第45話 鈴木 晴斗



バスは坂の勢いにより、勢いが増していく。

モンクは能力を使い、手と足を通常の何倍もの力を込める。


「 超パワー…… 。 手と足へ。 」


地面に足を力強くつけて踏ん張る。

手はバスを受け止める姿勢に入る。


「 ねぇ。 紅葉。 大丈夫かな? 」


紅葉の友達が心配になり話をかけてくる。

紅葉も汗をかいて焦りながらも答える。


「 大丈夫…… 。 だって私の事いつも助けてくれたんだもん。 今回も絶対大丈夫。 」


紅葉は願いを込めた。

バスはもう目の前。

普通に走れば10分走れば崖に落ちる。


「 行くぞぉっーー!! 」


モンクはバスを止めにかかる。

凄い重さ。 アクセルを踏まなくても、下りでこんなに重ければぶつかった時の負担は計り知れない。


( クソ…… 。 重すぎる。 全然止まらない。 )


凄い勢いで下って行く。

モンクは大声を出しながら、必死に抵抗していた。

手と足は能力を使っていても、耐えきれずに血が溢れ出る。


「 畜生…… 。 うぉーーっ!! 」


バスの中からはモンクへの応援が聞こえる。


「 行けぇ!! 」

「 負けるなぁ。 」

「 絶対止められる。 」


モンクは痛くて痛くて堪らない。

ずっと地面を滑り、足も折れそうなくらい辛い。


( 痛い……。 痛みが邪魔だ。 感覚が麻痺してもいい。 絶対に止めるんだ。 )


モンクの抵抗は無意味に感じるくらい、バスは容赦なく坂を下っている。


それを遠くの高い所から観察するジャッカル。


「 人間とは無意味な事をするな。 どう抗おうとも無駄なのだ。早く諦めて逃げてしまえ。

それがお前達、人間なのだから。 」


人間への嫌悪感は凄まじい。

モンクの抵抗を嘲笑うかのようにじっと見つめる。


「 やぁ。 ジャッカル。 どうだい?

人間って奴は。 」


「 サミュエル…… 。 まぁ、そろそろ時間の問題でしょう。 早くいつものように見捨ててしまえ。 」


ジャッカルはモンクが諦めて絶望させたかった。

サムは笑いながら語る。


「 僕は晴斗君に賭けてるよ。 君はまだ知らない…… 。 人間は弱い。 たまに欲にも負けてしまう。 だけど、大好きな人の為なら無限の力が出てくるんだ。 それが人間なんだ。 」


サムはモンクを信じていた。

遠くから見守るしかない。


「 うぉーーっ!! まだまだだぁー。 」


汗だくで手は血だらけ。 足もへなへなになるくらいにボロボロ。 モンクは全然諦めない。

バスの中ではその姿を見ても、自分達にはどうしようも出来なかった。

だからやるせなくて涙が止まらなかった。


「 モンクン…… モンクン。 もういいよ。

もういいよ!! 諦めて逃げてよ! 」


モンクのボロボロな姿を見て、辛くて苦しくなりつい弱音を吐いてしまう紅葉。


「 おい。 あいつは諦めだけは悪いんだ。

俺には絶対真似したくないくらい醜い。

でもあいつはそれでもやる。 絶対に。

あいつは俺の…… 親友だから。 」


白夜はモンクを信じていた。

紅葉を必死に慰めていた。


「 おいっ! 白夜。 こっちにスマホ向けてくれ。

アイツに伝えないといけないことがある。 」


伴は白夜にそう言い、スマホをこちらに向けてもらった。


「 モンク!! 聞こえてるか? 俺だ!

お前何ふざけてんだぁっ? 諦めてんじゃねぇだろうな? 」


モンクの耳にイヤホンから伴の声が流れてくる。


「 うっ…… はぁはぁ。 伴……、くん?

諦め…… てないよ。 絶対に……。 」


もうふらふらで喋るのがやっと。

伴はその消えかかってる声を聞き、助けられない無力な自分に腹が立っていた。

優しい台詞を言いたい…… 。 でもモンクに一番必要なのは、助言しかない。

それは伴にしか出来ない事だった。

厳しいかも知れない…… 。

恨まれるかも知れない…… 。

…… 心を鬼にして伴は答える。


「 諦めんじゃねぇっ!! もう終わりか?

バスの中の声が聞こえねぇのか!?

諦めてんのはおめぇだけだ! 俺にパンチしたパワーはこんなもんじゃねぇかったぞ。

行けぇ! …… 行けぇーーー。 」


イヤホンからみんなの声が聞こえる…… 。


「 がんばれー! 」

「 諦めないでぇ! 」

「 行けぇ!! 」


大好きなみんなの声が流れてくる。


「 ぐっ…… えぐぇ。 ゴホッ! オエッ!

僕は…… 勝手に限界を決めてたのかも知れない。

みんながついてる…… 僕は一人じゃない!

命に変えても絶対に守ってみせるんだ。

うぉーーっ!! 」


モンクは辛かったが、仲間達の声を聞き励まされた。 吐血したり、話すのすら辛くて仕方がない。

モンクは最後に全てを燃やした。

凄い力で踏ん張る。 死に物狂いで。


ギィーーーッ!!


バスのタイヤからは今まで聞こえた事のない音が鳴り響く。 ブレーキと同じくらいモンクの力がバスへ付加をかけたのだ。


「 バスが…… 少し遅くなってる。

遅くなってるよ!! モンクン! 」


バスの中ではスピードが落ちてるのが直ぐに実感出来ていた。 僅かだが小さな希望が見えた。

遠くのヘリからテレビでその光景が映されていた。


「 一人の青年は無謀に一人で押さえていましたが、なんと。 スピードが落ちて来ております。

奇跡が起きたのでしょうか? 」


その映像を見ているラーメン屋店長。


「 負けるな。 負けるなぁ! 鈴木君!

負けるなぁっ!! 」


店長を含めた従業員と常連さんはテレビに釘付けになる。 みんなのラーメンは伸びていた。

必死にテレビに向かって応援する。


「 晴斗! 行けぇっ! サム君からもらった力なら、絶対に止められる。 私の息子なんだから。 」


ママさんと紅葉ママも応援していた。


「 ボンクラ! モンク! がんばれぇー! 」

「 絶対に止められるよ! 負けるな。 」


スマホで見ている海荷と桃。

必死に応援する。 メイクが崩れるくらい涙を流しながら。


「 晴坊!! 晴坊! 絶対に負けるな。 」

「 晴ちゃん。 がんばれー! 」


パン屋からも応援していた。

店長達にとっては大好きな息子だった。


遠くから見ていたジャッカルは驚愕する。


「 ありえない…… 絶対にあり得ない。

人間の限界をとっくに越えているのか? 」


「 ジャッカル。 想いの力で人間は無限の力がみなぎってくるんだ。 絶対に負けない。 」


サムはモンクを見守る。

必死に口から血を吐きながらも力を込める。

自分がどうなろうが関係無かった。


「 ぐふぉっ!! うおぉーっ! 」


キィーーーーーーッ!!!!

バスは止まっていた。

残り500メートルの所で止めていた。


「 はぁ……。 はぁ…… 白…… 夜。 みんなを早くバスから降ろしてくれ。 時間がない。 」


「 わかった。 任せろ! みんな。 早く降りよう。 足元には気を付けて。 」


直ぐにバスからみんなが走って降りてくる。

どんどん降りる。 残り三人。


「 オェッ!! ヤバいっ足が。 」


片足がついに限界を迎えて折れてしまう。

バスは三人を残し走り出す。

何とか妃は飛び降りていた。


「 痛っ!! 痛ぇー。 」


残り二人。 中には運転手と紅葉が取り残されていた。


「 行かせるかぁっ!! グラッブ!! 」


モンクはバスが崖へ向かうのを、直ぐに振り向いて能力を使う。

片足はもう立てない。 片足だけ膝を着き片手は折れた足の代わりに地面に手を着け体を支える。

もう片方の手でヒモを掴むような動作をした。

この能力は生命のない物を引き寄せる能力。

どうにかバスを引っ張り動きを止めていた。


「 早く今のうちに降りて! 」


白夜は大声で叫ぶ。

どうにか降りていた妃はモンクが能力で止めた事に感動して話をかける。


「 あんたやれば出来る…… えっ…… ? 」


妃はモンクを見たら、口から血を流し目からも血が出ていた。 この能力は軽い物しか持てないのに無理矢理、重たいバスを止めていたからモンクの負担は計り知れなかった。


「 イヤ…… イヤ。 みんな!! 早く降りて!

モンクが…… モンクが…… 死んじゃうよ! 」


妃は泣きながら訴えかける。

モンクの周りは血で一杯になっていた。

その叫びを聞き、直ぐに二人は降りた。


「 やった…… 。 もうこれで…… 。 」


モンクは能力を切り、安心してしまい意識が飛んでしまい倒れる。

必死に走って来た紅葉が倒れる前に抱き抱える。


「 モンクン! ありがとう。 ぐすっ。

ありがとう…… 。」


「 はぁ…… 紅葉ち……ゃん。 綺麗な服が、汚れ……ちゃうっよ? 」


紅葉に膝枕をされ薄れ行く意識の中で、紅葉を気に掛ける。


「 いいもん。 ぐすっ。 また…… 新しいの買うもん。 だから良いの。 」


「 良かっ……。 」


モンクはゆっくり目を閉じた。

直ぐに救急車のサイレンの音が聞こえてくる。


「 モンクン!? モンクン? 早く助けてっ!!

早く来てぇーーっ! 」


紅葉の声はずっと救急車を呼び続けるのだった。

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