第5話 幼馴染は新婚さんだと言いたかったらしい
4月17日月曜日。今日で大学の授業が始まってから2週目だ。
「今日は3限と4限空いとったよな?」
「うん。5限がまたあるけどね」
自宅で朝食を食べながらそんな会話を交わす。
東都大学は1限と2限が午前で、昼休みを挟んで3限〜6限まである。6限が終わるのが18:00というのは、高校では考えられなかったことで、大学は違うんだなあということを実感する。
でもって、僕は文学部、真澄は理学部ということで必修講義も違う。できるだけ一緒にいる時間を作ろうということで、今日みたいに講義の空き時間をある程度調整してあるし、選択授業も取れるのは同じのを取ることにしている。
1限と2限は合わせて教養科目だ。高校の授業の復習みたいなところがあって、少し退屈だ。
(真澄はどうしてるかな……)
そんなことを考えていると。
「よ。おはよう」
後ろの席から頭を小突かれた。
「おはよう、拓斗」
後ろから頭を小突いたのは
「代返サンキューな」
「別にいいけど、ちゃんと出た方がいいよ」
「コウはほんと真面目だな」
「いや、普通に講義を受けてるだけなんだけどね」
苦笑いする。途中、退屈になりながらも、授業を聞いていると、講義終了のチャイムが鳴る。
「よっしゃ。コウ、昼飯行こうぜー」
「あ、実は今日は……」
真澄との約束があるから、と断ろうとしたところ、当の本人が僕の席に向かってくる。
「あ、コウ。まだ教室におったんやね」
「ああ、うん。ちょっとね」
そんなことを話していると、
「おいおい、コウ。この関西弁の美人さんは誰だ?入学早々、何があったってんだ?」
服の襟を掴んでガクガクと揺さぶられる。
「コウ、この人は?」
「ああ。米澤拓斗っていって、オリエンで知り合ったんだ」
「仲の良い友達できたんやね。良かったわ」
「何、お母さんみたいなこと言ってるの」
いつものやり取りをしていると、ふと、黒いオーラが。
「なあ。もしかして、この美人さん、おまえの彼女か?彼女か?」
「あ、うん。その……」
彼女なのはともかく、結婚していることまで言っていいか迷っていたところ。
「米澤君、やったか?ウチは
にっこり笑って礼儀正しく拓斗にお辞儀をしたのだった。なに、これ。
「松島……松島。って、コウと同じ苗字なんだね。兄妹かなにか?」
「あ、コウはウチの旦那やねん。どうかよろしう」
「旦那」って言うときにやけに嬉しそうだ。
「だ、旦那?」
「えーと、結婚してるってこと」
もうバレてしまったからには仕方ない。僕と真澄の関係を白状することにした。
「け、けけけ、結婚って。おま、いつの間に?」
「実は、真澄とは昔からの付き合いで。それで、入学する前にね……」
少し言いづらいのだけど。
「大学生、結婚、大学生、結婚……」
仰天のあまりぶつぶつつぶやいている拓斗。まあ、無理もないよね。
「じゃ、米澤くん。これからもよろしうな」
真澄は、僕の腕をホールドして去っていく。
学部棟の外に出ても、真澄はなんだか機嫌がとても良さそうで、鼻歌でも歌い出しそうだ。
「ちょ、ちょっと真澄」
「ん、なんやー?」
「一旦止まって。苦しい……」
腕をホールドされて連行されてきたようなものだから、ちょっとしんどい。
「あ、堪忍な」
「いいんだけど。やけに嬉しそうじゃない?」
なんだか口元がニヤニヤしてるし、嬉しくて仕方がないって顔だ。
「なんていうか、ウチらまだ結婚しとるってあんま言えとらんやん。それで、旦那って紹介できたのが嬉しくてなー」
手を頬にあてて、頬も少し紅潮している。なんか、こういう表情も可愛いなと思えてしまう。
言われてみれば、正樹たちはおいといて、夫婦として紹介できたのは初めてなのかもしれない。
「こんなに喜んでくれるとは思わなかったよ」
こんな些細なことで喜ぶ彼女を、少し微笑ましく思う。
「せっかく結婚したんやもん。やっぱコウはウチの旦那って紹介したいもんなんよ」
「そうなのかもね。僕も、これかは、真澄は嫁さんだって紹介しようか?」
「ちょ、ちょ。それは恥ずいから。やめてやー」
「え?その基準がわからないんだけど」
「なんでもや!」
そんな事を言い合いながら、歩いていく。そんな春の1日だった。
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