茶葉の紡ぐ、日常の尊さ。

街の片隅に忘れ去られた様にある『カフェ・クリソコラ』は不思議な空間だ。
時代のコンテクストの中から、自ら乖離することを望んでいる。ここを描き出した作者の意図は、厭世からの逃避ではなく、我々に逆説的に日常をフィードバックさせるための世界の隙間の『カフェ・クリソコラ』なのだろう。

人々の営みが端正に描かれることで、そこは確かに「場所」として存在している。作者は機敏な人々の儚い心情と動きを、博識な茶葉のメニューに投影する。するとカフェはリベラルなここではない「場所」を紡ぎ出す。そこではホムンクルスもアンドロイドも「自然」に存在している。あえて過度なSF志向にも舵を切らないで、当然のようにあるべきもののようだ。しかしながらその世界が現実と地続きではないとは思わせない。

それ故、読者は四季の中の小さなコミュニティを自然に享受し、そこから何かを感じ得る。それは我々は尊い世界に生きている、という作者からの細やかなメッセージだ。

少しお茶をしていきたい人に、とてもお勧めです。


その他のおすすめレビュー

椿恭二さんの他のおすすめレビュー21