第18話 初給料の使い道

バイトを始めて、早一ヶ月。

毎日の様に行って、海荷にしかられながら働いた。

店長は優しく教えてくれた。 少しは成長していた。

モンクはがんばり屋なので、成長は早かった。

接客トークも対応も、ある程度出来る様になっていた。 毎日ヘロヘロで、冷食に逃げる。 サムは文句一つ言わずに、モンクを応援していた。


でも、嬉しい事もある。 それは、明日が給料日。

初めての給料日の為、モンクはウキウキ。


「 サムくん。 明日は給料日だけど、何か欲しいものはあるかね? 」


少し偉そうに、友に語りかける。


「 えっと、えっと。ジャンボバーガーと、アイスのトリプル。」


「 そんなもんかね? そんな大したもんじゃ、私の給料は減らないよ。」


リッチな気分で話す。 初めての給料は、頑張った者だけがたどり着く頂きの様な物。

モンクは楽しみで、仕方がなかったのだ。


モンクは学校へ行き、その後はバイトへ。

授業が終わり、バイト先へ急ぐ。 だって、明日は給料日。 研修中でも、出た日数が多いから給料はある程度は期待できる。 元気良く挨拶をして、ユニフォームに着替える。


( 最高だなぁ。 明日は給料日。 何を買おうかな? )

海荷も控え室に来た。 少し元気が無かった。


「 海荷ちゃん。 どうしたの? 元気ないね。」


「 ん? モンクかぁ。 彼氏から最近連絡少なくて。 嫌われたのかなぁ。 はぁ……。」


落ち込んでいる海荷。 モンクには、その気持ちがまだ分からなかった。 彼女とは無縁で、友達すらまだ少ない。 海荷でも落ち込むのだと、モンクは思った。


「 難しいね。 海荷ちゃんは可愛いから、大丈夫だよ。 彼氏さんも忙しいだけじゃないかな? 」


「 そうだと良いんだけど。」


いつもの様な、生意気な口調では無く元気がない。 彼氏が大好きだったからだ。 海荷の自慢の彼氏だった。 海荷はこう見えて、尽くすタイプで彼氏にはワガママも言わずにイチャイチャしたり、愛し合っていた。 でも、何故連絡がないのか?


仕事は待ってはくれない。 二人は仕事をする。

海荷は調理場で、材料を刻みながら上の空。

モンクは、お客さんが居ない間にモップ掛け。

( 海荷ちゃん。 大丈夫かなぁ……。)

ただ心配だった。


同僚のおばちゃんに、掃除の仕方や接客を学ぶ。

凄い厳しい。 ここのボスは店長ではなく、このおばちゃんなのかと、錯覚してしまう程に。


「 坊や。 アンタはそんなんだから、彼女も出来ないのよ! きびきび動かんかい! 」


「 ふぁい。」


スパルタの毎日。 海荷とこのおばちゃんのコンボは、精神的にやられる。 少しは慣れてはいたけど。


「 鈴木くん。 結構出来て来たね。 接客も随分、しっかりしてきたし。」


店長に誉められた。 モンクは嬉しかった。 自分が誰かの役にたち、お客さんに喜んでもらえる。

自分が作った料理でも無くても、お客さんはフロアの人に「 ご馳走さま。」 と言ってくれる。

モンクは、凄い誇らしげになるくらいに嬉しかった。


ウィーン! お客さんが来た。


「 いらっしゃいませ。」


「 海荷。 連絡出来なくて、悪かったな。」


海荷の大学生の彼氏だった。


「 翔くん。 寂しかったよ! どうしたの? 」


「 わりぃ。 わりぃ。 忙しくてな。

味噌ラーメン大盛の餃子頼むわ。」


「 うん。 待っててね。」


直ぐに海荷は調理場へ行き、ラーメンと餃子を作る。 海荷は社員顔負けなくらい、仕事は真面目に取り組み仕事も早い。 一人で何でも出来るくらいに、バイトして出来ていた。


( 凄いなぁ…… 海荷ちゃんは、何でも出来て。)

モンクは海荷が、羨ましいくらいに感じた。


直ぐにラーメンと餃子を運び、彼氏はガツガツ食べる。 海荷は嬉しそうに見つめる。 その表情は女の子その者でした。 モンクにはけして見せない、恋する女の子。


でも、モンクはどうしてなのかその彼氏を好きにはなれなかった。 何故なのか、生理的受け付けない。 見た目もチャラく、髪も染めてタバコも吸う。

そんな人は沢山居る。 チャラいのは見た目があまり良くないが、中身が重要なのだ。

分かっているが、何故か拒否反応が出ていた。


「 そこのバイト。 ちょい、水入れてくれる? 」

「 はぁーい。 かしこまりました。」


モンクは直ぐに、お水を入れに行く。


「 聞いても良いですか? 」

「 何でも聞けや。 少年くん。」


お水を入れながら、いつも内気なモンクが珍しく積極的に質問する。


「 海荷ちゃんと付き合って長いんですか?」

「 まあね。 長いかな。」


ラブラブだったのか、意外に付き合って長かった。


「 そうなんですね。 海荷ちゃん優しいから、大切にして下さいね。」

「 当たり前だろ? 少年くん。」


話を終え、モンクは席を離れた。

やっぱり、好きにはなれなかった。


「 モンク。 ウチの彼氏男前だろ? 」

「 うん。 優しくて、僕とは大違い。」


傷つけたくなくて、モンクは嘘をついた。

大好きな彼氏を、何の確証もないのに好きにはなれないと言われたら、誰でも言い気持ちはしない。

彼氏は食べ終わり、店を出ていく。


( ん? お会計は? )


「 海荷ちゃん。 お会計してないよね? 」

「 良いの。 食べに来ただけでも嬉しいから、ウチの奢りなの。 彼氏も色々大変だからね。」


海荷に払わせていた。

モンクはやっぱり好きにはなれなかった。


仕事を終え、家に帰る。 遂に明日はお給料日。

楽しみで仕方がない。

ここのバイト先は、現金手渡し。

店長からの給料は、楽しみでしょうがない。


次の日。 モンクは学校を終え、バイト先に行った。


「 鈴木くん。 お疲れさまでした。 お給料です。

大事に使いなよ。 初めてなんだからね。」


「 ありがとうございます。 これからも頑張ります。」


お給料を受け取り、外で中身を確認する。


( 7万円!? イヤッホーーイ! )

モンクは想像していた給料より、多くてご機嫌な様子。 鞄に詰め込み、スキップして帰る。

サムと何に使うか? 豪勢な食事をするか?

たまには、調理道具を買うか? 悩んでしまう。

とりあえず、近くのアイス屋で派手にトリプルのアイスを頼む。 自分へのご褒美である。


「 美味しい♪ 自分で働いたお金で買うアイスは、格別だね。」


一人で食べる姿を、店員さんは暖かい目で見ていた。 あんなに美味しそうに、食べるお客さんはあまり居なかったからだ。

モンクは食べながらベンチに座っていると、海荷がやって来た。 元気がなかった。


「 海荷ちゃん。 お疲れ様。 お給料もらった? 」

「 …… うん。」


様子がおかしい。 何かあったのか?


「 モンク。 悩み聞いてくれる? 」

「 ん? どうしたの?? 」


思い詰めた、海荷が相談してくる。


「 彼氏のお母さんが入院して、手術費用が沢山かかるんだって。 どうしよう? 」


本当だったら大変な話だが、色々怪しかった。

最近の彼氏の対応や、言動が少し気になった。


「 それは本当なのかな? 確認した? 」

「 本当に決まってんでしょ? アンタバカなの? 」


怒られてしまった。 人を疑うのは悪い事だ。

裏切られるのが怖くて、直ぐに疑ってしまう。

モンクの悪い癖の1つだ。


「 ごめんね。 彼氏はどうするって? 」

「 バイト代だけじゃ足りないんだって。

だから、大学辞めて働くしかないって。」


彼氏も大変な様だった。


「 ウチのお給料渡しても、ちょっと足りないの。 力になりたい……。 大学辞めさせたくないの。」


海荷とは思えないくらいに、焦りを隠せないでいた。 アイスを食べながら、モンクも考えた。

モンクの出した答えは……。


「 海荷ちゃん。 もし良ければ、僕のお給料使ってよ? 7万くらいあるから、足しにはなるかと。」


びっくりする海荷。


「 はぁ? アンタ何考えてんの? ウチにとっては、彼氏だから良いけど、アンタには関係ないでしょ?」


その通りだ。 赤の他人だ。 でも、モンクも見てみぬフリが出来なかった。 大切なお給料だが、役に立ちたかった。


「 うん。 間違ってるのかもしれないね。

でも、僕もお母さんが同じ立場なら助けて貰いたい気持ちだし、何かほっとけないんだよね。

海荷ちゃんにも、笑顔になって欲しいし。」


海荷は呆れていた。 お人好しだと思ってたが、只のバカにも見えた。 でも、誰よりも優しいバカに。


「 アンタ……。 良いの? 初めての給料で、踊ってたろ? 悪いよ……。」


「 大丈夫!! また稼ぐよ。 気にしないで。」


「 ありがとう。 絶対に返すよ。 少しずつだけど、絶対に返すからね。 バカだけど、アンタは最高の友達だよ。」


モンクは、大切な給料を渡してしまいました。

海荷は直ぐに、彼氏に渡しに行きました。


( さよなら…… 僕の給料。)

モンクは、悲しくなったが後悔はなかった。

彼氏の話が嘘ではなかったら。


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