第2話 お嫁さんにとって結婚は大変です

 4月4日火曜日。さて、晴れて僕達は夫婦となったのだけど、結婚というのは事務手続き的に非常にめんどくさい。特に、お嫁さんにとって。なんせ、世の中には、結婚前後の手続きマニュアルなんてものがあるくらいだし。


 とはいえ、姓が変わらない僕はといえばまだ楽な方だ。問題はお嫁さんとなった真澄の方だ。


「なんで、こんな結婚の手続きって面倒やねん!」


 真澄が結婚後に行わなければならない手続き一覧を見て、キレかけている。


 まず、重要なのが健康保険証の氏名変更だ。病気になったときに、全額自費負担となると、後で取り返せても非常に困る。しかも、今はネット時代。なんでもスマホやパソコンでできるかと思いきや、書類を取り寄せて記入する必要があるらしい。しかも、本人確認書類や新姓・旧姓の届け出印まで必要なことがあるらしい。


 次に重要なのが、銀行の名義変更だ。僕達は仕送りを受けている身だから、こちらもしておかなければいけない。これがまた厄介なようで、銀行の窓口に出向いて、旧姓と新姓の両方の印鑑を持っていかなければいけないらしい。さらに、これも本人確認書類のために色々必要らしい。しかも、その本人確認書類というのが、だいたい僕達みたいな学生結婚を想定していないようで、運転免許証とかパスポートとか色々。さもなければ、役所に出向いてなんだかよくわからない本人確認書類が必要らしい。


 その他にも、大学にも結婚したことによって姓が変わったことを報告しなければいけないし、親戚や友達にもできれば報告したい。



「別にコウと同じ苗字になるのはええんやけど、昔の姓も使えてもええやん」

「ごもっとも。なんでなんだろうね」


 大学に入学する前にして、世の中のどうしようもないしがらみを感じることになるとは思っていなかった。


「まあ、別にすぐ手続きしなくても大丈夫らしいし」

「それはわかっとるんやけど……」


 とはいえ、いずれやらなければいけないのだから大変なのには違いない。


「何かできることがあったら言ってよ。出来るだけ手伝うからさ」

「そのときはお願いするわ」


 大学入学を控えている身だし、できるだけ心労を減らしてあげたい。


「あとな。じーちゃんとばーちゃんが、ウチらの記念写真送ってほしいらしいんよ」

「あ、それは僕のとこもだ」


 幸い、真澄と僕の父母は「時間ができたときに」と言ってくれているのだけど、祖父や祖母となるとそうもいかないらしい。


「スマホで僕らのツーショットとかで駄目かな?」


 ダメ元で言ってみる。


「とーさんたちはそれでええんやけどな。じーちゃん達は製本された記念写真が欲しいんやと」

「ひょっとして、僕のとこもかなあ……」


 そういうのってどこで撮ればいいんだろう。そう思って検索すると、写真館というところでそういう

 写真を撮ってくれるらしい。幸い、ウェディングドレスもレンタルしてくれるらしい。


「写真館、予約しようか?」

「助かるー。頼むわ」


 真澄は真澄であーだこーだ事務手続きをできるだけ手っ取り早く終わらせるために色々考えているらしく、邪魔しない方が良さそうだ。そういえば。


「気になってたんだけどさ。結婚パーティーとかってどうしよう」

「あー。それもあったわ。料理部の連中は呼びたいんやけど、クラスの連中とかどうしよか」

「仲いい人にだけ送れば?」

「女子の世界はめんどくさいんよー。あんまり親しくない子呼んでも困りそうやし、かといって、連絡しなかったら何かいわれそうやし」

「色々大変なんだね。とりあえず、正樹、朋美、奈月ちゃん辺り呼んでひっそりと、というのはどう?」

「それくらいなら。大人数のはまた今度考えるのがええね」


 その他にも調べてみると、特にお嫁さんがする作業の多いこと多いこと。


「とーさんたちもこんなめんどくさいことしてたんやろな」


 どこか遠い目をしてつぶやく真澄。


「僕のとこもだろうなあ」


 こういう面倒なことをしてきたのだなあと、また一つ父さんや母さんを尊敬しようという気持ちになるのだった。

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