第44話 大晦日の僕たちと実家

「はー、おこたはぼーっとしてまうわー」


 顎をこたつの机に預けながら、ぼけーっとした様子の真澄。

 気の抜けた表情をしているのも愛嬌がある。


「去年の冬はお世話になったもんだよね。おこた」


 付き合って初めて迎えた冬。

 僕等が寛いでいる部屋に二人用の小さなこたつを導入したのだった。


 そして、今日は12月31日の大晦日。僕らは実家に帰省していた。

 お嫁さんである真澄にとっては、本来初めての実家。

 なのだけど、遠慮なく寛いでいる。

 真澄は既に家族ぐるみの付き合いがあった故だろう。


「去年の今頃は受験勉強で大変で、のんびりでけへんかったけどな」

「クリスマスが最後の息抜きって感じだったよね」


 去年の大晦日を思い出す。

 例によって、僕の部屋だったのだけど、色っぽい話はナシ。

 ひたすら受験勉強一緒だった。


「なあ、そっち行ってええ?」

 

 ふわぁとあくびをしながら、のんびりとした声で聞いてくる。


「そりゃ、もちろん」


 ずるずるとおこたから這い上がったかと思うと、回り込んでくる。

 そして、僕の膝の上にドンと腰を下ろした。


「はー、ええ心地やー」


 甘えたいのだろうかと、背中からぎゅっと抱きしめてみる。

 こたつの暖かさと彼女の暖かさと柔らかさが同時に伝わってくる。


「ん……♪」


 一瞬、こちらを振り向いたかと思うと、僕の手に彼女の手を重ねてくる。


「にゃーんとか言ってくれたら嬉しいかも」


 なんて、ツッコミ待ちの台詞をかましてみるものの。


「にゃーん♪」


 ほんとに、鳴き真似が返ってきた。うん、実に可愛い。

 調子に乗って、喉のあたりを撫でてみる。どこまで行けばツッコミが来るかな?


「ごろごろ♪」


 擬音まで表現して、猫になりきっている。うん。可愛い。

 さらに調子に乗って、頭を撫でてみる。


「にゃあーん♪」


 あくまで猫っぽく行く趣旨らしい。

 なら、お腹を撫でてみる。柔らかな感触が伝わってくる。


「ふにゃー♪」


 普段、「太ったとでも?」という反応がかえってくる事が多いのだけど。

 やっぱり猫になりきるらしい。

 しかし、ここまで甘えられると色々ムラムラくるな……。

 顔をこちらに向けさせて、ちゅ、と軽くキスをする。


「はあ……コウ、そこ、おっきくなっとるよ」


 艶っぽい声で指摘されるけど、実際その通りだった。


「だって、真澄が可愛いから」


 スカート越しに下腹部に手を入れて、ちょっと触れてみる。

 少し、湿っているのが感じられる。


「あ、ん……♪おこたでするん?」


 艶っぽい声がますます僕を刺激する。


「ベッドでもいいけど」

「ええよ。新しい趣向にチャレンジっちゅうわけやな」


 というわけで、オッケーらしい。

 セーターをゆっくり脱がせて、ブラ越しに胸の膨らみに触れる。


「ん、ん……コウはほんと上手やよね」

「そうかな。なんとなく触れてるだけだよ」

「力加減が絶妙なんやよ、コウのは」

「ひょっとして、自分で触れたのと比較?」

「……言わんでもわかるやろ、イケズ」

「無粋だったね。続けるよ?」

「うん……」


 というわけで、行為におよぶ僕たち。


◇◇◇◇


「座りながら、後ろからっちゅうのも新鮮やね」


 満足げに言う真澄。

 服を整えた後、再び同じ体勢でいちゃつく僕たちである。


「うん。それに、猫っぽいのも良かった。ひょっとして、あれもネットで?」

「あれは……なんとなくやってみたかっただけよ。え、えっちなゲームとかみて」

「いつの間にそんなゲームを?」

「大学の友達が……。なんか、面白いからって押し付けて来たんよ。それだけ!」

「今度、一緒にプレイしていい?」


 あの手のエッチなゲームには僕も興味があったのだ。


「ちょいはずいんやけど……結構おもろかったから、ええかもな」

「じゃあ、家に帰ったら、ということで」

「でも、ウチら、だんたんプレイがマニアックになっとらん?」

「それを真澄が言うの?拘束具とか要求してきたのに」

「あ、アレは……ちょい試してみたくなっただけよ!」

「別に照れ隠ししなくても、あれも可愛かったよ」

「ウチはどんどん深みにハマっとる気がして、ちょい怖いわ」

「別に色々試してみるのは悪くないと思うけど」

「アブノーマルなプレイに手を出さんといてな」

「拘束具はアブノーマルに片足突っ込んでると思う」

「……」

 

 無言だった。自覚はあるらしい。


「そ、それはそうとやな!もう大晦日やね」

「また強引な話の転換だね。でも、そうだね。明日になったら来年か……」

「こうして、コウの家で年越しするとは思ってへんかったわ」

「それは僕も同じ。不思議なもんだよね」


 父さんと母さんにとって、今や真澄は義理の娘にあたる。

 だから、同じ家で年越しをするのは不思議ではないのだけど。

 やっぱり、少し不思議に思えたりする。


 夕食は恒例の年越し蕎麦。

 家族四人揃っていただきますをして、ずるずるとすすり始める。


「あ、コウのとこは、関東風なんやね」

「ということは、真澄のところは、関西風?」

「とーさんに合わせとるんや。やから、濃いおつゆのは新鮮よ」


 なんて、和やかに蕎麦をすすっていると、向かいから微笑ましげな視線。


「なに、母さん?」

「ううん。本当、熱々だから。付き合い始めた時は初々しかったのに……」

「そりゃ、もう結婚してるしね。ね?」

「お付き合い始めた頃はおばちゃ……お義母さんにも気い遣うてもらいましたけど」

「そういえば、母さんが引っ込んで、真澄が朝に厨房に立つのが定番だったよね」


 もう、あれから2年経つのか。


「あ、でも。真澄ちゃん。別におばちゃんでいいのよ?」

「俺のこともおっちゃんでいいからな?」


 優しげに言う父さんと母さん。

 確かに、改まって呼び方を変えるものでもないのかも。


「なんや照れくさいです。二人が義理の両親になるなんて思うてませんでしたから」


 何やらくすぐったそうに、僕の両親を交互に見やる真澄。

 確かに、家族ぐるみといっても、実際に家族として過ごすのは初めてだし。


「あら、そうなの?私はいつか義理の娘になると思ってたわよ、ねえ?」

「ずっと仲が良かったからな。こりゃ、その内結婚するだろうなと思ってたな」


 母さんと父さんは異口同音にそんな事を言うけど、そんなにだったの?

 年越し蕎麦を食べた僕等は再び、部屋のおこたでぬくぬく。


「そういえば、明日は真澄の家で集まるんだよね。ちょっと緊張してきた」

「……だいたい、こっちの部屋で集まっとったよね」

「真澄の家で過ごすのは恥ずかしかったんだよ。おばさん、からかうのが好きだし」

「かーさんは、ウチの事もよくおもちゃにしとったしな」

「ま、諦めるしかないか」


 しばらく無言になり、ゆったりとした時間だけが流れる。

 今となっては、こんな時間が全然不快じゃない。

 お互いにスマホをいじったり、時折目を合わせたり。

 そんな時間が過ぎて、気がつけば、もう23時を過ぎていた。


「あ、そろそろ、あけおめラインの準備しなきゃ」


 こたつから抜け出して、PCを立ち上げる。


「ん?なんでPC?」

「午前0時に皆に一斉送信するの。スマホだとやりづらいでしょ?」

「なんや、コウのあけおめがぴったりやと思っとったけど……」

「呆れてる?」

「いや、コウらしいなあと思っとるよ」


 その声は少し可笑しそうで楽しそうだった。

 歴史研究部、料理部、史跡を訪ねる会、……それぞれ別のあけおめ

 メッセージを用意しておく僕。

 そして、真澄用には特別なメッセージを。


「もう、残り1分やよ?」

「うん。準備は万端だよ」


 午前0時へ向けて、残りの時刻が59秒、58秒、57秒……となっていく。

 そして、残り0秒。ポンと準備したメッセージを一斉送信。


【あけましておめでとう、真澄。改めて、旦那として今年もよろしくね】


 未だに二人の間で使い続けているスカイプで特別なあけおめメッセージを送る。

 そして、僕の元には。


【あけましておめでとう、コウ。嫁として今年もよろしくな♪】


 そんなメッセージが届いていたのだった。


「真澄も、僕向けにあけおめメッセージ準備してたんだ?」

「どうせコウの事やから、やるやろうと思ったんよ」

「さすがに読まれてたか」


 でも、心の距離が今までよりも近づいたみたいで、なんだか嬉しい。


「伊達にちっちゃい頃から一緒に過ごしとらんよ?」


 自慢げに言う真澄に、少し照れくさくなる。

 以心伝心。

 その域にはまだ遠そうだけど、近づけたのかな、なんて思いながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る