第47話 王の決断


サムはゆっくり口を開く。


「 結論から先に言わせてもらう。

地球を侵略や破壊の計画は白紙にする。 」


周りの幹部の者達には動揺が走る。


「 エリエル様。 先代が亡くなり、主導権は全て貴方様に御座います。

ですが、何故そのような答えを?」


側近のメリーがサムに問いただす。

サムの本名はエリエルと言う名前だ。


「 まず、父の代で人間と和解しようとしたが相手側の裏切りにより決裂した。

だからここまで関係は酷くなっている。

侵略行為や破壊をする前に、私自身の目で人間と言う存在を理解したかった。

決断と言うのは簡単にはしてはいけないからだ。 」


みんなは何も言わずに聞いている。


「 地球に着いて私は一人…… 。

宛も無く彷徨う日々。 食べる物も無く苦しかった。 すれ違う者は見てみぬフリ。 痛かった。

だが一人の人間に出会った。

その人間は汚い私を、理由も聞かずに家に入れてくれた。 そしてご飯もご馳走になった。

その人間は私を、行く宛が無かったら居て良いと言ってくれたのだ。

ここに居るか? 理由も聞かずに見ず知らずの者を置いてくれる者が。 居ないだろう…… 。

その時私は、ここで一緒に住み人間の事を勉強する事にした。 それが一番好都合だったからだ。

怒ったり泣いたり、一緒に笑い合い毎日が最高だった。 私は一つの実験をした。

それは…… 人間に能力を教える事だ! 」


みんなはざわつく。

そして側近のメリーがまた立ち上がり


「 王子! 人間に手助けは先代が定めたルールに違反しております。

人間なんかに教えてしまったら…… 。」


「 それは大丈夫。 私は能力を使うのを良く見ていた。 私利私欲の為に使えば私が止めていた。

彼がどう能力を使うのかが気になったのだ。

その結果次第で人間とどう向き合うかが分かるような気がしたんだ。 」


サムはモンクと一緒に生活し、能力をどう使うか見届けて共存出来るか知りたかったのだ。


「 そうした結果。 私利私欲などには目もくれずに、人の為に自分を傷つけてまで使っていた。

今は昏睡状態になっている…… 。

友を守る為に自分を犠牲にしてまでね。

なぁ? ジャッカル。 」


ジャッカルは罪悪感により下を向いている。


「 そんな彼を見ていて分かった。

私達は絶対にいつか分かり合える。 まだ隔たりや話が溜まりもあるかもしれない…… 。

なら…… こちらから歩み寄らないか?

難しい話なのは分かってる。 だが、ゆっくりでいい。 お互いを理解し分かり合おう! 」


幹部達は少し不安はあったが、納得出来る内容ではあった。

サムにはそれだけの人徳と信用があった。


「 王子。 理解出来ました。 皆の者はどうだ? 」


意義なしと立ち上がる幹部達。

そして拍手が行われる。 満場一致で地球の侵略行為は延期となり、和解の道を選んだのだった。


「 あっ! ちなみに一つ良い忘れてた。

これ見てもらえるかな? 」


サムは右手の手のひらを見せる。

その手のひらには何もない。


「 王子!! 刻印はどうしたのです!? 」


サムには右手と左手の手のひらに、ひし形の刻印があるのだ。 今は左手にしかない。


「 友に譲ったのだ。 友情の証だ。 」


幹部達は青ざめる。

その刻印は王にだけ与えられる刻印。

通常の宇宙人の何百倍もの威力の能力を使う事が出来る。

その片方をモンクに譲っていた。

片方だけでも、クロニクル星人達では到底歯が立たない。


「 私が譲った理由の一つは、ジャッカルによる身勝手な侵略行為だ。 前回ジャッカルの勝手な判断により、友は今昏睡状態にある。

手足も使い物にならない状態だ。

こちらに帰る前に刻印を渡したから、多分そろそろ効果が現れて自然治癒されているだろう。

脳へのダメージはさすがに無理だろうが。 」


サムはモンクとの別れの時に、握手して刻印を渡していたのだ。


「 渡した理由は三つ。 一つ目はこちらからのもしもの攻撃に対抗する手段を作った。

二つ目は彼なら絶対に悪用しないと信じてるから。 三つ目は…… 。」


みんなサムの話に食い入るように聞いている。


「 相棒だからだ。 」


幹部達はポカーンとしていた。

サムはやっぱりサムだったのだ。


「 よぉーし! これで大体話は終了。

意義は全て却下する。

そんじゃあ、365日分の観察した事を話すぞ。

…… まずは、みんな。

カレーパンって知ってる? 」


幹部達の口は開きっぱなし。

サムはニッコリ笑いカレーパンの話をした。

サムは地球が大好きになっていた。


一ヶ月の時間が過ぎ、モンクの手足は刻印の効果が現れ回復していた。

医者達は目を丸くして驚くばかり。


「 モンクン…… 。 やっぱり生きようとしてるんだね。 …… 良かった。 」


紅葉はモンクの回復を喜んだ。

モンクママも一緒に喜んでいた。

モンクの表情はいつも穏やかな表情だった。


「 いつ目を覚ますのかなぁー? 寝坊助さん。 」


紅葉は少しの希望を胸にしまい、スキップして買い出しに行った。

伴や白夜、桃と海荷。 クラスの皆やバイト先のみんな。 パン屋さん。

みんなもその話を聞き、とても喜んでいた。

僅かだが可能性を感じていたからだ。


だがクロニクル星人の能力には不可能もあった。

それは、死者の蘇生と脳の損傷の回復だ。

こればかりは奇跡を信じるしかなかった。


経過観察していても、脳への反応は全く見られなかった。

紅葉はそんな事は関係なかった。

毎日モンクの目覚めを信じ看病していた。

少しトイレに行く為に病室を離れる。

すると、モンクの寝ているベッドの側にある椅子にサムがゆっくり腰を下ろした。


「 久しぶり相棒。 お見舞い遅くなって本当にごめんね…… 。 色々王の仕事って面倒なのが山積みなんだよね。 」


サムはモンクのお見舞いに病院に来ていた。


「 顔色は悪くないね。 キミなら絶対に目を覚ます。 そう信じてるよ。

それにしても聞いておくれよ?

お土産に持って帰ったカレーパン。

みんなに人気で全部食べられてしまったよ笑。

参った参った。 あのパン屋僕の星にヘッドハンティングしちゃおうかなぁ? 」


相変わらずのサム。 クロニクル星人にはカレーパンは好評だった。


「 分かり合うのはまだ難しいそうだ。

でも大丈夫! 少しずつ僕が説得するよ。

だって僕は王様だよ? 分からせてやるよ。

それが僕のやるべき事だからね。 」


サムも勝手な行動をし過ぎてみんなに叱られまくったようだ。

当然だ。 一年の滞在。 刻印を渡したり、先代の王の作戦を白紙にしたり。

でもそれが、サムなのだ。

いつも優しく、誰にでも平等な王様。

先代とは大きく違く、反対意見はとても多いだろう。

いずれはみんなに信頼される優しい王様になるだろう。


「 おっと! そろそろ帰るね? また来る。

王様は忙しいんだよね。 これ貰ってくね? 」


サムは近くに置いてあった、毎日届くカレーパンを持って歩いて病室を出ていった。

少しして紅葉が戻ってきた。


「 モンクンただいまぁ! あれ? ここに山積みにしてあったカレーパンが失くなってる??

モンクンが食べたの? んな訳ないか…… 。

じゃあ、誰が? …… サムだ!! 」


直ぐに気付き病室を飛び出した。

外へ出て周りを見ると、カレーパンの袋を持ちゆっくり歩くサムがいた。


「 サム! 見つけた。 」


サムは止まり振り向く。


「 やぁ! 久しぶり。 元気にしてた? 」


二人は近付いて話をする事に。

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