第49話 その夜の二人

「はあ、疲れた……」

「ウチもさすがに疲れたわ……」


 結婚お披露目パーティの後、二次会三次会まで付き合った僕等はぐったり。

 時刻は22時で、帰ってきた後、シャワーを素早く浴びて今に至る。


「ほんまの結婚披露宴はもっと大変なんやろーな」

「だろうね。ご祝儀とか、お返しとか、席次とか、細かい進行とか……」


 ベッドでごろんとしながら語りあう僕たち。

 今回は内輪でのお披露目だったので、適当で良かった。

 でも、ちゃんとした披露宴だときっとそうは行かないんだろうな。


「まあ、篠原やトモ、ナツには感謝やな」

「だね。さすがに手伝ってくれなかったら、死んでた」


 お披露目パーティに当たって、三人には本当に助けてもらった。最初、軽く見ていたけど、会場を予約してカジュアルなパーティを開くだけでも、検討事項は山積みだったのだ。たとえば、会費をいくらにするかとか、コース料理を頼むか、立食形式にするか。食事のグレードをどのくらいにするか。などなど。


「でも、披露宴とか疲れそうだって思ってたけど、こういうのもいいもんだね」


 僕らの開いたのは、あくまで内輪のパーティだったけど、それでも楽しかった。


「そうやね。世の中のご夫婦が披露宴開く気持ちがわかった気がするわ」


 ふと、顔を横向けて、隣の真澄を窺うと、ちょうど目があった。

 真っ直ぐに僕を見つめてくる笑顔は、いつもと違う色っぽさがあって、

 何故だかわからないけど、胸が高鳴る。


「あのな、コウ」


 顔を朱に染めて、でも、目を逸らさずに。


「なに?」

「初詣の時、覚えとる?子ども、欲しいって」


 見つめていると、瞳がどんどん潤んでくる。


「あ、うん。そんなことも、言った、ね」


 そういうことか。そういうことなのか?

 

「その。今日から、子作り、したいんやけど。どう?」


 決定的な言葉を聞いて、僕の方も身体中が沸騰するように熱い。


「その。出来ちゃったら、大学とか休学することになると思うけど……」

「もちろん、覚悟の上やで。コウはどう?」

「僕は……あの時言った気持ちに偽りはないよ。子ども、欲しい」


 覚悟を決めて、僕も決定的な言葉を発する。


「あー、でも。子作りか……。なんか、凄い意識してしまう」


 これまで、何度もしてきたことのはずなのに。


「それは、ウチも同じやで?大体、一度で出来るとは限らへんし」


 それはつまり、出来るまで何度でもということなわけで。


「僕、そこまで連日出来る自信ないよ……」

「別に毎日とか言うとらんやろ。何想像したんや?コウはエッチやなー」

「エッチっていうなら、真澄の方がよっぽどだと思うんだけど。変なプレイ提案するのは大体、君の方だったし」

「へ、変なプレイって。コウも受け入れてくれたやろ?」

「それはそうだけど、僕の方がエッチというのは受け入れられない!」

「そんなん、胸張って言うことやないやろ!」


 くだらない言い合いをしている内に、いつしか緊張が消えているのに気がつく。


 いつもと少し違う色っぽいネグリジェに手をかけて、脱がせていく僕。

 そういえば……。


「この下着とかネグリジェって……。もしかして、意識した?」

「そ、それはそうやん。コウにムラムラ来てもらわんと、でけへんわけやし」

「完全に術中に落ちてたってわけか」


 道理で、いつもと違う妙な色香がある気がした。


「それに、香水もやな。ウチもやれば出来るやろ?」

「完全に降参だよ」


 まさか、そこまで真澄が用意周到だったとは。

 こういう事は女性の方が計算高いと聞くけど。


「でも、緊張してるところは、可愛い、かな」

「も、もう、き、緊張なんてしてへんよ」

「嘘。肩が上がってる」


 そう思うと、嬉しくなって、俄然気分も盛り上がってくる。

 いつか、SかMかと言い合った事があるけど、僕はSなのかもしれない。


◇◇◇◇


「なんか、さ。付けずにしたの始めてだけど。色々、違うもんだね」

「何思い出しとんの?この、スケベ」

「そりゃ、だって、あれだけ何度もしたら……」

「今は、恥ずかしいの禁止や!」


 ぽふ、と枕を押し付けられる。


「なんで、そんなに恥ずかしがってるのさ?」

「そりゃ、いつも言わへんこと色々言ったから……」

「ああ、色々言ってたね。わぷ」

「だから、恥ずかしいの禁止やって」


 行為の最中の言葉がよほど恥ずかしいらしい。


「でも、これで、もし出来たら、僕はお父さんかあ」

「いっぺんでとは限らへんけど、ウチはお母さんやね」

「そういえば、出来るとして、真澄はどっちがいい?」

「男の子か女の子っちゅうこと?」

「そう。考えてみると聞いたことなかったなって」

「ウチは……女の子の方がええかな」

「へえ。理由は?」

「やって、コウみたいな子が生まれたらムカつきそうやもん」

「ちょ、よりによって、その理由はないって」

「冗談やって。ほんとは……妹が欲しかったんやろな」

「そこで、弟にはならないんだ」

「コウとは、小さい頃は姉弟みたいなもんやったし」

「まあ、そうかもね。僕も、女の子かな」

「男親やと、女の子欲しいってのが多いんやって」

「そうそう。やっぱり、娘の方が可愛いって。絶対」

「でも、希望通り出来るとは限らへんけどね」

「ま、その時はその時で」


 そんな、まだ見ぬ未来の事を語り明かした僕たちだった。

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