第28話 僕と幼馴染のサークル旅行(その2)

 わいわいと僕達が話している間に、気がつけば新幹線は京都駅に到着。

 よく晴れていて、史跡をめぐるのにはうってつけだ。


「ここが駅ビルなんやね。変わった作りしとるというか」

「なんで、こんな構造になっているんだろ」


 新幹線を降りた僕達は、駅改札から出て、京都駅ビルの1階に居る。地下に降りるエスカレーターや、2階と3階につながるエスカレーターが目の前に見える。


 ここまでは普通なのだけど、ドーム状に天井を覆う格子と吹き抜け構造の建物が、なんとも言えない雰囲気を醸し出している。


「山科さんは昔、京都に居たんですよね。駅ビルってよく行ってたんですか?」


 京都出身の彼女に話を振ってみる。


「そうですね。市外に電車でとなると、いつもここでしたから」


 懐かしむように言う彼女。


「他にも、路線ありませんでしたっけ?阪急はんきゅうとか京阪けいはんとか」


 旅行前に調べたら、その辺りでも京都に行けた気がするけど。


「よく調べてますね、コウさん。ただ、駅からのアクセスが悪いんですよ」

「アクセス?」

「市内は電車が少なくて、バスが移動の中心なんですけど、京都駅発着のバスが多いんです。私の実家も、京都駅からだと直通バスがありますし」

「そんな事情が……」


 細かいところはわからないけど、電車であちこちにつながっている東京とは事情が違うのか。


「山科さんは、どういうとこ遊びに行っとったんですか?」

「それ、僕も聞きたかったです」


 静かな場所が好きそうなイメージがあるけど。


「そうですね……。中学卒業までここだったんですけど、一番多かったのは大阪ですね。道頓堀どうとんぼりに行ったり、心斎橋しんさいばしに行ったり」


 楽しそうに語りだす山科さん。だけど、ちょっと待ってほしい。


「道頓堀は食い倒れでよく聞くんですけど、心斎橋って?」

「ウチもその頃は幼稚園やったから、よう覚えとらんな」


 真澄は小学校に入る前にこっちに来たから、覚えてないのは当然か。


「色々なお店があって、心斎橋に行けばなんでも揃うって感じです」

「東京で言うと新宿みたいな?」

「どっちかというと渋谷が近いでしょうか?」

「若い人でごった返してるような?」

「そうそう。渋谷とは全然雰囲気が違うんですけど、あの雑多な雰囲気がまたよくて……」


 滔々と語りだす山科さんは、楽しそうだ。最初の頃のイメージはどこへやら。


「す、すいません。急にしゃべってしまって」


 急に我に返って謝りだす山科さん。


「いいじゃないですか。山科さんの大阪愛が伝わってきますよ」


 京都出身の山科さんが大阪の事を語りだすのはちょっぴり意外だったけど。


「それやったら、ひょっとして、落語とかも見たり?」

「そうそう。落語もよく友達と見に行きましたよ!真澄さんも、落語好きなんですか?」

「そうなんですよ。コウはなんやイマイチな感じですけど」


 そんな話を始める二人。一緒に何度か観たけど、面白さがよくわからなかったんだよね。


「じゃ、じゃあ、今度、行きませんか?」

「ウチも一緒に落語で盛り上がれる人欲しかったんですよ。行きましょう!」


 共通の話題を見つけて、盛り上がり始める二人。なんだか、とても微笑ましく映る。


「盛り上がっているところ悪いが、昼食にしよう」


 部長がストップをかける。そういえば、そろそろお昼も近い。

 で、駅ビル内にあるスパゲッティー屋さんへ行くことになったのだけど。


「京風スパゲッティー?」


 怪訝な顔する真澄。僕も同意見だ。和風スパゲッティーならわかるけど。


「これがまた、美味しいんですよ。京野菜きょうやさいをふんだんに使ったパスタが売りでして」


 解説するのはまたも山科さん。


「京野菜?」


 京都に関係があることはわかるけど、いまいちピンと来ない。


「京都特産の野菜のことやよ。ブランドっちゅうかな」


 と真澄の解説。そんなものがあるのか。でも、京都だから美味しいとかあるのかな。


「皆、とにかく入ろう」


 部長の一声で、部員一同店に入る。予約していたらしく、8人全員座ることができた。


 そして、メニューを眺めているのだけど。


「いまいちピンと来ないなあ」


 京野菜自体、今まで知らなかったものだから、どんなものなのかちょっと想像できない。


「何頼んでも美味しいですよ。九条ねぎとたらこのパスタとか、賀茂茄子とアボカドのパスタは特にお勧めですね」


 力説する山科さん。


「じゃあ、コウとウチでそれ頼もか」

「いいね。そうしよう」


 というわけで、僕と真澄はその2つを。

 山科さんは京風アラビアータというよくわからないものを頼んでいた。

 そして、部長は明太子と湯葉の青じそ風味というメニュー。


「部長は、通っぽいメニューですね」

「何が通なのかわからないけど、私は脂っこいのが苦手でね。さっぱりしてそうなのを選んだだけだよ」


 確かに、メニューの中だと一番さっぱり、という感じがする。


 運ばれてきたパスタをフォークで絡め取って一口。うん。美味い。


「ネギが凄いシャキシャキしてるよ。たらこと凄くよく合ってる」

「ウチのも、茄子とアボカドとチーズが、うまいこと混ざっとって。コウもほら」


 巻き取られたパスタを差し出されたので、パクリと一口。


「こりゃ美味い。真澄もこっち食べてみてよ」


 僕のパスタも巻き取って、差し出すと彼女はパクリと一口。


「はあ。幸せやわ。こんなに美味いとは、予想外やったわ」


 お互い大満足の僕達。


「君たち、普段もそんな風なのかい?」

「楽しそうでいいじゃないですか、永山さん」


 僕達の横から、引いた視線と生暖かい視線、隣のテーブルの部員たちの視線が突き刺さる。


 旅行のテンションで周囲の目を忘れていた僕達は、慌ててフォークとスプーンを引っ込めるも時既に遅し。


「はあ。彼氏ほしーな」

「私の彼氏と交換して欲しいくらい」


 何やら不穏な言葉も聞こえてくる。しかし、このノリでいくとまたこんな事が起きそうだ。

 というわけで。


(真澄、ちょっと思ったんだけど)

(なんや?)

(旅行中は、もうちょっと自重することにしない?)

(そうしよか)


 僕達の間で合意がなったのだった。


 昼食を終えた僕達は、史跡巡りに出発することになった。

 京都は小回りの効く自転車がいいらしく、部員皆で自転車を借りて、史跡を巡ることになっている。のはいいんだけど。


「じゃあ、頼んだよ。山科。私は、秋山を抑えておくから」

「は、はい。頑張ってください」


 部長と山科さんの間で交わされるやり取り。


 僕たちにとっての秋山さんは、よくからかってくるテンションの高い人というところだけど、何かあるんだろうか?


(山科さん、秋山さんって何かあるんですか?)

(ええと。彼女は、ちょっとトラブルメーカーといいますか……)


 少し困った様子の山科さん。とにかく、部長は秋山さんたちのグループに合流することになり、結果として、僕達のグループは僕と真澄に山科さんを加えた3人。


 18時までに目的の旅館に集合ということだけ決めて、僕達3人は自転車で京都の街中に旅立ったのだった。


※中編2に続きます

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