概要
春の昼下がり。行くあての無い旅の途中でふと、ビルの奥へと続く通路に目が留まった僕は、誘われるよう足を踏み入れた。
裏路地に抜ける道だろうかと思った先は、時から忘れられたような光あふれる中庭。古い階段を上った先には、爽やかな風が通り抜ける隠れ茶屋があった。
出迎えた年配の女主人クリソコラは、僕の冷たくこごった胸の内を見透かし、このカフェで働きながら過ごしてみることを提案する。何かもを捨てて投げやりな気持ちを抱えていた僕は、春風に誘われたこの出会いに縁を感じ、住み込みで働くことにした。
そこで出会う、様々な人々。
三日月型のクロワッサンを焼く、パン屋のマキさん。
小瓶を住処とした小人――ホムンクルスを友達とする少女。
卵に絵を描き、生きていることに感謝し旅立つ人
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!何故このカフェにいるのか。そんなのどうでもいいか。
主人公は何処へ行こうとしていたのか。何を思う。空の色は。星の数は。お腹減ってないか。喉渇いてないか。
ふと立ち寄った路地にカフェがある。当たり前のように彼はそこに入り、働くことになる。
カフェクリソコラ。そこはそういうカフェ。どういうカフェ? そういうカフェ。
どんな世界が取り巻いているのか。未来はどうなるのか。過去をどう片付けるのか。お昼に何を食べるのか。どこから来たのか。どこへ行くのか。
カフェでお茶の香りを愉しみながらページをめくれば、そんなのどうでもよくなる。そういうカフェ。
マスターの髪色。どんなエプロンを身に付けているのか。わかっているけど、楽しみになるカフェ。安心ってこ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!放浪者の青年が迷い込むように訪れた不思議なカフェ。その秘密は——?
春の昼下がり、「僕」は坂道の上の細い路地の向こう側で不思議なカフェを見つけます。そこで出会った女主人に声をかけられた彼は、彼女に勧められるままに、そのカフェで住み込みで働くことになり——?
冒頭の丁寧で美しい描写に、主人公の青年とともにその不思議なカフェに迷い込んでしまう様子がありありと目に浮かぶようでした。
一話完結のオムニバス形式で、そのどれもに少し不思議な、けれどほっと心温まる結末が用意されています。ただほのぼのしているだけでなく、時には少しびっくりしてしまうような不思議な生き物や(「第003話 観賞小人」)、スパンと頬を張られるような小気味の良い結末を迎えるお話も(「第00…続きを読む - ★★★ Excellent!!!とある不思議な喫茶店で起こる、不思議で素敵で切ない物語
いやぁ。
この不思議な世界観と描写は癖になりますね!
あてもなく旅した主人公がたどり着いた不思議な喫茶店、カフェ・クリソコラ。
そこで、喫茶店の名を冠する女主人の提案に乗り、働く事にした訳ですが。
この物語はこの冒頭から始まる、主人公視点の様々な喫茶店での日常が一話完結のオムニバス形式で描かれています。
間違いなくオススメなポイントのひとつは、丁寧な描写。
風景画を見ている気分になる程綿密な描写は、この喫茶店や世界の不可思議さをより際立たせています。
そしてオムニバスで語られるお客達も千差満別。
ジャンルが現代ファンタジーである通り、普通の喫茶店では現れないお客達との一コマは、本当に…続きを読む - ★★★ Excellent!!!茶葉の紡ぐ、日常の尊さ。
街の片隅に忘れ去られた様にある『カフェ・クリソコラ』は不思議な空間だ。
時代のコンテクストの中から、自ら乖離することを望んでいる。ここを描き出した作者の意図は、厭世からの逃避ではなく、我々に逆説的に日常をフィードバックさせるための世界の隙間の『カフェ・クリソコラ』なのだろう。
人々の営みが端正に描かれることで、そこは確かに「場所」として存在している。作者は機敏な人々の儚い心情と動きを、博識な茶葉のメニューに投影する。するとカフェはリベラルなここではない「場所」を紡ぎ出す。そこではホムンクルスもアンドロイドも「自然」に存在している。あえて過度なSF志向にも舵を切らないで、当然のようにあるべき…続きを読む