第23話 僕の幼馴染の誕生日パーティー(前編)

 5月21日の土曜日。この日は僕と真澄にとってとても重要な日だ。何故ならー


「なんや、大学生にもなって誕生日パーティとかちょい恥ずかしいんやけどな」

「気にしないでよ。僕がしてあげたかっただけなんだし」


 今日は真澄の誕生日なのだ。毎年、誕生日にはデートに行ったりプレゼントをしたりしているけど、今年はせっかくなので家に友達を招いて誕生日パーティをしようということになったのだった。


 ダイニングは普段のテーブルはどかして、背丈の低いものに。皆には座布団に座ってもらう形だ。そう広くもない2DKだと、スペースを開けないと人を呼べないのだ。


 天井には、


『HAPPY BIRTHDAY MASUMI』


 の垂れ幕。せっかくなので、気合を入れてみたのだ。


「にしても、ちょい気合入れすぎやろ」


 苦笑する真澄。


「いやいや、年に一度、それも今回は結婚して初めてだし」


 そこは僕としても譲れないところだ。


「ま、ありがとさん。嬉しいわ」


 なんだかんだ言いつつ、嬉しそうだ。


「それは良かったよ」


 誕生日パーティの開始は12時から。そろそろ誰か来てもいい頃だけどー


 ぴんぽーん。インターフォンが鳴った。


「どうも、コウ先輩。こないだ会ったばかりですけど」


 前より着飾った奈月なつきちゃんが来ていた。


「こないだぶりやな、ナツ。とりあえず、その辺に座っといて」


 奈月ちゃんは、用意された座布団にちょこんと座る。


「でも、今日はご招待ありがとうございます」

「いえいえ。奈月ちゃんは可愛い後輩だしね」

「何、ナツを口説いとるん?」


 素早く真澄からツッコミが入る。


「コウ先輩、奥さんがいるのにダメですよ」


 奈月ちゃんまで、楽しそうに悪ノリする。こんな悪ふざけが出来るようになったとは。


「いやいや、そういうわけじゃ」


 そんな事を言って笑い合う。そうこうしていると、またインターフォンが鳴る。


「ますみん、コウ君、久しぶり」

「おっす、コウ、中戸。久しぶり」


 次に入ってきたのは、小学校の頃からの友達である篠原正樹しのはらまさき杉原朋美すぎはらともみ。彼らは神奈川県にある大学に通っている。


「あのさ、正樹。ますみんはもう名字変わったんだから……」


 朋美が正樹に注意する。


「おっと、すまん。じゃあ、真澄……なんか慣れねえな」

「別に中戸でええよ。急に呼び方変わったら、ウチも慣れへんし」


 僕は結婚しても名字は変わっていないけど、真澄も昔から名字呼びの友達には旧姓で呼んでもらっている。


 さて、そろそろ料理を持ってくるか。キッチンで調理済みの料理をテーブルに運ぶ。


 ミートローフにローストビーフ、ローストチキン、サラダ、唐揚げとバリエーション豊富だ。


 料理の手間もかかるだろうし、ということでケータリングを提案したのだけど、


「せっかく皆がうちを祝ってくれるんやもん。ウチが作るんや」


 と言って聞かなかったのだ。料理は昨夜から作り置きしているのもある。


「いやー、美味そうだな。これが全部手作りってか?」

「ますみんも気合入ってるわね」

「さすがです、真澄先輩」


 と彩り豊かな料理は好評のようだ。


「じゃあ、真澄。何か一言」

「なんや、気の利いた言葉浮かばへんのやけど……」


 少し思案した後。


「篠原、トモ、ナツ。今日はウチの誕生日に来てくれてありがとな。また、誕生日祝ってもらえて、幸せやよ。今日は楽しんでいってな」


 そう笑顔で言ったのだった。


「じゃ、料理食べようか」


 各々、料理を取皿に分けて、食べ始める。


「このローストビーフ、うまっ。ほんとに手作りかよ?」


 と正樹。


「それは結構手間かけたからな」


「唐揚げもサクっとしてます。作りたてですか?」


 と奈月ちゃん。


「唐揚げは冷めたら美味しうないからな。揚げたてや」


「生春巻きも手作り?ほんと凝ってるね」


 と朋美。


「そっちは、ちょい自信なかったんやけど、良かったわ」


 皆から料理が褒められて、真澄も得意げだ。


「そういえばさ、正樹たちは、大学の方、どう?」


 近況をあまり聞いていないのを思いだした。確か、浜横大学はまよこだいがくだったか


「ま、そこそこだな。授業もまあ面白いし」

「サークルがちょっと独特で楽しいよね」


 と二人。


「二人はどこ所属?」

「現代映像文化研究会。現映研っていうんだけどよ。アニメでも漫画でも小説でも映画でもなんでもありでさ。読むのもだけど、自作漫画とか小説書いてる奴、映画作ってる奴もいるんだぜ」

「そうそう。ちょっと変わった子も居て、飽きないよ」


 聞いていると、楽しそうだ。


「ちゅーことは、二人とも同じサークルなんやね。上手く行っとるようで何より」


 微笑みをたたえて、二人を祝福している。


「ま、まあな」

「正樹はデリカシー無いんだけど。こないだもね……」

「いや、朋美。それは、謝っただろ!」


 二人が付き合い始めたばかりの頃、服を褒めただの何だので、喧嘩したこともあったっけ。


「そういや、奈月ちゃんはどうなんだ?」


 と正樹。そういえば、正樹たちは卒業してから会ってないか。


「受験生ですからね。息抜きしつつ、受験勉強頑張ってますよ」

「へえ。真面目だな。志望校とか、決めてるのか?」

「コウ先輩たちと同じところに行くつもりです」


 そういえば、先日、そのことを聞いたっけ。


「へえ。中戸のとこじゃなくて、コウのところねえ」


 にやにやと、何か含みがありそうな視線を向けてくる正樹。


「大丈夫ですよ。コウ先輩には振られちゃいましたから」


 何かとんでもないことを、笑顔で言い出した奈月ちゃん。いやまあ、卒業する前に告白されたけど、気持ちを伝えたいだけ、と言ってなかったっけ。


「コウ君も罪作りだね」


 何か乗ってくる朋美。


「いやいや、違うってば。奈月ちゃんも何か言ってよ!」

「冗談ですってば。たまたま、コウ先輩の名前が出てきただけですよ」


 びっくりさせないで欲しい。未だに想い続けているのかと思いそうになった。


「ますみんたちはどうなの?ここに住んでる時点で順調なんでしょうけど」

「仲良くやっとるよ。コウが夜ふかししたがるんが困りもんやけど」


 とため息をつきながらも楽しそうだ。


「そういえば、奥の部屋が、イカ臭いような……」


 くんくんと、朋美が匂いを嗅いでいる。え。まさか、情事の後が?


「いやいや、ちゃんと処理してるよ。匂いなんて……」

「そういえば、言われると、私もそんな気が」


 奈月ちゃんまでそんなことを言い出す。


「そんなに毎日毎日やっとらんよ。だいたい、コウは淡白やし……」


 と言って、墓穴を掘る真澄。途端に、皆から生暖かい視線で見つめられる。


「コウ、もうちょっと奥さんを気遣ってやれよな」

「ますみんも、欲求不満なら、旦那を押し倒すくらいで行かないと」

「ほんとに、仲いいですね」


 皆にいじくられて、恥ずかしいやら嬉しいやら。


「欲求不満とかちゃうからな?コウも求めてくれるときはちゃんと積極的やし」


 そんなことを言って、さらに皆に弄るネタを与える真澄。こうやってふざけ合う時間がとても楽しい。


 そして、誕生日パーティーは続く。


※中編に続きます

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