第17話 僕と幼馴染の新婚旅行(後編)
「今日で新婚旅行も終わりかあ」
ベッドの中でぽつりとつぶやく。
「ほんま、あっという間やったね」
隣を見ると、真澄が既に起きていた。
「もうちょい、ゆっくりしてたかったよね」
お金の問題があったのだけど、もう一泊追加しても良かったような気がしてくる。
「そやね……」
少し寂しそうな表情と声色に、胸が締め付けられる。家に帰ってももちろん一緒にいられるのだけど。なんとなく、手を伸ばして、彼女の背中を撫でる。
「家に帰ってもこんくらい、一緒に居られるとええんやけど」
「うぐ。努力するよ」
僕も、こんな風にイチャイチャしたくないわけじゃないけど、照れもあってちょっと淡白になりがちなのは自覚している。
「冗談やて。いつも通りでええよ。いつも通りで」
手を背中から回して、抱きしめられる。色々頭が上がらないなあ。身体の暖かさを感じながら、そんなことを思った。
そんなこんなで、しばらく部屋でゆっくりした後は、朝食へ。
メニューは昨日と似ていたけど、魚が鮎の代わりに焼き鮭になっていた。
「うん。美味しい」
そんなに舌が肥えているわけじゃないので、そんな月並な感想しか出てこない。
「帰ったら、お味噌汁工夫しよかな」
真澄は、早速、普段の食卓に活かすことを考えているみたいだ。彼女の料理は美味しいし、作ってもらえるだけでありがたいんだけど。
朝食が終わると、いよいよチェックアウトの準備だ。旅行バッグを確認して、忘れ物がないことを確認する。よし。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
そんな女将さんの声に見送られて、旅館を後にする。今日は、お土産を買った後は、新幹線に乗って帰るだけだ。
というわけで、近くのお土産物屋さんへ。
「お土産、何にしようかな……」
二人で色々見て回る。牧場があるだけあって、ミルクやチーズケーキ、チーズクッキーといったものが定番みたいだ。
「あ、これなんかどうや?」
レトルトカレーぽいパッケージを手に取って、見せてくる。
「いちごカレー!?」
見るからに色物というかネタ臭がしてくるのだけど。
「せっかくやし、こういうのもええやろ?」
ネタになるお土産を見つけて、なんだか楽しそうだ。
「作るの?いちごカレー」
あまり好き嫌いはしない方だけど、美味しそうなイメージが思い浮かばない。
「そんな顔せんでも。面白いネタやし、友達に渡すだけや」
「ああ、うん。話のネタにはなりそうだね」
いちごカレーを食べる羽目にならなくて、一安心。
「僕はチーズクッキーにしようかな」
観光地でのお土産でクッキーは定番だけど、当たり外れはなさそうだ。
「あと、友達に渡す分も考えないと」
大学に入ってからできた友達もだけど、
「篠原やトモには、ウチらで一緒に渡せばええんとちゃう?」
「それもそうか」
そんなことを話しながら、お土産を物色する。結果。
・チーズケーキ
・チーズクッキー
・いちごカレー
・チョコレート(フルーツ入り)
・温泉饅頭(ど定番だ)
などなどを買ったのだった。
帰りの新幹線にて。
「何してるの?」
何やらスマホでいちごカレーの写真を撮っている真澄。
「友達に、ネタ画像送ろうと思ってな」
なんだか、楽しそうだ。しかし、今思ったのだけど。
「真澄は、どのくらい友達いるの?。あ、大学でって意味ね」
「うーん。講義一緒になった連中とか、ぼちぼちって感じやね」
何か数え上げている様子の彼女。
「その割には、あんまり友達と遊んでくるとか聞かないけど」
大学の友達とどこそこに行ってくる、とかいう話を聞かない。すると、何やら微妙そうな表情で見つめられる。
「え、ええと。何?」
「コウと一緒に居たいから、あんま誘いに乗ってないんやけどな」
「それはごめん」
真澄の気持ちがわからないわけじゃないけど、時々、こういう、うかつな発言をしてしまう。
「ウチはウチとして、コウはもっと大学の友達と遊んでもええんやで?」
「いやいや、それこそ、できないよ」
友達をないがしろにする気はないけど、僕だって、真澄と一緒に居たいのだ。
お互いの交友関係を気遣ってしまう辺り、僕達は似たところがあるのかもしれない。
「ま、まあ、同じサークルなわけだし、一緒に遊びに行ければいいんじゃないかな」
「そやね。サークルで遊びに行くんやったら安心やわ」
そんな事を話していると、あっという間に東京駅に到着だ。都内の路線に乗り換えて、数駅なので、家まではあっという間だった。
「ただいまー」
なんとなく、家の扉を開けて挨拶をしてみる。すると。
「おかえり」
後ろからそんな声がする。
「一緒に帰ってきたのに、少し変な感じだね」
「な」
少しくすぐったい気持ちになって、お互い笑い合う。
そうして、僕たちの二泊三日の新婚旅行は終わったのだった。記念写真もいっぱい撮ったし、思う存分イチャイチャしたしで、今回の旅行もまた想い出に残りそうだ。
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