第37話 モンクは二年生


モンクは二年生になっていた。

彼女は出来ては居ないが、プライベートはバイトにしても友達にしても最高だった。

バイトでは頼られる存在。 バイトのおばさんには可愛がられ、おじさん達にはいじられる。

店長もモンクが大好きでたまに出かけるくらいの仲になっていた。

二年生になってもクラスは変わらず。

モンクは殆どの人と話せる程に成長を遂げていた。

クラスの皆もモンクの事を少しは分かってくれて、いじめたりバカにする人は居なくなっていた。


学校に行く前にパン屋へ。

サムとのパン屋は鉄板になっている。

少し違うのはモンクママと三人で行く事も増えた。

モンクは家でも寂しい事は無くなっていた。


「 あんた達パンばっかり食べ過ぎじゃない? 」


「 サム。 君は飽きたりしたかい? 」


サムは呆れたような表情をして答える。


「 ご冗談でしょ? あのパンは飽きる訳ないよ!

あの店長さんも、もうあんなに老けてるのに髪型ばっかりイメチェンして。

あんな店長他には居ないよ。 」


褒めているのか、けなしてるのか分からない言動だった。 店内に入りパンを選ぶ。


「 いらっしゃい。 おうっと。 奥さん。

今日も来てくれたんですか? 嬉しいねぇ。

メロンパン出来立てですぜ?? 」


「 おはようございます。 じゃあ頂きますわ。」


店長はモンクママが綺麗なので来るのを楽しみにしていた。 だから来る事を信じてお洒落をして、スーツで仕事をしていた。 お洒落なのだろうか?

小声でモンクママは二人に話をかける。


「 ねぇねぇ。 何で店長さんスーツなの?

絶対可笑しいわよ。 スーツのパン屋なんて、絶対良いパン何か作れないわよ! 」


「 店長さんは母さんが好きなんじゃない?

お洒落のつもりなんだよ。 見た目はふざけてるけど、味は本物だから早く選ぼう。」


サムもうん、うん。 とうなづく。


「 最近奥さんに寝る部屋変えられて、ショック受けてたからママさんが来てくれて喜んでるんですよ。」


モンクママは腑に落ちない表情になる。


「 何だか変なお店ね…… 。早く選びましょ。 」


店長さんは知らないがモンクママには少し距離を置かれていた。


「 おう? 晴斗坊や。 何か大きくなったなぁ。

前まではあんなにちっちゃかったのに。」


恥ずかしそうに言い返す。


「 いつの話だよ! もう二年生だぞ。

あんまりふざけてると他のパン屋に乗り換えるぞ。」


「 それは勘弁してくれ。 本当に嬉しくてな。

また明日もおいでな。 」


三人は笑いながら出ていった。

その後ろ姿を見ている店長。


「 あんた! 何見てたの? 」


奥から奥さんが出てきた。


「 ん? 本当に大きくなったなぁって。

前までは全然元気無くて、死んだパンみたいな目してたのにサムが来てから変わったなぁ…… 。

アイツは俺の子供みたいなもんだから嬉しくてな。 本当に本当に。」


少し涙が出そうになりながら語っていた。


「 何言ってんのよ。 あんたの子供だったらあんなに良い子な訳ないでしょ笑。

にしても…… 何でスーツ着てんのよ? 」


「 男の身だしなみ。」


パン屋ももう一つの家族なような存在になっていた。 パンを持ち学校へモンクは登校する。

モンクの足は前へ、前へと踏み出す。


教室に入り皆に挨拶する。


「 皆おはよう。」


すると、色々な角度から挨拶が飛び交う。


「 おはよう。」

「 おはようモンク君。」

「 おはよう。 モンクあのゲームクリアしたか? 」


沢山挨拶してくれる。 男女関係無く。

モンクにはこのクラスは宝物のようになっていた。


「 アキラ君。 あのゲームは簡単過ぎたよ。

今度一緒にやらう。」


すると伴が近づいて来る。


「 よぉ。 モンクちゃん! 朝から元気ねぇ。

俺のいなり寿司とパン交換しようぜ? 」


「 えっ? いなり寿司?? 何処で買ったの? 」


伴はニッコリ笑い答える。


「 俺の手作りなのよ。」


手作り?? 手は洗ったのか? ちゃんと本見て作ったのか? 怪しい所しかない。


「 絶対やだぁーー! 」


直ぐに伴の目の前から走って立ち去る。


「 待てぇ! モンク。 許さねぇぞ!! 」


二人は教室を出て行ってしまった。

教室の中では笑いが起こっていた。

前までのモンクには考えられない光景だった。

ただ一つ違うのは紅葉の様子。


( 本当にモンクンは素直に気持ちを出せて良かったなぁ。 でもなんだろ? 変な感じがする。

全然頼って来ないからかなぁ?

違和感を感じる。 物足りなさなのかなぁ? )


紅葉は少し寂しくなっていた。

前までは一人きりで話さないとダメだと思ってたのに、今ではモンクは一人では無くなって居たのだから。


「 紅葉ちゃん。 どうしたのさ。 ため息なんてついてさぁ。」

「 そうよそうよ。 どうしたのよ。」


親友の二人が気にして話かけてきた。


「 何だろう。 モンクンってあんなに明るかった? 凄い元気になったよね。 何かビックリしちゃって。 本当に変わったなぁって。」


二人はニヤニヤしている。


「 何々? 寂しくなってる訳? 」

「 全然変わんないわよ。」


「 そうかなぁ? 」


紅葉はその場では納得して授業が始まった。

モンクは斜め前の席に座っている。

何故か良く見てしまう。

勉強している姿。 笑ったり困ったりドジする姿。


( どうしたんだろう? 私…… 。)


休み時間。 屋上で一人お弁当を食べながら考えていた。 そこへ、海荷がやってきた。


「 紅葉。 居たの? 」


「 うん。 海荷ちゃんもお弁当? 」


二人は一緒に食べる事に。

友達だったが二人きりは初めて。

斬新な組み合わせ。


「 あんたさぁ。 何か元気なくない? 」


海荷は遠くで見ていて気にしてくれていた。


「 何なんだろう…… 。 モンクンが成長してちょっと寂しくなってるのかもね。 私が居ないとダメだったから。」


海荷はそれを聞くと少し考えていた。


「 そうねぇ…… 。 アイツは成長したよ?

でも、アイツはアイツのままだよ。

ずっと優しくて、自分の事より周りばかり優先するボンクラ野郎だよ。」


紅葉は海荷の話に聞き入ってしまう。

それはモンクをそんなにも見ている人は、誰も居ないのだと思っていたから。


「 良く見てるんだね。 海荷ちゃんは。」


「 ふざけんなよ。 んな訳あるか。

隣の席でしかもバイト先が同じなだけだし。」


顔を真っ赤にしてお弁当を食べ終え帰ろうとする。 帰ろうとしながら振り向かずに一言。


「 ボンクラのバイトしてる姿見たことある?

ボンクラなりに頑張ってるよ。」


そう言い残し階段を降りて行った。


( バイト先かぁ…… 。 行こう、行こうと思ってて行って無かったなぁ。)


そう思い放課後行く事にした。

前にメモしたラーメン屋をスマホでナビしながら探す。


( ここかぁ…… 。 ん? 居た居た! )


モンクはきっちり着替えて麺を茹でたり

調理したりしていた。


( へぇ〜っ。 結構頑張ってるんだなぁ。

偉いぞぉ♪ )


モンクは常連さんのおじさんと話したり、調理したり頑張っていた。


「 おいおい坊主。 麺は固めにな! 」


「 任せて下さい。 僕を誰だと思ってるんですか。 カチカチの麺にしてやりますぜ。」


麺を茹で終わり、水気を取るために専用のザルで上から下へ振り下ろす。 凄い音と水気が飛び散る。


「 さすがは坊主だな。 もっとやれ! 」


「 うっす。 それっ!! 」


天高くから下へ振り下ろすと、勢い乗り過ぎて麺がザルについて来れずに飛んで行ってしまう。

調子に乗りすぎると直ぐこれだ。


「 坊主!! 何やってんだよ笑。」


「 すみません…… 。 直ぐにやり直します。」


モンクは焦って作り直す。

店長がお客さんに謝りに行く。


「 すみませんね。 ウチのバイトが。」


「 何言ってんだよ。 坊主が可愛くて来てるとこもあんだよ。 だから全然気にしないでくれよ。」


店内はモンクのミスで笑いが溢れていた。

店の外から見て笑ってしまう紅葉。


( あはははっ! 本当におっちょこちょいなんだから。でもあんなに愛されてて幸せそうだなぁ。

私何て必要無かったのかな? )


少し悲しくなってしまった。

だけど遠くから見ていて分かった事があった。


「 あっ! モンクンにとって私が必要だったんじゃなかったんだ。 …… 私にモンクが必要だったんだ。 何で今更気付いたんだ? 」


紅葉にとってモンクは、かけがえのない存在になっていた事が分かった。

紅葉は店に入らずに帰ってしまうのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る