第32話 僕と幼馴染のサークル旅行(その6)

 宴会から一晩開けた朝。


「おはようございます。部長」

「ああ。おはよう。コウ君」


 男部屋で挨拶を交わす。


 その後は、再び共用の大部屋で豪華な朝ご飯を食べ、旅館を後にすることに。


「また来年、お越しください」


 その声に見送られて、僕たちは出発する。今日は、京都駅まで自転車でのんびりと移動してから、京都駅から新幹線で帰るという手はずだ。


「来年は、僕たちも先輩として来るのかな」

「そやな。案外、ナツとか来たりして」

「あの子なら、あるかもね」


 真澄の事を慕う奈月ちゃんの事を思い出す。志望校をうちに決めたみたいだけど、

 あの子の性格からして、真澄のいる部に入りに来そうなんだよね。


 それから、自転車を漕いで約50分して、帰りの新幹線が来る京都駅に到着。


「なんだか、あっという間だったよ」

「今度は、もうちょいゆっくりするのもええかもな」


 旅行というのは、始まる前はワクワクするものだけど、もうすぐ終わるとなると不思議と寂しくなる。


 京都駅に着いた僕たちは、新幹線を待つ間、お土産を物色することに。


「んー。何がいいかな。八つ橋とかよく聞くけど」

「山科さん、なんやおすすめあります?」


 確かに、元地元民ならお土産にも一家言あるかもしれない。


「京都は、お土産いっぱいありますからね。コウさんの言う通り、生八ツ橋は定番ですけど、生じゃないのも、意外とありかもしれません」

「え、あのぺらぺらとしたの以外にも八ツ橋があるんですか?」

「ええ。元々は、焼き菓子で、生八ツ橋の方が後なんですよ」


 それは初耳だった。


「じゃあ、生じゃない八ツ橋の方が……?」

「難しいですね。普通の八ツ橋はニッキの味があって好みが分かれるんですよ」

「ニッキ?」


 初めて聞いた単語だ。


「シナモンのことをニッキとも言うんよ」


 すかさず補足する元料理部部長。


「さすが元料理部」

「昔お菓子作るときに調べただけやけどな」


 結局、あーだこーだ悩んだ結果、定番の生八つ橋を買った僕たちだった。お土産、もっと調べておけば良かったかな。


 そして、帰りの電車にて。


「考えてみると、昨日1日で京都、ほとんど回れなかったですね」


 昨日回ったところを思い返すと、ちゃんと見られたのはたった3箇所だけだった。


「そんなものだよ。伏見ふしみ宇治うじなども含めれば、どれだけあるか……」


 何やら頭の中で色々考えている様子の部長。


「部長の言うこと、ちょっとわかった気がします」

「私が言ったこと?」

「いえ。何度行っても飽きない、という話です」

「ああ。確かにそうだね。真澄さんはどうだった?」


 あわてて反応する真澄。


「えーと。何の話でした?」


 さっきまで、うつらうつらしていたから、無理もないか。


「今回の京都旅行はどうだったのかという感想をね」

「ウチは部長やコウみたいな歴史好きやないですけど……いい思い出になりました」


 月並な言葉ですけど、と付け加えて、真澄は言った。


「ほう。それはやっぱり、コウ君が居たからかい?」


 真面目な部長には似つかわしくない、からかいの言葉。


「部長も意地悪なこといわはりますね。でも……やっぱりコウが居たからですわ」


 晴れ晴れとした表情でそんな事を言う真澄。


「だそうだ。コウ君としてはどうだい?」


 そういうコメントを求められても、ちょっと困る。だけど。


「僕も……やっぱり、真澄が居たからですね」


 そう、素直に答えたのだった。もちろん、部長や山科さん、他の部員との交流も

楽しかったのだけど、それだけだったら、ここまで楽しめなかっただろうとも思う。


「あ、もちろん、部長や山科さん、他の人たちのおかげもありますからね」


 それもまた本音だった。二人っきりも楽しいけど、昨日の夜みたいに皆で賑やかな夜を過ごすのもまた楽しい。


 帰りの新幹線で、そんなことを考える僕だったのだった。

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