第9話 幼馴染はチャイを研究したいらしい
「ちょっとちょとコウ。こっち来てー」
日曜日の昼過ぎ、部屋でちょっと調べものをしていた僕だけど、真澄の声で呼び出される。
「ミルクティーみたいだけど、どうしたの」
僕の目の前には、ミルクティーらしきものが3つのカップに淹れられていた。
「ミルクティーやなくて、チャイよチャイ」
「インドカレーの店で出てくるやつだっけ」
「間違ってはおらんけど……」
食後に出てくる、あのなんだかスパイスの入った紅茶を思い出す。
「平たくいうと、牛乳で煮出した紅茶やな。色々スパイスが入っとるんやけど」
「それはわかったけど、急にどうして?」
「動画でチャイ作りのレシピがあってな。コウに味見して欲しいんや」
真澄は高校の頃料理部の部長だっただけあって、よく、新しいレシピを研究している。
「で、3種類あるのは?」
「スパイスの量と砂糖の量変えてみたんや。感想聞かせてや」
「了解。そういうことなら」
まず、一番左のやつを軽く飲んでみる。スパイスの香りとミルクの味が広がる。
「なんか、カレー屋さんで出てくるチャイって感じ。あ、いい意味でね」
「まあまあうまくできとったちゅうことやな。ほい、次」
次に真ん中のやつを飲んでみる。ちょっと香りが強いような。
「ちょっとスパイスの香りが強い気がする」
「それはシナモンを多めにな」
「なんか、シナモンってパンでよく聞くような」
「シナモンロールとかやな」
「ともかく、これはこれでいいかも。口がすっきりするかも」
「じゃ、最後な」
一番右のやつを飲んでみる。さっきのやつよりも香りが控えめで、甘さもすっきりしてるような。
「スパイスとか減らした?」
「こっちは逆にシナモンと砂糖減らしてみたんや」
「食後に飲むのだと、これがいいかも」
甘みが強いとすっきりしないし、香りがきつすぎるのも、少し苦手だ。
「これが一番いい感じか?」
「うん。3つの中だと一番」
うんうんとうなずいている真澄。
「これから、食後のお茶には、これ出してみるな」
「飲みやすくて、いいと思うけど。真澄はこれでいいの?」
「ウチはスパイス多めのがいいんやけど。せっかく作るから、な」
なるほど。僕の好みの味を調べるために、用意してくれたのか。食後のチャイはなんだか少し気分が落ち着くかもしれない。
「ほんと、頭が上がらないよ」
料理のことはほんとに任せっきりだし。
「ま、ウチも好きにやっとることやし」
彼女は僕のために料理を作るのが、ほんとに好きで、よく、こんなふうに、穏やかに微笑みながら僕を見つめてくる。ともあれ。
「それでも、ありがとう」
僕のお嫁さんがいつも僕のことを考えて作ってくれるのにはやっぱり感謝したい。
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