第10話 僕の幼馴染はコスプレも行けるらしい
日曜日の夕方。僕は、部屋のPCでちょっとある「モノ」を眺めていた。幸い、真澄は買い物にでかけていて居ない。
「メイド服も捨てがたいかも」
そう。僕が見ていたのは、コスプレグッズを売っている通販サイトだった。なんとなく、ネットをしていたら「彼女に着せたいコスプレ衣装10選」という記事を見つけたのが良くなかった。そこから、コスプレの通販サイトを検索して、真澄がどんなのを着たら似合うのかな、などと考えている始末だ。
(僕は、コスプレ趣味ないと思ったんだけど)
制服、水着、体操着、サンタ、ナース、メイドといった様々なコスプレについて、真澄が着たら似合うかどうかを妄想している始末。真澄にもし見られたらドン引きされそうだ。
きぃぃ。なんだか、玄関の扉が小さく鳴ったような気がしてビクっとする。まさか、もう真澄が帰ってきた?
「ただいまー」
「お、おかえり。ちょっと早かったね」
「?まあ、ちょっと目当ての食材が売り切れててな」
「そ、そっか。まあ、ゆっくりしてよ」
「……何か隠し事しとらん?」
じーと疑わしげな視線で見つめられる。さすがに鋭い。
「いや、別にそういうわけじゃないよ?」
「目が泳いどる。あ、そういえば、ちょっとPCで調べものするんやった」
づかづかと部屋に入っていく彼女。部屋には、僕用と真澄用の2台のPCがあって、真澄が自分のPCで調べものをするのを止める術はない。ああ。
というわけで。
「なーんか、変やと思っとったら、こんなことやったとは」
「ちょと引いたよね」
旦那が嫁に着せたいコスプレ衣装を眺めて居たと知った真澄の心情たるや如何に。
「コウはどういうのがええんや?」
「え、ええと。引かないの?」
「ウチにしてみれば、コウは欲が薄いから、こういうのも興味あるんやって知って嬉しいくらいよ」
「それはなにより」
ドン引きされなくてほっとした。
「で、どれが良かったんや」
「言わなきゃ駄目?」
「ウチに着て欲しいんとちゃうんか」
「それはそうだけどさ」
「やったら、言うだけ言ってみ。あんまり変なんはおいといて」
というわけで、何故か、真澄に着て欲しいコスプレ衣装を白状する羽目になったのだった。
「制服は……ついこないだまで着てたな。箪笥から出しとこか?」
「実は、ちょっといいかもと思ってる」
なにせ、同じ高校に通えたのはごく短い期間だ。
「ナース服は?」
「ちょっと微妙かも。ナースってイメージじゃないし」
「スクール水着は……うわ、こんなん、ウチの高校でもなかったわ」
「実はちょっと見てみたいかも」
「意外なところにこだわりがあるもんやね」
「バニーガール……ちょっと、露出がきついな」
「僕も、あんまり」
もうちょっと落ち着いたイメージがあうと思うんだよね。
「サンタ……はー、こんなんまであるんやね」
「ちょっと着てみて欲しいかも」
クリスマスにでも着てくれたら、ちょっと楽しそうだ。
「体操服のブルマって、こんなんどこの高校が使っとるんやろ」
「僕も、ちょっとブルマは違うかな」
パンツみたいでちょっと落ち着かない気がする。
「巫女服かあ。初詣のときに居る巫女さん、きれいやよね」
「これは、真澄に似合いそう」
そして、コスプレ談義は延々と続いたのだった。
結論として。
「前からおもっとったけど、露出低めのが好きやね」
「……う。まあ、そうかも」
「ま、ちょっとお高いから買うのは微妙やけど。制服ならええよ」
「そ、その。ほんとに?」
「着る機会もそうそう無いやろし」
というわけで、高校のときの制服を引っ張り出して着てもらうことになったのだった。
「どや?サイズはあんま変わってへんと思うんやけど」
真澄が着たのは、上下黒に、赤のリボンという、冬用のセーラー服。放課後にデートしたときにもよく見た服装だ。見慣れてたはずなのに、こうして、大学生になって着られると不思議な感慨がこみ上げてきて、思わずぎゅっと抱きしめていた。
「ちょちょ、急にどうしたんや?」
慌てる真澄。
「こう、ぐっと来るというか」
うまく言葉にできないけど、大学生の真澄が高校の制服を着てくれるということに魅力を感じる。勢いのまま、彼女の唇をうばう。
「んん」
唇を離す。
「コスプレの効果はばつぐんやね」
恥ずかしそうな、それでいて嬉しそうな表情の真澄。少しだけ紅潮している頬も、セーラー服のコスプレをしてくれているというシチュエーションも、制服からただよってくる、懐かしい匂いも刺激的だ。
ーー
「あー、制服、汚れてもうたな」
「ご、ごめん」
結局、寝室に移動せずにやらかしてしまったのだが、色々汚してしまった。
「これからは気をつけるよ」
「ウチもまあ燃えたから、その辺はお互い様やけど」
でも、と。
「こういう趣向もええもんやね」
と、可笑しそうな表情で言ったのだった。
「あ、でも。たまにやからな」
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