第11話 僕の幼馴染を膝枕した日

 4月24日月曜日。今日で授業が始まって3週目だ。


 先週に続いて、僕に代返をスマホで依頼してきた拓斗たくとは、まだ寝ているのだろうか。ちなみに、今の講義は比較文化概論という。高校の頃に本でかなり読んだような話なので正直少し食傷気味なところがある。


 ちなみに、同じ1限と2限だけど、真澄は理学部で必修科目の解析学を取っている。


「大学の数学は難しいわ」


 とは、彼女の言だ。ちょっとメッセージを送ってみようかと思ったけど、授業の邪魔をしても悪いか、と思いとどまる。


 昨夜が遅かったせいか、少し眠くなってきた。思わずあくびをしてしまう。いやその、遅くなった理由は……なんだけど。


 しかし、ほんとに眠い。なんとか目を開けていようとするものの、眠気に抗えない。


(ま、たまにはいいか)


 そのまま眠気に身を任せることにしたのだった。


ーー


 ゆさゆさ。誰かに肩を揺さぶられる。


「あれ、拓斗?」

「何寝ぼけてんの、ウチやよ、ウチ」

「あ、真澄か。おはよう」


 少しずつ意識が覚醒していく。


「何がおはようや。もう昼やで」


 呆れたような、その言葉にはっとする。もう周りには誰もおらず、僕と彼女の二人だけだった。


「ああ。ちょっと寝すぎた」


 ちょっとだけ睡眠をとるつもりが、どうも午前中ずっと寝ていたらしい。


「そういえば、拓斗は?」

「米澤君?ウチが来たら、「幸せにな」って去ってったけどな」


 なんか、その様子が目に浮かぶようだ。


「にしても、コウが居眠りとは珍しいやん」

「ふわあ。昨夜は遅かったし。昨夜は可愛かったよね」


 夜遅くなる原因になった情事を思い出す。


「真っ昼間から何言うとんのや!」


 ぺし、と頭をはたかれる。僕としたことが、どうやら色ボケしていたらしい。


「いや、ごめんごめん。で、お昼ご飯だよね」

「そういうことや」


 というわけで、キャンパスの中でベンチが置いてある広場へ。他にも、カップルでいちゃいちゃしている男女が多数見かけられる。


 ベンチに座った真澄はいそいそと、僕と彼女の分の二人分の弁当を取り出す。


「二人でお弁当を一緒にって、久しぶりだよね」

「コウが編入してきたとき以来ちゃうか?」


 そう。今日は、真澄が気合を入れて弁当を作ってきてくれたので、学食ではなく二人でお弁当を食べることにしたのだった。


 そして、お弁当箱を開けて出てきたのは、サンドイッチ、野菜とローストビーフのサラダ、ベーコンとキャベツのソテーと言った洋風のお弁当だった。


「真澄にしては珍しいね」


 昔から、彼女の弁当は和風のことが多かったから、洋風のこのお弁当は少しめずらしい。


「ちょっと挑戦してみようと思ってな」

「そっか。それもいいかもね。じゃ、いただきます」


 まず、サンドイッチに手を付ける。挟まれたレタスがしゃきっとしているし、玉子の味付けもいい。


「うん。美味しい。レタスってこんなにおいしかったっけ?」

「ちょっといいのが入荷してたからな。使ってみたんや」


 昨日の夜に買い物に行ってたのを思い出す。あのときかな?サラダ、ソテーにも手を伸ばすけど、最低限のドレッシングがサラダを引き立てているし、ソテーもキャベツに味が馴染んでいる。


「サラダもソテーも美味しいね。結構、時間かけた?」

「ま、まあ。初めてやったし。ちょっとはな」


 照れ隠しをするようにそっぽを向く彼女。


「というか、昨日はこれの買い物だったんだね」


 昨日のコスプレ騒動の前の事を思い出す。


「さすがに気づくわな」

「それはね。そういえば、あまり寝てないんじゃ」

「喜んでくれたら、それくらい大丈夫や」


 少し強がっている気もするけど、素直に感謝をして、平らげることにした。


「ごちそうさま。おいしかったよ」

「お粗末さまや」

「そういえば、昔、愛妻弁当って言われたっけ」


 正樹に初めて彼女からのお弁当を見られたときのことを思い出す。


「少し不思議やな。で、愛妻弁当をもらった気分は?」

「そりゃ、嬉しいに決まってるよ。結婚して初めてだしね」

「早起きしたかいがあったわ」


 嬉しそうなのはいいけど、少し眠そうだ。と思っていたら、あくびの音が。


「あ、堪忍な」

「いや、遅くなったんだし、それくらい」


 よく見ると、目がとろんとしている。そんな彼女の様子に、僕はちょっとしたことを思いついた。


「はい」

「ん?」

「だから、膝枕」

「コウがどういう風の吹き回しや?」

「たまにはいいでしょ?」


 少しの間、お互いに視線を交わす。すると、真澄は僕の膝にもたれかかってきた。


「あ、これ、案外ええかも」

「僕は授業中寝たし、ゆっくり寝てよ」


 そう言いながら、彼女の髪をかきあげる。


「なんや、今日のコウは偉い優しいなあ」


 ぼーっとしながらも、ふにゃっとした嬉しそうな表情。


「おやすみ。真澄」

「じゃあ、ちょっと眠るな」


 しばらくすると、静かな寝息が聞こえてきた。昨夜はあまり寝てなかったんだろうな。そう思いながら、彼女の寝顔をしばし楽しんだのだった。

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