第12話 モンクの勇気
クラスに戻り、王妃の方を見るとゲラゲラ笑い声をあげている。
多分、昨日のキムナリくんのことを笑っているんだ。 許さないぞ……。
モンクは友の為に、勇気を出して王妃に謝らせたかった。 キムナリくんを学校に戻って貰えるようにしたかった。
ここ最近サムに教えてもらった簡単な能力を、使えるように寝る前とかトイレのとき、沢山練習していた。 モンクはセンスが良くて、結構出来るようになっていた。
( 超聴覚 )
この能力は集中力を全て耳に集中することで、何倍もの遠くの音を聞くことが出来る。
その代わり、周りの音をシャットダウンしてしまうデメリットもある。
「 王妃。 お前の化けの皮を剥がしてやる。
…… 超聴覚!! 」
集中力を全て耳に…… もっともっと、
奥の音を拾うんだ。…… 王妃の声が聞こえてきた。
「 王妃さん? 昨日はやり過ぎちゃいませんでした? 誰かにバレたらヤバくないですか? 」
この声は子分Aだな。
「 そうですよ。 鞄の中をバラ撒いたり、靴を捨てたり。 あれはやり過ぎじゃないですか? 」
子分Bの声かな?
「 あれぐらいしないとダメなんだよ!
じゃないとまた来るから。 あんな奴に私が負ける訳無いんだから……。」
王妃の声だ。 やっぱり妃達の仕業だったか。
酷いことするなぁ。 モンクは会話を聞いてるだけで、涙が出そうになっていた。
もう妃がやったのは間違いない。
どうやって反省させるか。それとも同じ苦しみを味わってもらうか?
痛みには痛みを味あわせるなんて、絶対にしてはいけない。 モンクはいじめられたりしてるから分かる。 絶対に、どんな理由があろうとも、やってはいけないんだ。 イジメられた者にしかわからない事だった。
「 今日も最後の仕上げにでも行く?
家に行ってそれで……。」
話を盗み聞きしていると
「 ……ンクん! ……ん! 」
ん? なにか聞こえる?
「 モンクん!! 」
耳元で大きい声がして、能力が途切れる。
良いところだったのに。 誰だ?
「 うわぁ! なんだぁ? 」
席から立ち上がり周りを見ると、隣に紅葉ちゃんが立っていた。
「 紅葉ちゃん? どうしたの? 」
能力を使ってると、周りの音が聴こえないんだよなぁ……。 これが、この能力のデメリット。
「 ずっと話かけてたんだよ? 大丈夫?
また本ばっかり見てるから、周りの声聞こえなくなるんだよ。」
叱られてしまった。
「 そうかもね。 ごめんね。 どうしたの?? 」
紅葉ちゃんは昨日のことで、話に来たみたいだった。
「 サムちゃん可愛いかったね。 今日も触りに行って良いかなぁ?
絶対私になついてるから♪ 」
本当に猫が大好きなんだなぁ。
「 ごめんね。 今日はどうしてもやらないといけないことがあるんだ。 寄り道するから……。」
モンクが紅葉ちゃんのお願いを断った事は、これが初めてだった。
「 そうかぁ。 分かった。 また余計なことするんでしょ? モンクんはいつも余計な事に首を突っ込んで、空回りするんだから。 絶対無理しちゃダメだよ? いつも誰かを気にするときは、その中に(自分)も入れないとダメだよ?
モンクんは、人の事ばっかり気にしちゃうんだから。」
当たってるかもしれない……。
でも、モンクは友達の為ならどんな事でもしたかった。 やっとできた友達だから。
「そんな大したことじゃないから。 本当に笑。」
頭をかきながら返答した。
( 嘘つくのは嫌だけどごめんね。)
「 分かった。 また今度ね。」
紅葉は自分の席に戻って行った。
紅葉はモンクが嘘をついてることが、なんとなく分かっていた。 幼なじみで、良く見ていたから分かるのだ。 嘘をつくとき頭をかく癖があった。
紅葉は話を聞いたら、もっと心配になっていた。
( モンクん大丈夫かなぁ? )
お昼の時間になった。 モンクは体育館前で、黙々とジャンボアップルパイを食べながら考えていた。自分に出来ることを……。
「 やっほぉ。 晴斗くん。 一緒に食べよう♪ 」
椿先生だった。 一緒に食べることに。
相変わらず間の悪い先生だなぁ。
「 晴斗くん。 元気ないね、どうしたぁ? 」
なにも知らないんだなぁ…… 言っても無駄なのは分かってる。 だから言わない。
「 嫌別に。 先生は学生のときどんな生徒でしたか? 」
素朴な質問だった。
「 ん~どうだろ? 友達が沢山居て、毎日青春を楽しんでたよ。 それで学校ってこんなに楽しいなら、もっと学校に来たいって思って、先生になったんだよ。」
「 クラスに不登校はいましたか? 」
「 居たよ……。 理由は分からないけど難しいよね。」
やっぱり。 なんにも知らない。 周りを見ると絶対にいじめられたり、輪に入れない人がいたはず。
先生は環境に恵まれていたんだ。
だから、嫌な部分を見ないでこれたんだなぁ。
「 そうですかぁ。ありがとうございます。」
モンクの悪い癖がでた。 話をしても分かり合えない人を見ると、自分の想いを言わずに心の中で割りきってしまう。
この人とは合わないんだと。
「 そろそろクラスに戻りますね。」
悪気が無くても気分が悪くなってしまった。
教室で考えよう……。
「 晴斗くん。 何かあったら言ってね?
先生は晴斗くんの味方だよ。」
やっぱり、一人でずっといるモンクを気にしててくれたみたいだ。
「 先生は僕の事なんかより、周りを見た方が良いですよ? 」
我慢出来ずについ言ってしまった。
たまには良いかなぁ?
モンクは教室に戻って行った。
「 周り? …… どう言う意味だろ? 」
先生には分からなかった。
ただ心に引っかかっていたのは、
(不登校って居ました?)
この言葉が心に残っていた……。
教室に戻り席に着いて1人で考える。
どうするべきか?
能力を使うか?
( 軽洗脳 )
完璧な洗脳ではないが、口を勝手に動かせたりできる。 想った事を強制的に話させられる。 自分の想いを強制的に話させるから、その分自分への負担は凄い。
これを使って、ここの教室の中で全て暴露させれば王妃に謝られさせられる。
使っていいものなのか? 妃は反省するのか?
次は妃がいじめられるのでは?
モンクは、考えても考えても答えが見つからない。
放課後みんな下校することに。
王妃が動く。
「 よし! あいつの家に行こう。 今は親居ないから外からイタズラしよう。」
いじめも度が過ぎている。 子分を連れて校門裏から出てキムナリくんの家へ。
家に向かう途中で人影が見える。
…… モンクだ。
「 モンク? あたしたちになんか用なの? 」
モンクみたいな、ビビりでいじめられてる奴がなんの用なんだと思っていた。
「 …… キムナリくんのことを、…… もういじめ
ないでくれないですか? 」
これがモンクの出した答えだった。
三人は焦っていた。
誰にもバレてないんだと思っていたからだ。
「 あんたなに言ってんの? いじめてなんかいないわよ。 ねぇみんな?? 」
動揺を隠せないから、みんなに頼る王妃。
子分達は当たり前、逆らわない。
すると、モンクが膝を地面につけて頭を下げる。
「 …… 僕の友達なんだ。 やっと出来た友達なんだよ……。 勉強が出来るからって、悪い訳じゃないと思うんだ……。 お父さんのような教師になりたくて沢山、沢山勉強してるだけなんだよ……。
だから…… だから、もうキムナリくんの事をいじめないで下さい。 お願いします……。」
深く深く頭を下げた。 モンクにはお互いを傷付けずに終わらせる方法が思いつかなかった。
なら、自分が傷ついてでも止める。
何度でも…… 何度でも。 モンクには弱々しくても強い想いと意思があった。
「 はぁ? 頭可笑しいんじゃないの?
関係ないあんたが、なんでそんなことすんのよ! 」
モンクの行動に三人は動揺しまくった。
いじめとは、第三者が現れると簡単に崩れる物なのだ。
「 そこまでにしておいてもらえるかな? 」
このキザな声は…… そこに現れたのは、
紅 白夜だった。
「 白夜さん? どうしてあなたがここに? 」
王妃でさえ、白夜には全く頭が上がらない。
何故白夜がここに?
「 モンクは俺の幼なじみでね。 1日観察していたら様子が変でね。 付いてきたら君たちが居てね。
モンクのこと嫌いだけど、いじめはもっと嫌いなんだよね。 2度としないでくれるかい? 」
白夜め。 また格好つけやがって。
「 白夜さん。
私たちいじめなんてそんなこと……。」
「 2度とするなって言ったんだけど?
2度言わせるな。 後、キムナリだっけ? ちゃんと謝りに行きなよ? 来なかったら、次は君たちがいじめられるよ? それだけの覚悟を持ってるんだろ?
いじめてるなら。」
( なんだ!? その喋り方はぁ? そんなことで
上手くいくなら苦労なんてしないん、)
「 本当にごめんなさい。…… 嫉妬してただけなんです。 2度としません…… 謝りに行きます。ごめんなさい。」
三人は、キムナリくんの家に走って行った。
( なんだこれ? )
呆れるモンク。
「 モンク。 また俺の勝ちだな。 良いところ取って悪かったな。 危ないときは、いつでも言えって。
助けてやるからさ。」
でも今回は助かった。 モンクにはキムナリくんを助けられる自信は全くなかったのだから。
「 うるさいなぁ。 今日は助かったよ…… ありがとう。」
悔しいかった。 でも助かったことは事実。
白夜には感謝するしかない。
「 ノープロブレム! good-bye♪ 」
格好良く帰って行く。
あいつはまた海外留学行かないかなぁ……。
モンクの自信はまたなくなっていた。
それを遠くで見つめていた人が。
紅葉ちゃんだった。
気になって付いてきていたみたいだ。
「 やっぱりモンクんだ。」
見てる人はいるもんだ。 ニッコリ笑う紅葉ちゃんでした。
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