第25話 僕の幼馴染の誕生日パーティー(後編)

 正樹たちが帰って、ぽつんと取り残された僕達。


「……考えてみると、ウチらが結婚してから、こういうの初めてやね」

「賑やかだったね。楽しかった?」

「コウだけ受け狙いのプレゼントだったけど、ほんま楽しかったわ」


 何故だか、ハリセンを握りしめながら、ぽつりとつぶやく真澄。


「いや、ごめん。実はね」


 本当のことを言おうとしたら、唐突にぎゅっと抱きしめられた。


「ま、真澄?」

「コウのことやから、色々変な方向に考えたんやろけどな。嬉しいわ」


 抱きしめられた身体から、温もりが伝わってくる。その、喜んでくれたのは嬉しいけど、これは本命じゃなかったんだけどな……


 とはいえ、振りほどくわけにもいかず、僕も抱きしめ返して、しばらく、お互いの体温を感じていたのだった。


「ま、まあ。そのハリセンはツッコミに使ってよ」

「それやったらボロボロになるやん。取っておくからな」


 ネタだったプレゼントはどうやら大事に取って置かれることが決定してしまったようだ。


「でさ。ちょっと申し訳無いんだけど」

「ん?」

「いやさ。実は、本命のプレゼントがあるんだ」


 それを聞いた瞬間、真澄は何か信じられないことを聞いたというようにポカーンとしていた。あ、真澄のこんな顔を見るのは初めてかも。


「あの、本命って。それやと、さっきのは」

「もちろん、あれもプレゼントだけど。前振りだったんだ」


 当然、真澄はわなわなと震えだす。


「ウチの感動を返して?」

「いや、だって、言う前に感動されちゃったし」

「ちゅうか、誕生日プレゼントにそんな紛らわしいことするんがおかしいやろ?」


 早速僕の頭がはたかれた。さっき、大事にしまっておくと言ったそのハリセンで。


「いたた。でさ、これが本命」


 それが仕舞われた箱を手渡す。


「今度もまたネタとか言わんやろね?」


 疑いの目で見られる。いや、わからなくもないけど。


「いや、今度はほんとだって」

「今度ネタやったら本気で怒るよ?」

「ほんとにほんとだから」


 誕生日プレゼント二段構えは、真澄を疑り深くさせてしまったようで。


 真澄が包装を解いて、箱を開くと出てきたのは、一枚の板のような何か。


「額縁?」


 枠が木製のそれは、一見すると一枚の写真や絵を収めておく額縁に見えなくもなかった。


「それ、デジタルフォトフレームなんだ」

「デジタルフォトフレームて、あれよね。写真再生できるっちゅう」

「そのデジタルフォトフレーム」

「周りは木やし、とてもそうは見えんのやけど」

「裏、見てみて」

「……!ああ、ここにスイッチがあるんやね」


 納得した様子の真澄。裏側にはメモリーカードを入れるスロットや操作ボタンが付いている。


「はあ。よくできとるねー」

「普通のフォトフレームだと、自然な感じがしないでしょ。だから、いいの探してたんだけど」

「最近はほんとなんでもあるんやね」

「僕も、正直あるとは思ってなかったんだけど」


 と続けて、


「想い出はさ、薄れちゃうことがあるから、新婚旅行とか、色々な想い出を写真に撮って、時々眺めてもらえればって思ったんだ」


 このプレゼントを選んだ理由を明かす。この後、何年経っても、今の想い出を振り返れるように。


「そやね。きっと思い出すんやろね」


 そう言って、優しい微笑みを僕に向けてきた。なんだか、風邪を引いたときにも見たような気がする。


「なんや、ますます好きになってもうたわ」


 そんな言葉を恥ずかしげもなく言った後、唇にキスをされた。


「んっ」


 僕も、そんな彼女が愛おしくなり、キスをし返す。


「部屋、行こうか」


 そう言って、彼女を抱き上げる。う。ちょっと重いかも。


「ウチ、重くない?」

「実は、ちょっと……」


 見栄を張っても仕方がないので白状する。


「なら、無理せんでもええのに」


 真澄は笑いをこらえている。


「今日くらいはしてみたくなったの」

「じゃあ、お願いな」


 そう言って、素直にしがみついてくれたので、少し軽くなった気がする。寝室のベッドにゆっくりと彼女を横たえる。


「なんか、ぼーっとしてくるわ」

「うん、僕も」


 ひょっとしたら、雰囲気に酔っているのかも、と思うけど、それでもいいか。


 覆いかぶさって、肌に触れながら、服を少しずつ脱がしていく。


「コウも慣れたもんやね。初めての頃とか、すっごいぎこちなかったのに」

「さすがにね」


 昔の僕を思い出して苦笑いする。まあ、今でも身体は見慣れない、とか、そういう気障な台詞を口にできない辺り、まだまだだと思うんだけど。


 そうして、彼女の誕生日の夜は更けていったのだった。

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