第42話 願いを


モンクと海荷は電車で移動し、山の近くに到着していた。 二人で駅で一休みして下山先に向かう。


モンクのクラスを乗せたバスは走り出し、山を下山し始めていた。

その山はとても大きく、傾斜がとても高くブレーキを踏まないとスピードが出過ぎてしまう山道だった。 運転手が山道を下りて行くと、段々とブレーキの効きにくくなってくる。


( ん? おかしい…… 。 ブレーキが段々鈍くなってきた。 少し調べたいけどここの山道はいきなり止まる事は出来ない。 ブレーキオイルはほとんど満タンの筈なのに…… 。

もしかして抜けてるのか!? )


運転手に不安が過る。 顔は真っ青になる。

ここの山道はとても長く、30分以上下山には掛かる。 ブレーキが効かなくなれば直ぐに、ガードレールから飛び出して地上に叩き付けられるだろう。

運転手は直ぐに本部へ連絡する。

出来るだけブレーキを使わずにアクセルはほとんど踏まず、ブレーキオイルの消費を減らした。

いきなり止まれば後ろから来る車とぶつかり、大事故になる事は一目瞭然だった。


バスの中は何も知らずに盛り上がっていた。

だけど運転手は仕方なく、現実をみんなに言わなければならなかった。 怖くて体は震える。


「 皆さん! 聞いて下さい。 このバスは只今ブレーキがほとんど効かなくなってしまいました。

本当に申し訳ありません。 下山に最善を尽くしますが、とても絶対に安全とは言えません。

本社に今緊急連絡を致します。 なのでシートベルトを締めて絶対に動かないで下さい。

私は絶対に諦めません。 安心していて下さい。

私の命にかえても守ります…… 。」


バスの中は慌てまくり、色んな声で騒ぎたてる。

こんな傾斜の高い所でブレーキが効かないのは、死を覚悟してしまうのは子供でも分かる。

心が弱い人は泣いてしまい、運転手のせいにして激怒する者も現れる。


そこで椿先生が立ち上がる。

足は震えているが生徒を守るのが担任の役目。


「 みんな! 静かにしなさいっ! 絶対に大丈夫。

運転手さんを信じましょ。 直ぐに助けも来るから大丈夫。 絶対に。 パニックになるのが一番危ないんだから。 だから安心しなさい。 」


生徒達は静かになるが不安しかない。

バスは地獄行きにしか見えなかった。

委員長は恐怖しか無かったが周りに気をかける。


「 みんな落ち着いて。 絶対に大丈夫だから。 」


伴と白夜はこの事態を重く考えていた。


「 白夜。 俺は運転手がブレーキ使わずに曲がるのはこんな大型車では、運転手の力だけじゃ無理だと思う。 だから少しでも手伝って来る。 」


「 ああ。 任せた。 力はお前に勝てる奴はいねぇからな。 」


伴は直ぐに運転手の元へ。

伴の予感は的中していた。 運転手さんも曲げるのに相当負担が掛かっていた。

伴の助けにより少しは緩和され楽になる。

運転手は本部に緊急連絡を取ると、山なのもあり警察が助けに来るのも時間が掛かる。

ジャッカルの仕掛けた罠は絶大な威力だった。


偶然ニュースでヘリコプターが近くを散開していた。 バスの動きがおかしい事に直ぐに気付く。


「 ねぇ? あのバスの運転変じゃない?

直ぐに撮って! 特ダネよ。 」


記者やテレビとは残酷な物だ。

当事者は頑張っていても、野次馬のようにネタにして来る。 本当に心配してるのかも知れない。

バスの中の家族へのモラルが足りないようにも見える。 映像は家族には地獄の映像なのだから。

この映像が少しでも助けになれれば、テレビ様々なのだけれど。

直ぐに緊急ニュースでテレビで放送される。


「 緊急ニュースです。 只今、この山道をバスが蛇行運転をしています。 ブレーキが効かないようにも見えます。 一体どうなってるのでしょうか!?

ヘリコプターから映像をお送り致します。 」


テレビを見ているお茶の間に電撃が走る。

直ぐにネットへ拡散されてパニック状態。


紅葉も友達とお互いを安心させるように話す。


「 大丈夫…… 大丈夫なんだから。 絶対に。 」


紅葉は怖くてたまらなかった。


モンクと海荷はタクシーに乗ろうとしていると、周りのざわつきを感じる。


「 なんだろう? みんな凄い騒いで。 」


モンクは周りの人に聞いてみた。

愕然とする。 もしかしたら自分のクラスのバスなのかも知れない…… 。 恐怖で足は震えてしまう。


「 海荷ちゃん…… 。 僕達の乗るバスって何号車かな? 分かる? 」


「 ん? 17号車じゃなかった? 」


周りの人に聞いたバスの番号と同じだった。


「 そんな…… 。 絶対嘘だ。 何で…… 。」


モンクは直ぐに海荷へ事情を話す。

海荷も涙を流し膝をついてしまう。


「 絶対嘘に決まってる。 そんな訳ないわよ。

もし本当なら助かる訳ないじゃない。 」


海荷は周りを気にせず大きい声で泣いてしまう。

モンクは海荷の背中をさすって落ち着かせる。

すると、目の前に突然巨大な男が現れる。


「 やぁ。 鈴木晴斗。 初めまして。 」


ジャッカルだった。 モンクに接触してきた。

モンクはいきなりの事に頭の中で整理がつかない。


「 あの…… 何処かでお会いしました? 」


「 私はクロニクル星人だ。 これで分かるだろ? 」


サムと同じ宇宙人だった。

モンクは呆気に取られてしまう。


「 君の家に居るサムは私達の仲間でね。

ここに思い入れが強くなりすぎたみたいだ。

人間とは醜い。 私利私欲の為なら何でもする。

醜い生き物だ。 君はどうする? あのバスは間違えなく地上へまっ逆さまに落ちる。

私が仕掛けた。 」


海荷は怒りが爆発する。

立ち上がりジャッカルに食い掛かる。


「 ふざけんなっ! 何があったかは知らない。

だからって八つ当たりすんなよ!

最低だよ……あんたは。 」


「 知った事か。 人間への思い入れなんてない。

晴斗君。 君は能力を教えてもらったね?

君はどうする? 助けに行くかい?

それとも見て見ぬフリをするかい?

私には結果は見えているが。 」


モンクは立ち尽くしてしまう。

情報が整理出来ない。 理解も出来ない。

モンクは恐怖しかなかった。


「 人間よ。 恥ずべきではない。

弱い生き物なのだから。 だから自分の弱さを恨むがいい。 分かったな? 」


ジャッカルが帰ろうとする。

モンクは口を開く。


「 当然助けに行くよ? 決まってるだろ? 」


ジャッカルと海荷はビックリする。


「 おい、分かってるのか? 人間なんか少し能力が使えるようになってもたかが知れている。

死ぬだけだぞ? 」


「 人間をお前の物差しで簡単に計るなよ。

僕は可能性があるなら絶対に諦めない。

見てろよ? 人間の可能性を。 」


ジャッカルはモンクを甘く見ていた。

海荷はパニックで上手く話せない。


「 なら良いだろう。 抗って見せろ。

出来る訳がない。 もしかしたらもう落ちてるかも知れないかもな。 」


ジャッカルはゆっくり消えて行った。

海荷は直ぐにモンクに駆け寄る。


「 あんたバカじゃないの? 出来る訳ない。

死ぬだけだよ。 無駄死にだよ。

だから…… 仕方ないけど諦め…… 。

私達には何も出来ないから、 ねっ? 諦めよ? 」


モンクは海荷の言葉を聞いても全く動じていない。 もう決心が固まっていたから。


「 動けたのに動かなかったら後で絶対後悔する。 だから僕は行くよ。 ごめんね…… 。」


海荷は怒りモンクを止める。


「 今までとは次元が違うんだよ?

…… ただの自己犠牲だよ! あんたはいつだって自分の事は後回し。 バカだよ!! 」


海荷はモンクの今まで思っていた事をぶつける。

モンクの事が大好きだから必死に訴えた。

海荷は涙止まらない。


「 前にも言われたよね…… 。 僕もずっと自己犠牲だと思ってたよ。 でもそうじゃなかった。

僕は自分がやりたいからやってるんだ。

僕の欲望の為に。 相手の為なんかじゃない。

僕が僕の為にやってるんだ。

だから自己犠牲なんかじゃない。 」


モンクは今までの自分の行動は無駄なんかじゃないと思っていた。

後悔なんてもう何も無かった。

モンクの目は真っ直ぐ海荷を見詰めていた。


「 ふざけんなっ! 勝手な事ばっかり言うな!

ウチにはあんたが必要なんだよ。

だから、だから…… 生きて、」


海荷が必死に訴えていたときに、いきなりモンクは海荷を抱き締めていた。


「 ありがとう。 僕の事を気にしてくれて。

友達になれて本当に良かった。 ありがとう。 」


海荷は当然の出来事に声が出なかった。

海荷が好きだった海外ドラマのワンシーンだった。

モンクは海荷を落ち着かせる為にやっていた。


「 うぐ…… ひっく! 本当に、本当にボンクラ野郎なんだから。 」


海荷は抱き締められながら涙が止まらなく、モンクの背中に涙つたっていた。


「 僕の為に泣いてくれてありがとう。

行ってきます…… 。 」


モンクは能力を使い飛んで行った。

海荷は膝を地面に着けて泣いていた。

これからどんな事が起きるか分かってしまう海荷だった。 ただ信じて願うのだった。

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