第7話 僕は夜ふかしをしたい
僕たちが住んでいるマンションは2DKだ。ダイニングでは一緒にご飯を食べたり、TVを見たり、あるいはゲームをする。片方の部屋は勉強をしたり、パソコン作業をするといった二人で使うスペースだ。そして、もう一部屋はというと、寝室だ。夫婦なので別に不思議はないのだけど、それで、時折困ることがある。
「なあ、コウ。そろそろ寝えへん?」
隣からは真澄の眠たそうな声。時刻は午前1時を回っている。
「もうちょっと。もうちょっとだけ」
今、僕が読んでいるのは中世史研究者の出した新書だ。室町時代について今まで知らなかったことが書かれていて、とても面白い。せめて、この章が終わるまでは読みたいんだけど。
「そのもうちょっとは何度目や?」
「ほんとにもうちょっとだけ」
「はあ。じゃあ、あと10分な」
諦めたような真澄の声。再び、読書に戻る。
そして。
「はい、10分な。もう電気消すからな」
枕元にあったリモコンで消灯されてしまう。
「もうちょっとだったのに」
「続きは明日読めばええやろ?」
「わかった、わかったよ」
電気が消えると、急速に眠くなってくる。
「ふわ。なんか眠くなってきたかも……」
「コウは集中すると、ずっと起きとるからな。夜はちゃんと寝るのも重要やで?」
「う。ごめん」
こういうのは、僕の悪い癖だ。
「まあええけどな」
片手をぎゅっと握られる。一緒に住んでからこっち、寝る前にはこうしてお互いの手を握るのが習慣になっていた。そして、数分もしない内に聞こえてくる寝息。彼女は僕より寝付きがいいことが多い。
(さて、僕も寝るか)
真澄が眠りについたのを確認して、僕もゆっくり目を閉じる。握り締めた手の感触を感じながら。
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