第45話 元旦の僕たちと嫁の実家
ぼんやりと意識が覚醒してきた。
ふと隣を見ると真澄の可愛い寝顔。
すやすやと息をしている姿を見て、自然と髪を梳いていた。
お互いに裸だ。
あけおめの後になんとなく盛り上がってしまったのだ。
「ん……コウ?」
目をこすりながら、寝起きのぼんやりとした声の真澄。
「おはよう、真澄」
「おはよう、コウ。裸やと……ちょい恥ずかしいな」
「もう何度もあったと思うけど?」
「今朝のが姫始めやったやん。それでなんとなく……」
「言われてみれば。そんな事意識してなかったよ」
ふと、身体を起こした真澄を見ると、一糸まとわぬ姿。
自然と身体の一部が興奮してきてしまう。
「ちょ、ちょう。コウ、おっきくなっとるんやけど……」
身体を手で隠しながら、僕の下半身を見つめる真澄。
「いや、身体、綺麗だなって思ってたら、なんとなく。ごめん」
慌てて服を着ようとするのだけど、押し留められる。
「真澄?」
「そ、その。コウが良ければ、今回はウチがしたろか?」
なんとも魅惑的なお誘い。
「じゃ、じゃあ、お願い、するよ」
そして、元旦深夜に続いて、色々してしまったのだった。
◇◇◇◇
「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう」
「あけましておめでとう」
朝食の時間になったので、1階のリビングに集まった僕等は新年の挨拶。
「はい、コウ、真澄ちゃん。これ、お年玉よ」
母さんから、のし袋が二つ。それぞれ、僕と真澄にへ、らしい。
「え、いいの?もう、大学生だし、結婚してるのに」
「そ、そうですよ。ちょい恐縮してしまいます」
さすがにもう大学生だし、家庭を持った身。
お年玉など期待していなかったのだけど。
「いいから、受け取っておきなさい。結婚生活には何かと入用だろう?」
「わかった。ありがたくもらっておくよ」
「ほんにありがとうございます」
お金がないというわけじゃないけど、多少足しにはなる。
それよりなにより、真澄にまで用意してくれた心遣いがありがたい。
ほんとに、父さんと母さんには感謝だ。
朝の挨拶を終えた後は、御節にお雑煮。
毎年恒例となった代物だけど、今回は少し特別感がある。
「うん、美味しい。今回も数日前から準備?」
「栗きんとんや黒豆なんかはね」
「コウのとこは気合はいっとりますね。ウチは店に注文ですよ?」
「御節も手間がかかるものねえ。店物もいいんじゃないかしら?」
「でも、御節って続くと飽きるんだよね」
今年最初の御節は確かに美味しい。しかし、
親戚の家を回っても御節が続くと飽きてくるのだ。
「あー、でも。お雑煮は心がほっとする。でも、今年は白味噌なんだね?」
「今年は真澄ちゃんが初めて、こちらで過ごすでしょ?関西風にって」
「ほんとに、過分な心遣い痛みいります」
少し目尻から涙が出ている。全く、母さんも心憎いことをしてくれる。
「うん。美味しいですわ。ウチのよりずっと」
「それは言い過ぎだと思うんだけど」
感動したせいか、そんな事まで言う真澄。
その後は、心なしか静かに食が進んだのだった。
「ほんと、おばちゃんやおっちゃんには凄い気ぃ遣うてもろて……」
「母さんたちもしたくてしただけだよ」
「ほんとにええ家庭やね」
「ま、まあ。悪くはないと思うけど」
そんな事まで言われると少しくすぐったい。
◇◇◇◇
そして、午後。今度は、真澄の家にお邪魔することになった。
「あけましておめでとうございます、
「あけましておめでとー、かーさん、とーさん」
中戸家のリビングで僕たちはそんな挨拶を交わしていた。
「あけましておめでとう、二人とも。相変わらず仲が良そうで何よりよ」
「行っとくけど、かーさんと言えども、また妙なことしたら……」
「しないわよ。あの時はじれったかったから、後押ししただけ♪」
さんざん弄くられた経験があるからか、真澄は少し百合子おばさんに警戒気味だ。
「じゃあ、これは二人に。お年玉だ」
といって、おじさんから差し出されたのは二人分ののし袋。これって……
「えっと……いいんでしょうか。もらってしまって」
「
「は、はい……!」
少し涙ぐんでしまいそうになる。
そんな僕の様子を真澄は微笑ましげに見つめていた。
「それで、真澄。近況はどうだ?元気でやってるか?」
「年末話したばかりやろうに。もちろん、二人で元気でやっとるよ」
「そうか。二人が結婚するという時は心配したものだけど……」
「いや、本当、強引ですいません」
両家の父母で僕等の結婚に一番反対していたのが秀和おじさんだった。
結局は、百合子おばさんからの説得に折れたのだけど、心配だったんだろう。
「いや、いいんだよ。こうして見ると、杞憂だった事がよくわかるからね」
今は不服そうな色はなく、ただ、ほっとしているようだった。
「宏貴君。改めて、娘をよろしく頼む」
「はい。真澄は僕が幸せにしますから」
「もう幸せやけどな」
照れくさそうな真澄。
その後、しばらく四人で近況報告などをした後のこと。
僕等は二人で、今度は真澄の部屋に引っ込むことに。
◇◇◇◇
「こっちはおこたがないのがちょい不便やね」
「暖房は十分効いてるでしょ?」
ちゃぶ台に向かい合って座る僕たち。
お茶をずずーっと飲みながら、のんびりとした時間を過ごしている。
「でも……やっぱ、ねむなってきた」
ふらふらと、ベッドに入って、布団を被ってしまう。
「元旦からそれだったら、太るよ?」
「大丈夫やって、これくらい。それより、コウも一緒に」
パンパンと、ベッドの隣を叩いて誘われる。
「じゃ、お言葉に甘えて」
狭いベッドに二人で寝っ転がると、必然密着する。
こういうのもまたいい。
「でも、確かに、布団だともっと気持ちいいね」
「そやろ?やっぱ、元旦は寝て過ごすのが一番やって」
お互い見つめ合いながら、そんな言葉を交わす。
「今年は、どんな一年になるやろな」
「どうだろうね。大学二年だとそんなに代わり映えしなさそうだけど」
「ナツはうまく行けば、ウチらと同じとこ入ってくるんやない?」
「そういえば、奈月ちゃん。受験、うまく行くといいね」
去年、僕らの大学を尋ねて来た一つ後輩の女の子を思い出す。
「ナツもあれで勉強は出来る方やし、大丈夫やと思うよ」
「だといいんだけど。奈月ちゃん、彼氏は出来たのかな」
「以前告白されたこと気にしとる?」※『オカンな幼馴染と内気な僕』第68話参照
「まあ、少しは、ね。いい人見つかればいいなって」
「ウチはコウを巡ってナツと修羅場とか勘弁やからな?」
「奈月ちゃんがそれはないでしょ。応援してくれるって言ってたし」
「ま、ナツもその辺、ええ子過ぎるからなあ。想いが届けば十分、なんて」
告白された時のことを思い出す。彼女は、返事を求めなかった。
ただ、どっちも好きだから、それを知っておいて欲しい。とだけ言ったのだった。
「あれだけいい子、きっと放って置かれないって。僕よりいい人見つけてるよ」
「それが心配なんやけどな。あの子、コウを基準に比較しそうやし」
「いやいや、僕は、そんな大した人間じゃないって」
「まあ、そうやけど」
「そこは否定してほしかったな」
「でも、コウみたいな芯がしっかりしてて、ちょい変わり者タイプっちゅうの。ウチとかナツみたいなタイプには凄く眩しく映るもんなんやで」
「なんだか、全然褒められてる気がしないんだけど」
「褒めとるつもりやけど?ウチはずっとコウに一途やったわけやし」
そんな事を言って微笑みかけられると照れる。色々と。
「そういえば、そろそろお披露目パーティの事、決めてかないとね」
「時期はいつ頃がええやろ」
「二年に上がる前がいいな。一周年したら、なんか遅い気がするし」
「それやったら、3月中旬辺りとかどうや?」
「いっそのこと、2月とか。バレンタインデー当日とかどう?」
「コウもそういう記念日好きなんやから……。でも、準備が大急ぎになるで?」
「別に仲のいい友達で集まるだけだし。そんなにやること多くないって」
「披露宴で流すDVDとかあるやん。ああいうの、どうするん?」
「僕が自作するよ。家に帰ったら、二人で色々選ぼ?」
「もう、コウはほんと何でも出来るんやから。でも、そやね。バレンタインデーにお披露目パーティ。悪くないかもな」
「でしょ?ついでに、来て来れた人同士で仲良くなってくれるかもだし」
「篠原とトモに永山さんたちはくっついとるし。料理部は、女子ばっかやけど?」
「じゃ、じゃあ。歴史研究部は男子オンリーだから、ちょうどいい、と思う」
言ってて、自信がなくなってきた。
親しくない人を呼んでも疲れそうだし、あまり人数を増やすのもなあ。
そんな事を考えていると、急激に睡魔が襲ってきた。
「あ、なんだか、眠くなってきた」
暖かい部屋に布団のせいだろうか。目がとろんとしてくる。
「ウチも。このままお昼寝もええんやない?」
「そうだね。そういうのもいいかも」
そうして、いつものように手をつなぎながら。
暖かい部屋で僕等はお昼寝を楽しんだのだった。
僕と真澄はもっと家族になっていくんだろうな。そんな事を思いながら。
なお、夕食の時間になって起き出した僕たちだけど。
『二人の寝姿よ。大事にとっておいてちょうだい by 百合子』
と書かれたメッセージとポラロイドカメラで撮ったと思しき写真が置いてあった。
「か、かーさん!また、どうしてこう娘をおもちゃに……!」
「まあ、まあ。こういうのも思い出って感じでいいじゃない」
そう言って、憤っている真澄をなだめる。
僕と真澄が並んで寝ている姿はほんとに安らかで。
幼い日に、二人で寝転がったいつかの日々を連想させるものだった。
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