最終話 結婚は終わりではなく始まり
あれから、1年と数ヶ月。
「あー、ほらほら。
夕食後に突然泣き出し始めた一人娘を必死であやす僕。
しかし、ちっとも泣き止む気配がない。
「ほら、コウ。ちょい貸して」
僕から少し強引に娘を奪い取って、抱き寄せる。
「ほーら、結澄。大丈夫やよー」
そして、言いながら、トントンと背中を叩くと途端に泣き止む。
「助かったよ、真澄」
「コウはこういうのド下手やからね」
「うぐ。言葉もない……」
お披露目パーティの時に出来たのか、真澄はその年の内に妊娠。
11月の寒くなり始めた時期に出産したのだった。
産まれたのは僕たちの希望通り、女の子。
そう願っての命名だ。
僕はといえば、順調に大学3年生まで進学。
子どもが産まれた段階で休学しようとしたのだけど、
真澄が「コウはちゃんと進学せなあかん」ということで、
真澄だけが休学することになった。
「コウ先輩は、女心がわからないんですから」
「赤ちゃんに女心は関係ないって」
「冗談ですよ。でも、そういうところは不器用ですよね」
「といってもね……」
それから、僕たちの家によく遊びに来るようになった。
子どもが産まれてからは、「私も手伝います!」と謎の意欲を燃やして、
時折こうしてフォローしに来てくれている。
「手伝ってくれるのはありがたいんだけど、彼氏さんほっといていいの?」
「大丈夫ですよ。そういうのは理解ある方ですから」
「友達の子どもの面倒を見に行くからって?」
「「心配しないで、行っておいで」って言ってくれますよ」
「本当、器の大きな人だね」
「コウ先輩みたいに、色々変なところがある人ですけどね」
「うぐぐ……」
奈月ちゃんは、大学2年生になったばかり。
高校の時の延長線上で、料理研究サークルに入部。
そして、サークルの先輩である料理出来る系先輩男子をゲット。
色々気配りの出来る人らしい。「僕みたいに変な」が気になるけど。
「でも、なんだかんだ言って、凄いですよ。もう研究室配属なんて」
「たまたま、教授に気に入られただけだって」
「謙遜せんでも、コウが凄いからやって」
僕は現在、3年生にして、中世史を研究する先生の元に師事している。
本来なら4年生で配属らしいのだけど、講義を受けている僕を気に入ったらしい。
先生から、研究室にお誘いを受けて今に至る。
「いきなり論文発表しなさいとか、凄い無茶振りだけどね、あの人」
「それだけ、コウに期待しとるってことやって」
「そうですよ。胸を張ればいいんですよ」
「といってもね。論文発表とか初めてだし、ほんと何をしたものやら」
僕は現在、初めての学会での論文発表に向けて絶賛準備中。
「にしても、
「火をつけたのはコウ先輩たちだと思いますけど?」
「にしても、予想外過ぎたよ。色々」
僕たちのお披露目パーティに
2年生の12月に逆プロポーズ。僕らと同じく、4月に籍を入れた。
「トモたちは披露宴どうするんやろね」
「正樹はめんどくさいっぽいけど……」
披露宴どうするの?と聞いたら、「なんか面倒くさそうだし、いいや」
と言っていたのを思い出す。
「その辺はトモが許さんと思うんやけどね」
「だいたい、正樹先輩が尻に敷かれてますよね」
「二人の結婚式は見てみたいから、是非とも式は挙げて欲しいんだけど」
「先輩たち、式を端折ったくせに、それ言いますか?」
「いや、自分のは面倒くさいけど、人のは見てみたいっていうか。ね?」
「お披露目パーティでお腹いっぱいやったしなあ。わかるわ」
たかだが、少人数のお披露目パーティであんなのだったのだ。
本物の結婚式と披露宴はすごいお金と手間がかかるんだろう。
とはいえ、友達のそれは見てみたいというのも人情というもの。
「あ、でも。来年、
僕らが入学した当時、3年生だった、サークルの部長である永山さん。
在学中からお付き合いしていた、山科さんと卒業した時に婚約したらしい。
結婚式には呼んでくれると嬉しいんだけど。
「まだ先の話だけどさ。真澄は復学したらどうする?」
今は、赤ちゃんの世話で手一杯。当面はそれが続くだろう。
でも、それが終わったら?
「まだ決めてへんけどね。食品メーカーとかええかもと思っとるよ」
「へえ、それまたとうして?」
「料理は好きやけど、仕事にする程でもないし。化学も研究やりたいかっちゅうと違う気がするんよね」
「それで、食品メーカーと。だとすると、調味料の開発とか?」
普段、精力的に新しいレシピを研究している姿を思い出す。
「そういうのもやし、なんか新しい味が生み出せたらええなと思っとるよ」
「真澄先輩、今の内から将来イメージがしっかりしてるの、凄いです……!」
「ええと、僕は?」
「コウ先輩は、我が道を行く!て人だったじゃないですか?心配してませんよ」
笑顔で言う彼女だけど、褒められてるのやらけなされてるのやら。
「念のため言っておくと、褒めてますからね?一度は好きになった人ですから♪」
「ナツー。ウチの目の前で浮気とはええ根性しとるなー」
「いやいや、昔の話ですよ。今は彼氏に一途ですから、そりゃもう」
「だったら、紛らわしいこと言わなければいいのに」
僕も、一瞬、聞いてて肝を冷やした。
「でも、結婚して2年経つわけだけど……」
「けど?」
「結婚は始まりっていうの、わかった気がするよ」
結婚してからもう2年が経つけど、その後にも新しい出来事は山盛りだった。
新しい思い出に、研究への道という挑戦、出産という新しい出来事。
「そーやな。全然、ゴールイン、やないよね。
「先輩たち見ると実感しますね。結婚しても、まだまだ人生は続くんですよね」
少し神妙な表情で奈月ちゃんが言う。
「ま、結局、日常が続いていくってだけだけど」
結婚する前も結婚した後も、赤ちゃんが産まれた後も。
新しい出来事が日々起こるのが人生ってものなんだろう。
「あ、先輩!月が綺麗ですよ!ほらほら!」
窓を開けた奈月ちゃんがはしゃいだように僕等を誘う。
「わあ。綺麗な満月だね」
三人揃ってベランダに出てみれば、空に輝くのは大きな満月。
「半月じゃないのが、ちょい残念やね」
何かを思い出したのか、少し可笑しそうに言う真澄。
「なんで、満月じゃなくて、半月なんですか?」
「まあ、色々あるんよ。半月には」
「そのネタ、奈月ちゃんには通じないって」
僕らにとって、月といえば満月というより半月。
それを知るのは僕たち二人だけ。
「なんか、半月に思い出でもあるんですか?聞かせてくださいよー」
「それは秘密や、な?」
言いながら目配せをしてくる。
「そうだね。秘密、かな」
「言い出して、止めるとか気になるんですけど!」
こうして、相も変わらず賑やかに過ごす僕たち。
幼馴染なお嫁さんと僕の幸せな日常は、これからも続いていく。
☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆
『幼馴染なお嫁さんと僕』はこれにて完結です。
前作『オカンな幼馴染と内気な僕』から応援してくださった皆様も、
今作から読んでくださった方々も、どうもありがとうございます。
というわけで、娘が出来てのほのぼのハッピーエンドという感じです。
ところで、最終話に、夫婦二人だけじゃなくて、奈月ちゃんも出てきたのは、作者にとっても予想外でした。彼女のその後、というのを考えていて、彼女が入学予定なのを思い出して、積極的な彼女なら、最終話の時点でも絡みに行くだろうなあって感じでこんな結末になりました。
これからも、コウ君と真澄ちゃんは産まれた娘や、友人たちときっと仲良く過ごしていくのでしょう。何か感じ入るものがあれば、応援コメントなどいただけると嬉しいです。
ではでは。
幼馴染なお嫁さんと僕 久野真一 @kuno1234
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