第6話 僕達はサークル活動をしたい

「サークル、どこがいいかな」

「いっぱいあって悩ましいわな」


 4月19日水曜日。そろそろ4月も下旬になろうかという頃、僕達は理学部棟の学食で昼食を摂りながらサークル活動について話し合いをしていた。


「テニス部、卓球部、カヌー部、弓道部、ソフトボール部……体育系だけでも色々だね」


 サークル活動が載ったパンフをぺらぺらとめくる。


「料理研究部、将棋部、囲碁部、園芸部、文芸部、マジシャンズクラブ、山の会……文化系もたくさんやな」

「山の会って、山に登るんだよね。なんで文化系なんだろ」


 山に登るのはバリバリの体育系じゃないだろうか。


「体育系のワンゲル部と違うて、のんびり山を楽しむんやと」


 ハイキングの延長線上っていうことだろうか。それにしては……


「でも、富士山とか標高高い山に登ってるよね。のんびりなのかな」

「ウチに聞かれても」


 各々が好きなサークルに入ればいいのではと思う人もいるかもしれない。しかし、僕達にはそうできない事情があった。というのもー


「真澄はモテそうだから、心配だよ」

「コウは、意外なところからモテそうなのが心配やよ」


 という単純な理由だった。特に、大学のサークルは高校までの部活と違って、男子側が気に入った女子をお持ち帰りすることもままあると聞く。もちろん、真澄はそういう軽い子じゃないと思うけど、酔いつぶれたところとか、スキを狙ってどうこうする輩がいないとも限らない。


 サークルに入らないままというのも寂しい。そして、ゴールデンウィークにもなればサークル内での人間関係が固まってしまうとも聞くし。悩ましい。


「史跡を訪ねる会ってのはちょっと見学してみたいかも」

「コウは歴史好きやからな。ええよ。付き合うよ」

「いいの?」

「他にこれっちゅうのもないしな」


 というわけで、『史跡を訪ねる会』を訪問することになったのだった。パンフレットを見ると、活動日は主に月、水の2日で毎週水曜日の19:00にミーティングをしているらしい。


 その夜、講義終わった僕達は落ち合って、文化系サークル会館(文化系サークルはここにまとまっているらしい)を訪れたのだった。


「おお。お?新入生?まさか、早速新入部員ゲット?」


 小躍りして喜ぶ女性と、


「まあ、待ちたまえ。まだ見学に来ただけだろう。これで引かれたら元も子もない」


 そう冷静に宥める男性だった。


 部室を訪れた僕達を迎えた内、男性の方は永山聡ながやまさとしさんと言って、ここの部長さんらしい。長身にすらっとした体躯に眼鏡、といかにも真面目そうな雰囲気を醸し出している。


「さて、今日なんだが。新入生が、なんと2名も来てくれた!」


 パチパチパチー。部員の先輩たちが拍手で迎えてくる。部員は僕らを除いて8人。その内、男性が2人、女性が6人というところだった。こういうサークルだと、ほとんどが男性かと思っていたのだけど、まったく逆だった。


「というわけで、自己紹介をお願いできるかい?」


 先程の永山さんから話を振られる。


松島宏貴まつしまこうきと言います。文学部1年で、高校では歴史系の部活をやってました。名前が呼びづらいので、よくコウって呼ばれます。よろしく!」


 パチパチパチー。拍手が巻き起こる。


「おお?歴史系とは見どころがあるねえ」

「いえ、下手の横好きってやつですし」

「はあ。コウはもっと自覚した方がいいと思うんやけどな」


 横からぼそっとツッコミを入れられる。でも、本当にそこまででもないと思うよ?


「ウチは松島真澄まつしまますみって言います。理学部1年で、特に歴史好きってわけやないんですけど。よろしくお願いしますー」

「別に歴史好きじゃなくても、全然大丈夫。そういう子も大歓迎だから」


 パチパチパチー。僕のときと同じく、拍手が巻き起こる。


「ところで、同じ苗字だけど、もしかして兄妹とか?」


 部員の女性が質問をする。あー。同じ苗字だと当然疑問に思うよね。


「あ、それはですね……」

「コウはウチの旦那です!まだまだ新婚ですが、よろしくお願いしますー」


 と真澄に遮られる。その宣言をした真澄は、やっぱり嬉しそうだ。


「旦那?新婚?ネタとか、籍は入れてないけど、心は夫婦ですとかじゃなくて?」


 さっきの女性部員さんが困惑している。


「はい。実は本当に結婚してまして。籍入れたばっかりなんですけど……」


 補足する。


「ええ!?1年生で学生結婚。しかも、夫婦同時にうちに来るとかすっごいレアじゃん!」

「だよね、だよね。羨ましいー」

「なんとも、まあ」

「これはぜひとも入部してもらわないと」


 僕たちが夫婦だとわかったことで、部は大騒ぎに。見学に来た新入生には晩御飯を奢るものらしく、そのまま部員皆で居酒屋に突入したのだけど。


「それでそれで?コウ君からのプロポーズの言葉は?」

「それは、恥ずいんで、堪忍してください」

「もう夫婦なんでしょ?別に恥ずかしがることないじゃない」


 苦笑いをしながら、質問を交わす真澄。


「コウ君は、真澄ちゃんとは幼馴染なんだよね。どんなとこ好きになったの?」

「ええと。おおらかなところとか、面倒見のいいところとか、ちょっと不器用なところとか……」

「きゃー、これはもうのろけだね。のろけ」


 僕はといえば、酔った女性部員さんからの質問攻めにあっていた。先程の永山さんともう一人の男性部員さんは、なにやら苦笑いをしている。女性は色恋話が大好きというけど、ほんとなんだなあ。


 活動内容は、月1で訪れる史跡を決めて、そこに旅行に行くのと、学園祭では史跡についてまとめるのが主らしい。最近の歴女ブームで女性部員は増えたものの、基本的には零細サークルとのこと。史跡を訪ねるのは楽しそうだし、良い雰囲気だし。


(ここ、割といいかなと思うんだけど、どうかな?)

(そう言うと思ってたわ。ウチもここでええよ)


 というわけで、僕達は『史跡を訪ねる会』に入ることになったのだった。


「コウはちょっと変わった子からモテそうなんが心配やけど」


 真澄がなにやらボソっと言った言葉は、聞かなかったことにしょう。しかし、真澄の僕評価は「カッコ良くてモテそう」じゃなくて「変わった子からモテそう」なんだなあ。とほほ。

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