第3話 入学式に参加しました

 さて、日は進んで4月7日金曜日。いよいよ、東都大学の入学式だ。その間も手続きやら入学に備えての準備で忙殺されていたけど、昨日なんとかできることは済ませたのだった。


 入学式といえば、スーツというものを着る必要があるらしく、昨日はネクタイの結び方で悪戦苦闘していた。なんで、あんなに難しいのだろう。ともあれ、なんとかスーツを着てネクタイを着けてみる。うーん。これで大丈夫かな。鏡を見てみるけど自信がない。


「真澄ー。これで大丈夫か見てほしいんだけどー」


 寝室の方で着替えている真澄を呼んでみる。


「どないしたん?」


 現れたのは、黒いスーツに身を包んだ真澄。僕のと違ってやや胸周りが開いていて、ゆったり目な感じだ。スーツを着た真澄は、日頃の少し幼いイメージのする服装とまた違っていて、なんともいえない雰囲気を醸し出している。


「いや、スーツ見てもらおうと思って。あ、それと、真澄のスーツ、似合ってるよ」

「あんがとさん。んー?ネクタイの結び方が間違っとるよ」


 あれだけ練習したというのに、間違えていたのか。とほほ。


「ほら。こうやって……」


 と、ネクタイを一から真澄に結びなおしてもらう。少し、情けない光景だ。


「コウは変なとこだけ不器用やね〜」


 楽しそうにそんなことを言われてしまう。


「僕だってさ……」

「ふてくされない、ふてくされない。ネクタイくらいウチが毎回結んだるから」


 それは、さすがに男として、というか、人間としてのプライドに関わるんだけど。まあいいか。


 身支度を整えた僕達は、まだ住み始めたばかりの2DKを後にする。僕らの通うことになる東都大学までは徒歩で20分程だ。


「もう、桜散り始めとるなー」

「今年は早かったからね」


 桜がはらはらと落ちていく景色の中を二人で歩く。今日は荷物があるので、一緒に手を繋げないのが残念。


「正樹たち、どうしてるかな。ちょっと離れちゃったよね」


 ここには居ない友人たちのことを考える。正樹と朋美は、神奈川県にある大学に進学。都内から行けないほどじゃないけど、少し住むところも離れてしまった。確か、同じく今日が入学式だったはずだけど。


「トモからはライン来とったで」

「正樹からは来てないんだけど……」


 まあ、正樹は正樹で事情があるんだろうけど、元気でやってるといいなあ。


「僕たちも、大学生、か」

「どうしたもんやろねー」


 入学式も始まっていないから無理もないけど、いまいち実感が湧かない。結婚関係でおおわらわだったせいかもしれない。


 そんなことを話していると、東都大学の校門に無事到着。同じ新一年生になるであろう人たちを見て、ようやく少しずつ実感が湧いてくる。


 入学式は、といえば、高校の入学式とあまり変わらない退屈な部分もあり、正直聞き流していた部分も多かった。ただ、


「……大学は自分で学ぶ場です。高校のときと同じと思っているとおいて行かれますよ……」


 そんな学長の言葉が印象に残ったのだった。


「自分で学ぶ場、か……」


 大学の講堂を出ながらつぶやく。


「コウはどんな講義取るつもりなんや?」

「うーん。必修はともかく、それ以外も歴史とか、経済学とか色々と取ってみたいな……」


 まだ、どんな講義があるかもあまり把握してないんだけど。


「ウチは理系で、コウは文系やからなあ。必修は結構違いそうやね」

「だね。必修以外は時間合わせたいけど」


 もちろん、取りたい授業あってのことだけど、せっかくなら同じ教室で授業を受けたい。


「ま、あとでそのへんはあわせよか」

「うん。よろしく」


 そんな風にして歩いていると、文学部棟と理学部棟の分かれ道に差し掛かった。オリエンテーションは学部ごとに違うから、真澄とはいったんここでお別れだ。


「じゃ、頑張ってきてね」

「コウこそ」


 そんな言葉を交わし合って、僕はオリエン会場に向かったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る