第47話 お披露目パーティー(前編)

 今日は2月14日、バレンタインデー当日だ。

 そして、僕ら夫婦のお披露目パーティーの日でもある。

 

「会費は3000円です。よろしくお願いしますー!」

 

 会場入口で受付をしているのは、ひょんなことで知り合った、高校時代の後輩の折原奈月おりはらなつきちゃん。出会った時は、おっちょこちょいで暴走癖のある女の子だったけど、危なげなく受付と集金をしている手際は流石だ。実は、最近知ったのだけど、真澄ますみが去った後の料理部で会計係をしていたらしい。


「僕のタキシード姿、どうかな?変じゃない?」

「相変わらず妙なところで心配性だな。大丈夫だってばよ」


 呆れたように応じるのは篠原正樹しのはらまさき。僕の小学校からの親友であり、中学高校を共にした仲間でもある。


「以前は二人だけだったからね。気になるんだよ」

「大丈夫、大丈夫。よく似合ってるよー」


 陽気な声をかけてくるのは、杉原朋美すぎはらともみ。同じく、僕の小学校の頃からの親友であり、真澄と同じ中学・高校である友達だ。恋の相談事にはよく乗ってもらった。


「そ、その。ウチはどうや?」


 少し恥ずかしげな面持ちで、姿を表したのは松島真澄まつしまますみ。旧姓は中戸なかど。去年の春結婚した、僕のお嫁さんだ。


「すごく似合ってる。前のよりも、もっと」


 写真館で撮った時に使ったウェディングドレスを思い出す。

 今回はレンタルとは言え、真澄が自分に似合ったのを選んだだけあって、

 サイズもぴったりフィットしているし、真澄好みの動きやすいデザインだ。

 

「ありがと。コウのもよく似合っとるよ」

「そ、そっか。ありがとう」


 こういう衣装を着るのは二度目だけど、やっぱり特別な気分があって、嬉しいけど照れる。


「ますみん、ドレスよく似合ってるよー。私もその内着たいなー」

「ですよね。ちょっと羨ましいです」


 朋美に、いつの間にやら奈月ちゃんも来ている。


「トモは篠原と挙式する時に着ればええやん」

「そうそう。正樹とは結婚前提に付き合ってるんでしょ?」

「そ、それはそうだけど。まだ先の話!」


 思わぬ反撃にびっくりした朋美は、照れ隠し。


「だ、そうだけど、正樹としてはどうなの?」

「俺は……まあ、学生結婚とかちょっと憧れるな。って今日は俺達の話はいいだろ」

「バレたか」


 お披露目パーティーということで、ちょっとテンションが上がっているのかもしれない。僕らしくもなく、なんだか正樹を弄ってみたくなったのだ。


「あ、そろそろ開始時刻ですよ。コウ先輩ははやく控室に!」


 時計を見た奈月ちゃんが僕らを促す。


「奈月ちゃんも、本当にしっかり者になったね」

「いつまでも暴走してばかりは居られませんから」


 不敵に微笑むその姿は、本当に成長したなあと思わせられる。


「じゃあ、奈月ちゃんの彼氏もその内拝めるかな?」

「そういうのは……まだですよ、まだ。受験が終わってからゆっくり考えます!いいから、入ってください!」

「はいはい。大学入ってから、たっぷり聞かせてもらおうかな?」

「今日のコウ先輩、やけに意地悪ですね?」

「かもね。ちょっとテンションが上がってるのかも」

「トチって、真澄先輩に恥かかせないようにしてくださいよ?」

「それは大丈夫だって」


 そんな会話を交わしながら、僕は控室に向かっていく。


「それでは、松島宏貴まつしまこうきおよび中戸真澄なかどますみ両名の結婚記念パーティーを執り行いたいます!」

「司会進行は、私、杉原朋美すぎはらともみと、そちらの篠原正樹しのはらまさきが務めさせていただきます。よろしくお願いします。それでは、皆様、拍手で新郎新婦をお迎えください!」


 スーツ姿の正樹と朋美が二人で開会の挨拶をする。今回、パーティーをするにあたて、正樹と朋美には司会進行を、会計を奈月ちゃんにお願いすることになった。本当に感謝だ。


 僕と真澄は、お互い見つめ合いながら、一歩、一歩、壇上に向かって歩いて行く。


「ますみん、綺麗だよー!」

「コウ君も素敵ー!」

「真澄さん、綺麗ですよ」


 などと、周囲から歓声が飛び交う。


 僕の高校で所属していた歴史研究部の仲間たちに、真澄の料理部、それに史跡を訪ねる会で特別親しくしていた、部長の永山聡ながやまさとしさんに山科優子やましなゆうこさん。あとは、大学に入ってからの友人代表ということで、僕側からは米澤拓人よねざわたくとに、真澄側からは、宮本明子みやもとあきこさんを呼んである。皆、急な誘いにも関わらず、快く応じてくれたのだ。


「それでは、新郎新婦から一言挨拶をお願いします」


 正樹から僕へ、朋美から真澄へマイクが渡される。

 カジュアルなパーティにしたかったので、この辺りも適当だ。


「えーと、皆様。松島宏貴まつしまこうきです。親しい人は「コウ」で覚えてくれているかもしれません。今回は、お忙しい中、僕たちのために駆けつけて来てくれて、本当に、本当に、ありがとうございます」


 言っていて、途中から涙が出てきた。やばい、泣きそう。


「ちょ、コウ。何泣きそうになってんの。えー。中戸真澄なかどますみです。今は既にコウと結婚してるから、松島真澄まつしまますみですけど、今までの友達は気にせず旧姓で呼んでください。今回は堅苦しい感じにしたくなかったので、席次なんかは適当にしましたが、皆様、しばらくご自由にご歓談ください」


 途中で挨拶を引き継いだ真澄だけど、彼女は彼女で泣きそうになっている。


「ま、進行は俺たちに任せて、二人は適当に回って挨拶してこいよ」

「ありがと。じゃ、行こうか、真澄」


 そうして、大学時代の友人組、史跡を訪ねる会の二人、料理部、歴史研究部、と席を回っていく。口々にお祝いの言葉と、「子どもはいつ?」というからかいの言葉をもらって、とても嬉しい限り。


「皆様、ご歓談のことと思いますが、次に、新郎新婦による誓いのキスに移りたいと思います!」


 朋美によるアナウンス。


「はあ。キスはなんべんもしてきたけど、皆の前でとなるとなあ……」

「僕も。さすがに緊張してきた」


 周りが見守る中、向かい合う僕たち。


「キース!」

「キース!」

「いい感じのを期待してるわよー!」


 などなど、わいわいがやがやと歓声が飛んでくる。

 お互いに一歩近づいて、真澄のドレスのベールを上げる。


「なんや、写真館でのキス思い出すなあ……」

「だね。あの時は、二人っきりだったけど」


 小声で会話して、軽く唇を押し付けあうキスをする。

 これを皆が見てるんだと思うと恥ずかしくなる。


 周りからはきゃーきゃー言う声が響いてくる。


「アンコール!」

「アンコール!」

「アンコール!」


 と思ったら、アンコールの声が。


「え、えーと。アンコール、ねえ……」

「な、なあ」


 少しの間、目を見合わせて戸惑うけど、アンコールの声は鳴り止まない。

 ま、これくらなら、いいか。

 アイコンタクトを取って、もう一度素早くキスをする。


 周りはさらにきゃーきゃーわーわーと盛り上がる。


 こうして、パーティーはまだまだ続く。 

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