第19話 僕たちのゴールデンウィーク最終日

 ※出てくるゲームは、某有名ゲームと似ていますが、別物です


 今日は5月7日日曜日。いよいよ、ゴールデンウィーク最終日だ。それはいいのだけど、特にやることもないので、今日は家でまったりすることに決定。


 真澄が用意しくれた朝食を食べた後は、寝室に戻ってごろごろしながら電子書籍を読む。今日は、普段そんなに読まないラブコメもののライトノベルを読んでいる。ベッドの隣では、真澄がSwitchで何やらゲームをしている。


 せっかくのゴールデンウィークと思う人もいるかもしれないけど、新婚旅行や奈月ちゃんの来訪など意外とイベント盛りだくさんだったので、最終日くらい自宅でゆっくりするのも悪くない。


「それ、面白いん?」


 真澄が聞いてきた。うーん、面白いかどうかで言われると……。


「主人公にちっとも共感できないのに、不思議と読み進めてしまうかな」


 小説の筋書きはこうだ。主人公には、最近出来た幼馴染の彼女がいる。しかし、同じ高校の親しい女友達のアプローチを受けて、次第に惹かれていくのだった。要はドロドロ恋愛ものだ。


 そして、主人公が優柔不断なものだから、女友達の誘惑に負けて手を出しそうになったり、それでいて幼馴染の彼女も好きだしで、典型的な二股野郎である。さらに、2巻からは、主人公に恋する後輩が現れてさらに話がややこしくなっていく。


 主人公には全然感情移入できないのに、見ててこれだけ胃が痛くなる物語を描けるのは、さすがに定評のある作家さんだ。


 そんなことを離すと、真澄は少し笑いをこらえながら言った。


「コウは一途やからな。二股とか見るとイラっと来るんやろ?」

「ま、まあ、そうだけどね。なんで、可愛くて想ってくれる彼女がいるのに、浮気するんだろうって」


 それは僕が恋愛経験が真澄しかないせいかもしれないけど、浮気する心境が未だに理解できない。そんなことを思っていると、真澄が何やら意地悪な笑みをしている。


「コウはそれだけウチのことが好きっちゅうことでええんやね?」

「まあ、そういうことだね」


 フィクションに何を言っているのだ、と思う人もいるかもしれないけど、真澄のようなよく出来た嫁さんがいる身としては、こういう主人公に全然感情移入できそうにない。


「コウは登場人物に入れ込み過ぎるんやよ。まあ、それでもええけど」

「そうなんだけどな。なんか、納得が行かないんだよ」


 と、ふと気になったことを聞いてみた。


「真澄は何のゲームをしてるの?」

「 『あつまれ 生物の森』って奴やね。Switchで出てて、皆やってるんよ」


 名前は聞いたことがあったけど、そんなにヒットしてたんだ。ちょっと調べてみると、全世界で大ヒットしているらしく、ツイッターでもゲーム中の風景をアップしている人がたくさんいるとか。


「へー、凄いね。それに、この、ニンジンって株みたいなものだよね。ちょっとおもしろそう」


 スローライフ系ゲームはそれほど好みじゃないけど、目的を決めれば楽しめそうな気がする。


「じゃ、コウもやらん?」

「よし。やるよ」


 というわけで、アカウントを作って、『あつ生』(あつまれ 生物の森の略)を初めてみることにする。で、序盤で何やら変な動物によって借金させられる羽目に。


「ねえ、これって、選択ミス?いきなり借金になったんだけど」

「それは、共通やね。そっから、お金を儲けたり、ローンを返済してりしていくんや」


 気がつくと、真澄はSwitchの電源を切っていて、うつ伏せになった僕に上から抱きつきながら、画面を眺めている。昔の僕だったら、動揺していただろうけど、今となっては慣れたものだ。とはいえ、やっぱり体温を感じると少し落ち着かないんだけど。


「これって、まず何したらいいのかな」


 とりあえず、チュートリアル中らしいので、言われたとおり、お使いにいったり、博物館の設置場所を決めていったりする。にしても、博物館を設置するとか、やけに本格的だ。


「んー、そやね。チュートリアル終わったらやれることも増えてくよ」

「そんなものか」


 というわけで、淡々と、お使いなどを通じて、チュートリアルを終わらせる。さて、ようやくローンを返済する段階になったけど、どうやって返済すればいいんだろう。


「あー、それやったらマイレージ達成が早いよ」

「マイレージ?」

「きつねマイレージっちゅうんやけどな。魚を10匹釣るとか達成すると、お金が入ってくるんよ」


 なるほど。それなら、マイレージを貯めるのが早そうだ。というわけで、マイレージのミッションを達成するために、ひたすら単純作業を繰り返す。にしても。


「最初の段階が結構長いね」

「まあ、そういうゲームやから」


 ちょっと単純作業が飽きてきた頃、ようやく、最初のローンを返済できた。にしても、実際のATMを模した画面まで出てくるとは本格的だ。最近のゲームは色々あなどれない。


「これで、ようやく本番か。何を拡張しようかな」

「コウの好きでええんやで」


 好きに、か。せっかくだから、本棚を充実させたいな。真澄に聞いてみると、


「まあ、材料があればそんなに難しくないわ」

「じゃあ、本棚を目標にしてみようかな」


 本棚の材料を集めるために、木に向かってオノを振り下ろす!すると、木材が得られる。あとは、これを繰り返すのと、きつね商店で買える「ほん」があればいいらしい。


 さて、本を集めるのはいいとして、ちょっと疲れたので一旦中断。


「はー。一日中、家に居ると身体がなまるね」


 伸びをしながら、隣の真澄に語りかける。


「ウチが肩もみしたろか?」


 という真澄の申し出。せっかくだし。


「じゃあ、お願い。首周辺をやってくれるといいかな」

「了解や。痛かったら言ってな」


 そう言って、真澄のマッサージが始まる。強くもみほぐすわけじゃないけど、凝っているのが自然とほぐれているのがわかる。ああ、気持ちいい。


「ああ、気持ちいい。やっぱり、自分で肩揉むのと全然違うね」


 未だにこれは不思議なんだよね。真澄が上手なのかもしれないけど。


「真澄、プロでやってけるんじゃない?」

「おおげさやって」

「でも、勉強したんじゃない?」

「まあ、どういう風にすればいいとかはちょい勉強したよ」


 うつぶせになって、もみほぐしてもらっているうちに、だんだん眠気が襲ってくる。あ、このまま寝ちゃいそう……。


 気がついたら、日が沈みかけていて、もう夕方なのに気がつく。


「もうこんな時間だ。ちょっと勿体無かったかも」

「コウが気持ちよさそうやったから、起こすのもったいなくてな」


 再び僕の隣で寝っ転がっている真澄がそう言う。


「寝顔とか見て嬉しい?」


 前もこのことを聞いた気がするけど。


「もちろん、楽しいわあ。寝てると、コウも普通の少年やなってわかるしな」

「普段が普通じゃないみたいだけど」

「まあ、それはといといて」


 と続けて、


「今日はあっという間だったよね。もっと色々やれば、と後悔」


 せっかくの最終日だから、もっと色々できればよかったんだけど。


「そんなん気にしてもしゃあないよ。ゆっくり寝られただけも、良しとせなあかんよ」

「もっともなんだけどね。寝てる時間がもったいないって思っちゃった」

「もったいない?」

「いや、寝るのなら、もっとイチャイチャしても良かったかなーって」

「も、もうまたコウは。すぐそういうこと言うんやから」


 照れ隠しで頭を叩かれる。こういう風に照れてるときは、嬉しそうな表情と少し赤みがかった肌がとてもかわいくて、つい手を出しちゃいそうになる。


 ご機嫌うかがいをかねて、少しずつ、手のひらを、背中の上から下へ、時折胸に触れたりする。


「はあ。はあ。あ……気持ちええ」

「もっとするよ」

「うん。好きにしてな……」


 という感じで、なんとなくOKをもらったので、彼女の服を脱がせて、裸にしてしまう。


「じゃあ、行くよ」


ーー


「なんや、後ろからされると、ちゃうんやね」

「僕も、ちょっと意外だった」


 せっかくなので、普段しない体位を試してみたんだけど、後ろからだと普段の正常位とまた違った感覚が得られて面白い。とはいえ。


「やっぱり、真澄の顔が見られる方が安心だね」

「まあ、ウチもな」

「それで、気持ち良かった?」

「そりゃ、コウはウチの気持ちええところ攻めてくるし」

「それなら良かった」


 気がつけば、もう夜も10時だ。ちょっと早いけど、疲れたからちょっと一緒に寝てもいいんじゃないかな。


「ウチはちょい疲れたし、ちょっと寝るわ」

「賛成。眠くて頭が働かないや」


 というわけで、一足先に部屋に二人で寝ることになったのだった。


 というわけで、歯磨きをして寝室へ。


「そういえば、今日はなんだかいい匂いがするね」

「ちょっと香水替えてみたんや。どう?」

「うん。いい香りかも」


 ラベンダーとはまた違うけど、いい香りだ。特に本を読む気もないので、電気を消して、二人で寝る。


「あー、これで、明日からまた大学かー」

「まあ、休みはいつか終るもんやし」

「それもそうだけど」


 もうちょっと休みが続いてくれてば、とそんな欲張りを言いたくなるのも許して欲しい。

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