第20話 命の重さ
ゆっくりと落ちて行く海荷。 海荷の目には、焦るモンクが見える。
「 まだ未完成でも、ここで出来なくていつやるんだよ! 」
( グラスホッパー )
この能力を使えば、一瞬で移動が出来る。
モンクは水溜まりを見つめ、一瞬でその水溜まりに移動する。 その要領で、一歩、一歩と移動する。
凄い速さで、海荷の所へジャンプして行く。
この能力の弱点は、水溜まりから水溜まりに、テレポートしているようにジャンプ出来るが、慣れていないと距離が遠くまで移動出来ない。 モンクはやっと出来た初心者だから、短距離ジャンプしか出来ない。 それでも高速でジャンプして海荷の元へ。
( いいぞ! この調子で行けば間に合う。)
そのスピードは、人知を越えた速さ。 海荷は一瞬の出来事に目を疑う。 そして、モンクは落ちる海荷に手を伸ばす。
「 海荷ちゃん! 手を伸ばすんだ! 」
海荷も
( そんな……。 ウチ死んじゃうのか……。
嫌だ!! )
「 助けてえええ!! 」
海荷は大きな声を出し、上を見つめながら、凄いスピードで落ちて行く。 自殺しようとしていたが、いざ死ぬと言う時怖くて仕方なかった。 事故で落ちてしまったが、死にたくなくて助けを求める。
( させるか! 僕の大切な友達なんだ。
神様…… どうか、どうか海荷ちゃんを助けられる力を下さい……。 グラスホッパー!! )
モンクは、マンションの壁をつたって流れる水から水へジャンプして行く。 グラスホッパーの応用だ。 一度も出来た事はなかったが、助ける為に必死だった。 凄いスピードで追い付き、海荷をキャッチして抱き締めながら落ちる。 二人分の体重を支える程、精度がまだ良く無くて落ちる速度は変わらない。 壁に足をくっ付けて滑り落ちて行く。 このままでは地面に叩き付けられる。
「 海荷ちゃん。 しっかり掴まっててね? 」
モンクの集中力は凄まじく、どんどん落下速度が落ちて行く。 それでも止められなくて、海荷を抱えながら背中から地面に落ちてしまった。 壁を滑って落ちていた為、かなりスピードは下がり地面が草むらだったお陰で、二人の命は助かった。 だが凄い衝撃の為、モンクは気絶してしまった。
海荷も草むらに落ちて、一瞬気を失ったがモンクが抱き締めながら、落ちてくれたのでモンクにしか衝撃はほとんど無かった。
「 痛い……。 生きてる。 何が起こったの?
モンク?? 夢じゃないの? 」
海荷は一瞬の出来事で、モンクが助けようとする光景は夢かと錯覚してしまう程だった。
倒れてるモンクを見て、やっと現実だったと気付くのだった。
直ぐにモンクに駆け寄り、涙を流す。
「 モンク! 何で助けたのよ! あんたが死ぬ所だったじゃない! バカだろ! 」
ゆっくり目を覚ます。 まだふらふらだったから、起き上がる事が出来ない。
「 僕の大切な友達だよ。 絶対に死なせたくなくて……。 君は一人ではないよ? 少なくとも僕やサムは、味方だよ。 だから、生きよう? 今死んだら、これから来る楽しい事や幸せが味わえないんだよ。 そんなの勿体ないよ。」
その言葉は、モンクの気持ちそのモノだった。
今の海荷には、その言葉はどんな言葉よりも嬉しく、生きる原動力になる。 大粒の涙を流すが、雨と一緒に頬をつたって、寝ているモンクに落ちて行く。
「 あんたは本当にバカ過ぎ……。 大バカよ。」
本当はモンクに感謝しかなかったが、恥ずかしくて素直にはなれない。 でも、勇気を振り絞りこれだけは伝えたい。
「 モンク……。 ありがとう。」
その言葉を聞いて、安心したのかまた気絶してしまった。 海荷はしゃがみこみ、モンクが起きるのを待つ。
「 ここじゃ風邪引いちゃうね。 僕達の家に行こうか? 」
そこに現れたのはサムだった。
「 えっ!? サム? どうしてここに?? 」
「 そんな事より、行こうか? 」
サムは、モンクの連発して発動する能力に反応して、何か危ない予感がして直ぐに向かって来たのだ。
サムは指を鳴らすと、そこはモンクのリビングに三人は居た。
「 えっ?? どうなってんの? 」
「 訳はちゃんと話すから、シャワー浴びて来な? 急ぐ話じゃないんだから。」
その言葉に甘えて、シャワーを浴びにお風呂場へ。 シャワーを浴びながら、不思議な事の連発を考えていた。
( 今思えば、モンクはどうやってウチを助けたのよ? 一瞬で移動して、手を掴める所に移動したり、壁をつたって降りてたし。 あの高さから落ちたら、あんなに遅く落ちてないし。 どうなってんの? )
腑に落ちない事が多かった。 シャワーを浴び終わり、疑問を持ちながら外へ出ると、バスタオルとモンクのダサイ服が用意してある。 少し大きいが、濡れた服よりはマシだった。
服を着て、リビングに入ると着替えさせてもらったモンクがまだ眠っていた。 衝撃がまだ残っているようだった。
「 晴斗君は大丈夫だよ。 少し気を失ってるだけだから。 頑張り過ぎたのかな。」
眠っているモンクを、優しく見つめるサム。
「 良かった。 本当バカだよね……。 ウチの事助けなかったら、こんな目にはならなかったのに。」
「 海荷ちゃんが、迷惑かけたんだね。 晴斗君はお節介な、おっちょこちょいマンなんだよ。 そして、誰よりも優しい。」
そう言うと、サムは海荷の考えていた不思議な出来事の真相を話す事に。 これは、絶対にバレてしまってるからバラされたくないから、話す以外方法は無かった。 海荷を信用していたのもある。
「 僕は宇宙人なんだ。 驚いたかい? 」
海荷は呆れる。 そんな訳がある筈ない。 そう思うしかなかった。
「 信じれないよね。 じゃあ、ほいっと! 」
近くに置いてあった、ボールを宙に浮かせる。
サムには雑作もない事だった。
「 えっ? なにこれ? トリックでもあんの? 」
「 僕の様な宇宙人には、簡単な事だよ。
基本何でも出来るよ。 ここまで、二人を運んでテレポートしたのも僕の能力だよ。」
信じられないが、目の前の光景を見ると信じるしかなかった。
「 信じるわ……。 じゃあ、モンクも宇宙人? 」
「 晴斗君は違うよ。 僕が一人ぼっちだった所を、助けてくれたんだよ。 」
色々な事があり、パニクる海荷。 仕方がない。
「 でも、モンクも変な能力使ってたよ?
どうなってんの? 」
「 僕と人間の構造は、そんなには差はないんだよ。 だから、力の使い方を僕は教えただけなんだよ。 切欠を与えたに過ぎない。」
全然信じられない。 でも、仕方なく納得した。
すると、話は進んでいった。
「 晴斗君の記憶を覗いたから、何となく何があったかは分かったよ。 大変だったね。」
「 ……うん。 でも、死ぬつもりなかったんだ。
いざ、落ちようと思ったら怖くて。 必死に口論してたら、足を踏み外して落ちちゃったんだ。」
サムは静かに頷く。 海荷は深く落ち込んでいた。
「 そうだったんだ。 晴斗君は海荷ちゃんと友達になれて、凄い喜んでたんだよ? だから、必死に助けたんだと思うよ。 大切な友達の為に。」
海荷は単なる友達だろ? くらいにしか思っていなかったが、モンクには特別なものだった。
「 本当なんなんだろうね。 不器用って言うか、何て言うか。 ウチは最悪な友達作っちゃったな。」
少し涙をこらえながら、ニッコリ笑う。
そんな事も知らず、モンクはぐっすり眠っている。
「 友達になった事を後悔してね。」
サムもニッコリ笑う。
「 海荷ちゃん。 僕が宇宙人だって事と、能力の事は他の人には話さないでもらえる?
さすがに大変な事になるから……。」
「 言わないよ。 面倒だし。 誰も信じないよ。」
ホッとするサム。 すると……。
ぐぅ〜〜っ!! サムのお腹が鳴る。
「 あはははは! 相変わらずだね。 ウチもお腹すいたよ。 冷蔵庫の残り物で、何か適当に作るよ。」
「 わぁーーいっ! 海荷ちゃん最高。」
海荷はフラれたショックや、騙された事を忘れていた。 今はここでの小さな幸せのお陰で、思い出せなかった。 二人と居ると、何故かどうでも良くなってしまう程に、楽しく幸せに感じた。
モンクが起きるのを待ちながら、二人はご飯を作るのだった。
傷を癒すのは時間ではない。 暖かい、優しい友達の存在ある。 友達が居れば、どんな困難も乗り越えられるように感じるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます