第46話 僕たちの初詣

 3日は、真澄と二人でお互いの祖父母の家を回った。

 のだけど、2つの家を一日で回るのだから、なかなか大変だった。

 それに、両家の祖父母からは、孫の顔が早くみたいとせっつかれる始末。

 いずれは、とお茶を濁したものの、色々大変だった。


 そして、今日は1月4日。

 明日には東京に帰るけど、その前に初詣をしようということになった。


「うんうん。相変わらず似合ってるよ。真澄」

「コウも……似合っとるよ」

「なんか間が開かなかった?」

「冗談やって」


 振袖姿とジャケットを着込んだ僕は二人で、近所の神社への道のりを歩いていた。

 家から徒歩15分。大して人気はないものの、付近だと他に神社はない。

 だから、予想してしかるべきだったのかもしれないけど-


「あれ?ますみん」

「コウじゃねえか。なんで」

「いや、それはこっちの台詞なんだけど」

「そうやで。つか、二人もこっち帰省しとったんやね」


 神奈川県にある大学に進学した、正樹まさき朋美ともみに遭遇。


「あ、先輩たち!お久しぶりです!」


 と思ったら、今度は奈月ちゃんまで。


「考えてみると、地元はここしか神社がないんだった」


 そう考えると、意外と遭遇率は低くないんだろう。


「まあ、せっかく会ったんだし。皆で初詣しようか!」


 ということで、合流した三人と一緒に初詣をすることになった。

 お互い、近況報告を軽くしたところで、ふと、思い出したことがあった。


「僕たちの、お披露目パーティー、2月14日にやろうと思うんだけど。空いてる?」

 

 仮に設定したものの、彼らが合わないようだったら、再設定する予定だった。


「大丈夫です」

「俺も大丈夫だな」

「私も」


 のだけど、心配は杞憂だった模様。


「じゃあ、2月14日は空けといて?あ、基本的に仲がいい人だけのお披露目会だから、軽い気持ちで来てよ。ご祝儀とかは要らないから」 

「それはありがたいんだが……お前らはドレスとかタキシードにしねえのか?」

「あ、言われて見れば。どうしよ、真澄」

「せっかくやから、もう一度着て見たい気はするな」

「そっか。じゃあ、僕らの服は結婚式っぽくってことで」


 お披露目パーティということしか考えてなかったけど、確かにせっかくなのだから、その方が「らしい」かもしれない。


「真澄先輩の花嫁衣装、楽しみです」

「ますみんのドレス姿、可愛いんだろうなあ」

「と女性陣は言ってるが、コウはどうよ?」

「ああ、実は、以前にね……」


 ということで、写真館でドレスとタキシードの写真を撮ったことを説明した。


「道理で、二人とも落ち着いてると思った。でも、コウ君がタキシードか……」

「コウがタキシードは似合わないな」

「どうせ、僕はタキシードが似合わない男ですよ」

「コウ先輩のタキシード姿も、きっと素敵ですよ」

「慰めてくれてありがとう、奈月ちゃん」


 いや、ほんと、僕だって自覚はしてるんだよ。うん。

 そして、五人連れ立って、さっとお参りを済ませる。

 

「皆はどんな願いごとした?」


 ふと、気になったので聞いてみる。


「私は……東都大学とうとだいがく合格!ですね」

「そういえば、もうすぐ受験だったね。調子はどう?」

「模試はA判定ですし、順調に行けば、大丈夫……のはずです」

「なんで自信なさげ?」

「だって、私、ケアレスミス多いですから。それで、どれだけ問題を逃したか……」

「ま、まあ。見直す時間を十分に取れば大丈夫だって、うん」


 なんだかんだいいつつ、A判定なら大丈夫だろう。


「俺は、留年せずに、楽しく過ごせりゃそれでいいかな」

「そこは朋美と一緒に、とかいうところじゃないの?」

「そうよ。私は、ちゃんと、正樹まさきと一緒に……てお願いしたのに」

「いや、わりぃ。さっきの照れ隠しで、ちゃんとそっちもお願いしたって」

「ほんとにー?」

「本当だって」

「じゃあ、許してあげる」


 相変わらず、朋美に頭が上がらない正樹を見て、僕たちは苦笑い。


「で、肝心のお前らはどうなんだよ?」

「そうそう。ますみん達のお願い、気になるよー」

「ですよね。というわけで」


 マイクを渡す仕草をして、僕等に吐かせようとしてくる。


「うーんと。真澄と、家族としてずっと一緒に平和に過ごせますように、かな」

「ウチも……。コウと一緒にずっと居られますように、て感じ、や」


 今更隠す間柄でもないけど、周りに打ち明けるとなると、多少は照れも出る。


「もー、あっつあっつじゃないの。ますみんたち」

「ほんと、めでてえこった」

「妬けてきちゃいますよね」


 そうして、ひとしきりからかわれた後、僕等は解散。


「あー、もう。恥ずかしかった」

「それはウチもやって。特に、ナツは色々突っ込んでくるし……」

「奈月ちゃん、ほんと興味深々だったよね」


 性生活の話まで聞こうとしたので、そこはさすがにストップをかけた。


「そういえば、な。さっきのお願いやけど」


 ふと、妙に緊張した様子になる真澄だけど、どうしたんだろう?


「お願いがどうかした?」

「実はな。ちょい追加でお願いしたのがあったんよ」

「何?言ってみて?」


 単に照れるだけじゃなくて、緊張した様子になるお願い。気になる。


「その、コウとの赤ちゃん欲しい、なって」

「~~~~」


 思わぬ方向からのお願いに、身体が熱くなる。

 しかも、この方向からして、ひょっとして……。


「それは、いずれ、とかいう話ではなく?」

「もちろん、待てるんやけど。在学中でも」


 顔がまっかかだ。僕も、顔が赤くなっているに違いない。


「理由、聞いてもいい?」

「その……実家帰ったやん。皆で過ごして……ウチらも子ども欲しいって」

「な、なるほど」


 なんとなくはわかる。

 義理の娘として迎えられて、なんとなく意識してしまったんだろう。

 それに、祖父と祖母の家でさんざん孫のことを言われたのも。


「で、コウはどう思う?子ども」


 羞恥で真っ赤になりながら、それでも真剣な瞳で答えを求めている。


「僕も、欲しいかな。真澄との赤ちゃん」


 率直な気持ちを言えば、それだった。

 何より、真澄がそれを望んでくれているのがとても嬉しかったから。


「でも、ウチら学生やからな。無理言っとるのはわかっとるんよ」

「それは……休学でも何でもすればいいと思う」


 高校と違って、大学では留年も休学も珍しくない。


「でも、養育費の問題もあるんやない?」

「その辺はいざとなれば、実家に頼れば大丈夫。父さんたちも嫌とは言わないよ」

「ウチも嫌とは言わへんやろけど……ちょい気が引けるんはあるんよね」

「そこは僕も同じだけどね」


 でも、と続けて。


「真澄はどうしたい?僕は、真澄が望んでくれるなら、欲しい、かな」


 常識的に早すぎるのでは?そんな思いは今もある。

 でも、真澄が望んでくれるなら、僕も……と思う。


「う、ウチも……。赤ちゃん、欲しいわ」


 そこまで言われたら、僕としても覚悟を決めないわけにはいかない。


「じゃ、じゃあ、そうしよう?色々大変だけど、きっと、なんとかなるよ」


 まあ、いざとなった時には、実家頼りというのが情けないところだけど。


「ありがとな、コウ」

「いや、こちらこそ。ありがとう、真澄」


 どこか照れくさい気持ちになりながら、初詣からの帰路についたのだった。


 しかし、この年で父親か……色々、実感が湧かないなあ。

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