二人。 サムは重い口を開く。


「 …… 相棒。 その事は忘れよう。」


「 そうだよモンク。 忘れなよ。 男じゃないなぁ。」


直ぐに、周りを探すとレシート発見!

値段を確認すると……。


「 4000円!? 何じゃこりゃあ!!

このお金は食費から払ったの?? 節約してた食費が、これでパーになったじゃないか。」


二人は黙々とお肉を食べて誤魔化す。


「 もう焼け食いだ! 僕も食べるぞぉ。」


モンクは二人に負けずに、お肉を口に放り込む。

食費の事は忘れて。


生きていれば、辛い事も沢山ある。

だけど、辛い事ばかりではない。

その先には必ず、楽しい事が待っている。

死にたくなったら、まず考えて欲しい。

今の感情に流されるのではなく、ゆっくり落ち着いて考えて欲しい。 自分は良くても、周りの友達や家族は自分が死んだ事により、苦しみ、悲しむであろう……。 自分だけの目線ではなくて、周りの目線や広い視野を持って欲しい。

そうすれば、少しは考えが変わるかも知れない。

一人で分からないときは、友達や家族と相談して話し合って欲しい。 あなたの命はそれだけ、大きな、大きな、価値があるのだと再確認して欲しい。


そうすれば今日よりも、明日の自分をもっと好きになれる。 そう信じている。


三人は楽しい、楽しい食事を楽しんだ。

海荷には死にたい感情なんか、もう全然無くなっていた。 もう、一人ではないのだから。



次の日。 モンクはお休みした。

体力の消耗や体の痛みもあり、ヘロヘロだったのだ。 たまには、休みも良いものだ。

少し海荷が心配だけど、もう大丈夫! 昨日の様子だと、絶対に早まったりなんかもうしないだろう。


モンクは部屋でゆっくり寝ていた。

サムは一階で、一人寂しく昨日のすき焼きの余りでうどんを食べていた。 海荷の教えだった。


「 美味いなぁ……。 当分は、貧乏生活だろうけど……。 美味いなぁ。」


現実逃避しながら、ご飯を食べていた。

ご飯は美味しかった。

一人寂しくご飯を済ませ、海外ドラマを見る。

でも、一つだけ心残りがあった。


海荷のお金の事だった。 モンクのお金は大切な給料だっけど、どうにかなる。 海荷のお金は、大切な食費や一人暮らしの為の資金。 モンクの様にはいかない。 直ぐに返して貰えるから、貸したのだが騙されたので返して貰えない。 海荷は彼氏を信用していたから。


サムは動いた。


ゲームセンターに海荷の元彼は居た。


「 最近、良い収入があってボンボンだぜ! 」


本命の彼女と、楽しくゲームをしていた。


「 本当にこんなに騙して良かったの?

さすがにやり過ぎじゃない? 」


「 バカ! 騙されんのが悪いんだよ。」


二人は別れ元彼はゲームセンターを出て、少し暗い裏道を進み駅前に向かう。 次は何にお金を使おうかと、色々考えていた。


「 キミは最低な人間の様だね。」


目の前にサムが現れた。


「 何だこの外人は? 」


「 海荷ちゃんの大切なお金を返すんだ。

キミには、泡銭でも彼女には大切なお金なんだよ。 返してくれないか? 」


慌てる元彼。


「 何言ってんだよ。 もう、貰ったんだからどうしようと勝手だろ? 借用書も書いてないから、法でも裁けないんだよ! 分かったら、消えてくんない?」


最低な人間だった。 分かっていたけど、虫酸が走る衝撃があった。


「 法かぁ……。 なら、私が裁く! 」


指を鳴らすと、元彼は遠くのフェンスまで飛ばされる。 凄いパワーにより、身動きもできない。


「 痛ぇっ…… 何だこれは? 」


フェンスに突然ぶつかって、何がなんだか分からなくなっていた。


「 良い勉強になったよ。 やっぱり、人間の中にも良い人間と悪い人間がいる。 相棒の様に、何でも言葉で解決するのは難しいね。 今回は目に沁みたよ。 今回だけは、私は許せなくてね。」


いつものサムとは様子は違う。

自分の事は、「僕」と言う彼が今は、「私」 になっていた。 この話し方が、本当のサムなのかもしれない……。


「 何なんだお前は? 」


「 ん? 通りすがりの宇宙人だよ? この指を鳴らせると、どんな事も出来るんだよ。 例えば。」


パチンっ!! また指を鳴らす。

すると、元彼の髪の毛は全て抜け落ちていた。


「 うわぁぁぁあっ! 何なんだこれ? 」


「 だから言ったろ? お金を早く返せって。」


その目は冷酷な目だった。 怯えまくる元彼。

これが、サムの怒りだった。


「 ごめんなさい!! もう、結構使っちゃって。

全部は無いんです。 許して下さい! 」


「 だろうね。 なら、残ってるお金を直ぐに返しに行け。 足りない分は、海荷ちゃんの銀行でも聞いてちゃんと振り込んでもらうぞ。」


元彼は震えまくり、足もガタガタしてまともに立てない。


「 分かりました。 バイトしてちゃんと返します。

だから、お許し下さい……。 」


土下座をして、頼み込む元彼。


「 強い者には、こんな姿を見せるとはね。

醜いね。 お金を返しに行って、謝ったら二度と彼女の前には現れるな? 返済を怠るなよ?

私は宇宙人だから、何処に居ようが! 」


また指を鳴らそうとすると。


「 分かりました。 二度としません! だから、お許し下さい!! 」


サムは納得すると、目の前から姿を消していた。

夢の様な出来事だったが、夢ではない。

元彼は直ぐに、海荷に連絡を入れ今持ってるお金を返す段取りをする。 宇宙人に殺されたくないから。


少しだけ、サムの感情が高まった日だった。

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