Café Chrysocolla

作者 管野月子

60

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★★★ Excellent!!!

一日の終わり、眠りにつく前にひとつのお話を読む。
そうすると穏やかに眠れる。
そんなイメージの御話でした。

公募が主と仰るだけあって、文章は流麗でさりげない品の良さの精巧な筆致。
文章を書くということに対して、とてもきちんとされている印象でした。
御話は一話完結に近い構成なので、勢いつけて慌てて読むようなタイプのものではありません。
むしろ贅沢な時間の使い方として、ゆったりと読むのが正解かと。
紙の本を読みなれた方、その中でも文章を楽しみ、大人な世界観を楽しみ、読書を無二の時間として過ごされている方にお勧めです。

★★★ Excellent!!!

主人公は何処へ行こうとしていたのか。何を思う。空の色は。星の数は。お腹減ってないか。喉渇いてないか。
ふと立ち寄った路地にカフェがある。当たり前のように彼はそこに入り、働くことになる。

カフェクリソコラ。そこはそういうカフェ。どういうカフェ? そういうカフェ。

どんな世界が取り巻いているのか。未来はどうなるのか。過去をどう片付けるのか。お昼に何を食べるのか。どこから来たのか。どこへ行くのか。

カフェでお茶の香りを愉しみながらページをめくれば、そんなのどうでもよくなる。そういうカフェ。

マスターの髪色。どんなエプロンを身に付けているのか。わかっているけど、楽しみになるカフェ。安心ってこういうこと。



イメージとしては、お客さんがよく来る『ヨコハマ買い出し紀行』って感じで。

安心して読める優しげなSF小説。

★★★ Excellent!!!

 春の昼下がり、「僕」は坂道の上の細い路地の向こう側で不思議なカフェを見つけます。そこで出会った女主人に声をかけられた彼は、彼女に勧められるままに、そのカフェで住み込みで働くことになり——?

 冒頭の丁寧で美しい描写に、主人公の青年とともにその不思議なカフェに迷い込んでしまう様子がありありと目に浮かぶようでした。

 一話完結のオムニバス形式で、そのどれもに少し不思議な、けれどほっと心温まる結末が用意されています。ただほのぼのしているだけでなく、時には少しびっくりしてしまうような不思議な生き物や(「第003話 観賞小人」)、スパンと頬を張られるような小気味の良い結末を迎えるお話も(「第009話 古き良き新しき七月の夕べ」)。

 季節に合わせた、珍しくもとっても美味しそうな紅茶やデザートが毎回登場するのも魅力です。

 ぜひ午後のティータイムや、リラックスしたい時におすすめの一作です。

★★★ Excellent!!!

丁寧で穏やかなテイスト。
カフェのマスターと店員、そして店を訪れる少し変わった人たちの交わりが一話完結形式でささやかに描かれる。

ゆったりと物語に浸れる柔らかな描写。
日常の喧騒を忘れてほっと一息つきたい時に手に取りたい。

時の流れが緩やかに感じられる、午後のひとときを味わおう。

★★★ Excellent!!!

いやぁ。
この不思議な世界観と描写は癖になりますね!

あてもなく旅した主人公がたどり着いた不思議な喫茶店、カフェ・クリソコラ。
そこで、喫茶店の名を冠する女主人の提案に乗り、働く事にした訳ですが。

この物語はこの冒頭から始まる、主人公視点の様々な喫茶店での日常が一話完結のオムニバス形式で描かれています。

間違いなくオススメなポイントのひとつは、丁寧な描写。
風景画を見ている気分になる程綿密な描写は、この喫茶店や世界の不可思議さをより際立たせています。

そしてオムニバスで語られるお客達も千差満別。
ジャンルが現代ファンタジーである通り、普通の喫茶店では現れないお客達との一コマは、本当に素敵で切なく、不思議さを感じさせてくれます。

描写は濃い目ですが、一話辺りの文章も多過ぎず、読み飽きない色々なお話が展開します。

しっかりとした、文芸ともいえるこの独特な雰囲気。
こういった幻想的な日常系好きな方は是非是非お手に取って頂きたい一作ですよ!\\\\٩( 'ω' )و ////

★★★ Excellent!!!

街の片隅に忘れ去られた様にある『カフェ・クリソコラ』は不思議な空間だ。
時代のコンテクストの中から、自ら乖離することを望んでいる。ここを描き出した作者の意図は、厭世からの逃避ではなく、我々に逆説的に日常をフィードバックさせるための世界の隙間の『カフェ・クリソコラ』なのだろう。

人々の営みが端正に描かれることで、そこは確かに「場所」として存在している。作者は機敏な人々の儚い心情と動きを、博識な茶葉のメニューに投影する。するとカフェはリベラルなここではない「場所」を紡ぎ出す。そこではホムンクルスもアンドロイドも「自然」に存在している。あえて過度なSF志向にも舵を切らないで、当然のようにあるべきもののようだ。しかしながらその世界が現実と地続きではないとは思わせない。

それ故、読者は四季の中の小さなコミュニティを自然に享受し、そこから何かを感じ得る。それは我々は尊い世界に生きている、という作者からの細やかなメッセージだ。

少しお茶をしていきたい人に、とてもお勧めです。