11■復讐劇1

 北の街区のある一角、カナタの部屋からそう離れていない建物の4階に、サンダール商会の若手幹部、エクレフの自室がある。リビングの窓は開け放たれ、月明りが部屋をぼんやりと照らしている。風が奥の寝室へとゆるく流れてゆく。


 エクレフは軽い興奮で目が冴え、0時を過ぎた今も強い酒を楽しんでいた。

 明後日にはカナタの身柄の確保ができ、娘もちょっとした非合法な経路で高く売ることができる。傭兵崩れの男どもには金貨100枚をやると言ったが、美味い酒に特製の薬を少し入れてやるだけだ。これらの采配も会頭から任されている。

 今回の『取引』で最大限の利益を出せるようならさらに引き立てると、ヘドバル・サンダールから言い含められている。

 ヘドバル・サンダールには手段を選ぶなと何度も言われた。何をやったのか問われることも無かった。むしろそこまで出来なかった者は放逐されるか消されるかだった。エクレフはそんなサンダール商会にピッタリの人材だ。商会に入ってから、法の裏を掻い潜るように非合法で無茶な取引を成功させ、会頭の信頼を得てきた。


 気を良くしていささか飲み過ぎた。バルコニーで風に当たろうとソファから立ち上がる。酔いで足元がふらつく。 


「ちょろい、ちょろいな……ははは。オレは商売の天才だ」


 半開きのバルコニーの扉を開けようと手を伸ばした瞬間、扉が大きく外へと開く。風だろうか。



「犯罪の天才の間違いだろ?」



 聞き覚えのある声にエクレフが目を凝らすと、そこに立っていたのはカナタだった。


「きっ、貴様! 負けが込んで手を出しに来たな!」


 エクレフはすぐさま部屋の中に戻り、ローテーブルの上にある三又になった金属の燭台を引っ手繰って握る。一方、カナタは涼しい顔でエクレフの部屋に入る。


「おい、どうした。何を焦っている? ほら、俺は布しか持ってないぞ」


 カタナは布をひらひらと振って見せる。


「どこから入った! いつからそこにいた?!」

「当ててみろよ」

「返り討ちにして……ぐあっ!」


 エクレフはそこまで言って軸足の膝裏に痛みを感じ、その場で転倒する。

 背中に乗られ、強烈な力で腕を背中に捩じ上げられる。

 カナタではない。カナタは目の前でニヤニヤを笑みを浮かべながらエクレフを見下ろしている。


「誰だ?!」

「わたしですよー」


 頭の上から間延びした女の声がするが、それが誰なのかが分からない。


「誰だ!」

「だからー、わたしですよぅ」


 みるみるうちに腕が背中側で縛り上げられ、脚も縛られる。布を口の中に突っ込まれ、さらにその上から猿ぐつわを噛まされる。


「よいっしょ!」


 ごろりと仰向けにされ、薄闇の中に銀髪が揺れるの見た。目の前に、腫れあがった痣だらけの顔の女がある。ひどい顔だが、それがラーベのところの娘だということに今さら気づいた。


 どうして、どうやって……?

 無事女を確保したはずなのに、どうしてここにこの女がいる?

 女は右こぶしを大きく振り上げる。

 おい、やめ!


 ガン、と女の拳が鼻にめり込み、後頭部が床に打ち付けられ、目の前に火花が散る。

 ガン、ガン、ガン……。鉄の補強のついた手甲のまま女の拳が左右交互に振り下ろされる。

 悲鳴を上げても捻じ込まれた布と猿轡で唸るくらいしかできない。


「顔はこれくらい殴られました」

「そうか」


 女の言葉にカナタが頷く。

 エクレフは意識が朦朧となりながらも、その言葉を聞いて少し安堵する。こいつらは甘い。まだまだ付け入る隙はある。そう考えたが、しかし……


「あとはお腹ですね」


 女は立ち上がると、思いっきりエクレフの横っ腹を蹴り飛ばす。その華奢な容姿からは想像できないとんでもない膂力にエクレフは吹き飛ばされ、壁に激突して跳ね返り、床に落ちる。

 刺さるような鋭い痛みが横っ腹に走る。明らかに肋骨が折れている。苦痛に悲鳴を上げるが相変わらずその声は猿轡に阻まれ、くぐもっている。


「気が済んだか?」

「はい!」


 カナタの問いに女が快活に応じる。

 やっぱりこいつらは馬鹿だ。ここで気が済んでくれたなら、やつらを傷害罪で起訴できる……。エクレフは激痛に脂汗を流しながらも勝気を維持する。


「気が済んだなら、ロープを切って」

「はい!」


 女はナイフでロープを切り、猿轡を取る。

 エクレフは痛みでろくに動くことも出来ない。こんな痛みで動けるのはそういう訓練を受けている者だけだろう。しかし、動けなかろうが、こいつらは馬鹿で、自分の勝ちだ。さあ、自分を放置して去るがいい……。


 そう考えていた。そう考えていたのだが、何かが違う。女はエクレフを襟首を掴むと床を引きずり、バルコニーへと進んでゆく。


「……お、おい、なんの、つもりだ!」


 女は不思議そうにエクレフの顔を見下ろす。


「まさか、こ、殺すんじゃないよな? 人殺しは斬首刑だぞ?」

「何を言ってるんです?」


 良く分からないとばかりに女は首を傾げる。話が通じているのかは分からない。が、殺す気は無さそうだと分かってエクレフは安堵する。

 だが……。女はエクレフを片手で引き上げると、バルコニーの手すりの上から押しやる。


「おい、やめ……、やめてくれ! 人殺しは斬首刑だって言っただろ!」

「カナタさん、この人、なんか変なこと言ってますけど」

「ああ、頭がおかしいんだこいつ。いいよ、無視して」

「ですよね。いっせーのーでっ!」


 エクレフは宙を飛ぶ。

 飛びながら、永遠ほどに緩慢となった時間の中で、何が間違っていたのか、考える。

 どこを修正すればこうならなかったのか、考える。

 だが、それがなんなのか分からなかった。

 ぐしゃ、と音がして、芝生の上に黒いしみが四方に広がる。


「見つからなきゃ犯罪じゃない。そうだろ、エクレフ? おまえはそうやってきたはずだ」



 次の日の午後、サンダール商会の2階にある会頭室で、フロッドシダ男爵ヘドバル・サンダールは部下の報告を受けていた。


「酒に酔ってバルコニーから転落だと?」

「はい、エクレフの部屋のバルコニーに蒸留酒の瓶があったそうで」


 扉は鍵が閉まっており、こじ開けた形跡もない。大家の持っていた鍵で入ったが、本人の鍵は部屋の中にあったという。


「だれか、ヤツの仕事に関わっているやつはいるか?」

「いえ、全員に問いただしましたが、今回のエクレフの仕事は彼一人のようです」

「ちっ……、まあいい。誰か、北の山小屋の様子を見に行かせろ」

「分かりました。急いで使いをやらせます」



 しかし、二時間経っても使いは帰って来ない。


「おい、山小屋の件はどうなっている?」

「ま、まだ、帰ってきていません……」

「日没まで時間がないんだぞ! そいつは首だ! 次の使いを出せ!」

「分かりました!」


 だが、日没は迫ってきた。使いは戻らない。

 ヘドバル・サンダールは腕組みしながら部屋の中で落ち着きなく行き来している。雇ったはずの傭兵崩れが利益を独占する為に反旗を翻したのだろう。きっとそうに違いない。

 エクレフは詰めが甘いのだ。だからこんなヘマをするのだ。そもそも、酒に酔ってバルコニーから落ちるような間抜けだったとは、エクレフに期待した自分が愚かのようで気分が悪い。

 そこに先ほどの部下が入ってきた。


「使いが戻りませんでした。門はもう閉まり……」

「馬鹿者がああああ! 明日はお前が傭兵を雇ってやつらを制圧し、作戦を受け継げ!」

「はい、もちろんです!」

「もういい、出て行け!」


 日没とともに自宅の馬車が店の前に迎えに来ている。ヘドバル・サンダールは苛立ちを隠すことなく蹴り飛ばすように扉を開け、商会を出ると馬車に乗り込んだ。



 ヘドバルは貴族街の自邸に戻っても何か落ち着かなかった。

 書斎の広い机と大きな背凭れの椅子に座り、上質な葉巻を吸いながら、最高級の蒸留酒を舐めるように飲む。


 部下には『自由』にやらせた。『自由』にやれないやつは放逐するか、商会内部の関わりに応じて消した。エクレフはそういう意味で優秀だった。『取引』の計画とその結果だけを報告するだけだった。

 だが今回は、エクレフが進めていた『取引』に人をやっても帰って来ない。雇った傭兵崩れどもが反乱したのだろうが、制圧しきれなかった。いつもなら部下が起こした『問題』を処理するだけだったが、今回は何かがおかしい。不吉なものを感じずにはいられなかった。

 長年、犯罪じみた商売を続けてきた傑物である、ヘドバル・サンダールだからこその勘といったところか。


「ふん、どうとでもなるわ」


 疑念を鼻息で吹き飛ばし、ゆるりとソファに背中を預ける。



 その疑念と焦燥は深夜まで及ぶ。いつも熟睡できるはずの時間を何者かに邪魔されているようで忌々しい。柱時計が0時を示す。

 きい、と、扉が開いた。


「お、ここにいたか」


 部屋に入ってきたのはフードを深くかぶった男。だが、声に覚えがある。それが誰かすぐに気づくと、驚きのあまり瞠目する。

 敵と見做すには半端な小僧、カナタだ。


「……どうやってこの屋敷に入った?」

「そんなことが知りたいのか? 他に知りたいことは無いのか?」


 ヘドバル・サンダールは目を細め、そしてハッとして気づく。


「……北の山小屋の件、おまえが…………おまえがやったのか?」

「さあ?」


 その表情は記憶にあるものとはまったく異なっていた。怯え、痛め付けられ、絶望する若造ではなく、かといって商人の目でもない。

 冷たく、油断なく、老人を見るその眼は、狩人が獲物を見るそれだ。


「じゃあ、エクレフもか?」


 カナタはさあ、と首を傾げ、曖昧に笑うだけ。その態度で凡そのことは分かった。こいつは、エクレフの企みを阻止したのだ。そして、ヘドバル・サンダールの利益を阻止した。


「そううまくいくと思うか? 曲者だ! 出あえ……」


 カナタは咄嗟にヘドバル・サンダールとの距離を詰め、胸倉を掴む。


「ここじゃゆっくり話もできない。一緒に外に出ようぜ?」


『転移』


 ヘドバル・サンダールの体を歪な感覚が通り過ぎる。彼は吐き気と眩暈に目をきつく瞑った。慣れない感覚に頭を振り、ぱちぱちと何度も目を瞬かせる。

 そこは平原だった。月の下、腹ほどもある丈の草が生えた草原だ。目の前には若造一人。周りを見回すと背後に城壁と月があるのが分かった。たった二人が月に照らされている。


「なっ、これはどういう……」


 さっきまで屋敷にいたはずだ。気分は悪くなったが意識が途切れたわけではない。一瞬で城外へ移動しているのだ。


「何をした……、ここはどこだ……お、おまえは何者だ!」

「そんなことより、自分が何をしたかを考えた方がいいんじゃないか?」


 カナタは突っ立ったまま答える。


「こんなことをしてタダで済むと思うな! このフロッドシダ男爵たるヘドバル・サンダールに危害を加えたら、貴様の命はないぞ!」


 だが、カナタは焦る様子を微塵も見せない。


「おやおや、あんたはもっと頭が良いと思ってたんだけどなあ……。少し状況を考えて、もっとマシなことを言ったらどうだ?」


 そう、現実はこの草原にたった二人。

 向うは恐らく武器の類を持っているだろうが、ヘドバル・サンダールは丸腰だ。腕に覚えが無いわけではないが、揉み合いになって確実に勝てるかは分からない。どうにか一旦油断させ、穏便な方法を取らせる必要がある。

 こいつを殺すのは容易いが、まずは確実に自分が生き延びる必要がある。


「ぐっ……、わ、分かった……。いくらほしい? 金貨50枚でどうだ!」


 ヘドバルは腹の中で笑いながら出来るだけ縋るようにして言った。

 その言葉に、カナタは首を振る。


「おい、まだ分かってないようだな……。俺はいつでもあんたの寝室に行けるんだぞ? 自分の命にもう少し高値を付けてもいいんじゃないか?」


 そう、カナタはヘドバル・サンダールの屋敷に忍び込んでいた。いつでも殺しに行けるということだ。だが、一旦安全な場所で強固な守りを敷けば相手は一人だ。もし、さきの不思議な現象で逃げるのなら、エクレフを殺した罪で指名手配にしてやればいい。他の領地でも生きられないようにしてやる。


「わ、分かった! 金貨100枚でどうだ!」


 なるべく必死そうな声でそう言うと、カナタは少し悩んだ素振りをする。


「ふん。ま、おまえの命、それくらいが妥当か。分かった、ヘドバル・サンダール。俺も商人の端くれだ」


 男爵は内心ほくそ笑む。やはり若い、こいつは小僧なのだ。容易い。たかが金貨100枚ちらつかせただけで復讐心を買えるのだから。

 あとはこいつを再び屋敷に連れてゆき、口を封じるなり、逃げたら警備兵を使ってこの街に居られなくするだけでいい。商人登録もあるし居場所も分かっている。あとはどうにでもなる。


「ほらよ」


 急に何かを投げられ、ヘドバルは思わずそれを受け止める。それは小さな皮の袋で、ジャラジャラと高い金属音が響き、ずっしりと重い。それが金貨であろうことは長年の慣れから音と重さで分かる。そして、その量もだ。中身は、金貨およそ100枚。

 だが、なぜそれをカナタから渡されたのか、分からない。ヘドバル・サンダールは訳も分からないまま不審な目をカナタに向けるしか他になかった。


「何不思議な顔してる? おまえの命の価値は、金貨100枚ってことだろ。その命、金貨100枚で買ってやる」


 ヘドバルはその意味が分かるのに十数秒かかった。

 そして、逃げようと行動に移すのに、数秒かかる。

 月と城壁が背後にあることから城の北側にいると判断し、東の城門へ向かって駆けだす。

 そんな中でも、金貨の入った袋を胸元に捻じ込むのは忘れない。


 無我夢中で草を掻き分け、走る。走る。走る。

 これだけ距離を離せば……。そう思って背後を見る。

 カナタは追い始めてはいるが、距離を稼げている。

 この調子でゆけば先に城門へ辿り着ける。

 必死に、それこそ、心臓が爆発するのではないかと思うほどに走る。


「最後に勝つのは私だあああああ!」


 己を鼓舞するように叫び、なお一層力を振り絞って走る。だが、


「いえ、わたしですー」


 目の前の草の中から銀髪の女が飛び出してきた。身に革鎧、両手にバスタードソード。唸るような袈裟切りがヘドバル・サンダールの鼻先を掠める。

 辛うじて躱すが、体が恐怖で硬直し、その場に立ち止まる。

 返す刀が月光を反射し剣閃が跳ね上がる。切っ先は左下から右上へと腹部を切り裂き、金貨袋が宙に舞う。


「あっ……あっ……うがあああああああああああ!」


 はらわたが傷口から零れ、足元へと転がる。膝を突き、それらをかき集めるが、次から次へと血と臓物が溢れて来る。


「苦しませることもないだろう。殺れ」

「はい!」


 カナタの声に、銀髪の女、シーラ・ラーベは再度バスタードソードを構え、蹲る男の後頭部へと振り下ろす。


「ぶべええええ!」


 血と脳漿が飛び散り、月光の下では黒と白に見えた。

 ヘドバルの体がびくんと痙攣し、止まる。

 シーラは剣の血を振り落とし鞘に納める。

 落ちた金貨袋を拾い上げ、カナタに差し出す。


「いや、それはシーラのものだ。俺はこいつの命を買ったんだ。それを貰ったら、買ったことにならないだろ?」

「いえ、それはそれ、これはこれ。二人で倒した魔物です。パーティーなら、お宝は山分けですよ?」


 シーラはそう言って笑い、カナタも釣られて笑う。人を殺す罪悪感を金を払って拭おうと思っての行動だったが、シーラにそう言われると、どうでもよくなってきた。そもそもシーラは自分やカナタを誘拐したり、叔父を脅迫したりした極悪人を退治しただけで、人殺しだという理由で気負ったりはしていない。


「分かった。じゃあ、ありがたく頂くよ。あとは、こいつを埋めてくか……」



 ヨン・ラーベは執務室で強い酒を呷っていた。テーブルには書きかけのメモが放置されている。

 ラーベは昨日に始まった脅迫事件に金を用意していた。それ以外、何も手を打てずにいた。一介の若い商人でしかないカナタを全面的に頼れるはずもなく、日の出とともに口座から現金資産のほとんどを下ろした。それ以外に何か出来ないか考えたが、何も思いつかなかった。

 最悪の場合を想定し、明日に何をすべきか考えていたのだが、不安と焦燥に疲れ切って考えるのをやめてしまっていた。


 そんなとき、廊下に足音が聞こえ、ノックの音がする。返事をしようとして、今が深夜であることを思い出す。従業員もいないはずだし、使用人も日没までの勤務だ。立ち上がり、壁に掛けたレイピアをそろりと抜く。


「誰だ?」


『カナタです。よかった、やっぱりここか……』


 ふう、と小さく息をつき、レイピアを壁に戻す。


「入れ……」

「叔父さーん、戻りましたー!」


 入ってきたのはカナタでなく、顔が腫れあがったシーラだった。


「シーラ、シーラなのか?!」


 ぴょんと跳ねたシーラをヨン・ラーベはしっかりと受け止める。


「カナタさんが助けてくれたんです! やっぱり王子様です!」


 後から部屋に入ったカナタは照れくさそうに突っ立ている。


「おい、何をしたんだ?」

「聞かない方がいいです」


 カナタはそう即答し、ヨン・ラーベは眉根を寄せる。しかし、


「悪い人を倒してきたんですよ。エクレフさんと、ヘドバル・サンダールさん。天誅です!」

「こらっ!」


 シーラの口を塞ぐカナタだったが、既に遅かった。


「なんで言ったらダメなんですか!」


 ヨン・ラーベは青い顔で呆然と二人を交互に見る。そして、ふう、と息をつき、項垂れた。


「いや、驚いた……。いや、良かったじゃないか、あのサンダール商会の横暴がこれで無くなるんだからな! あの糞野郎の頭蓋骨叩き割ってくれたわけだ! よしよし、今日はパーティーだ、飲むぞ!」


 やはり、この世界の倫理観というのは、法よりも自然な道徳によっているらしい。


「ちょっと待ってください。まだ終わってません」

「なんだ、もしかして、目撃者でもいるのか? それなら厄介だが……」

「いえ、いません。ただ……」

「どうした、言ってみろ」


 カナタはこれからすべきかどうか迷っていることを相談することにした。


「今のままだと、サンダール商会は残るし、ヘドバル・サンダールの親戚も残るわけです。新しい会頭が着任すれば、サンダール商会も通常運営されることになります。もちろん、ヘドバル・サンダールやエクレフがいない今、あれほどのことを行えるとは思えませんが、人が代わるだけで、サンダール商会のやり口が変わるとは思えないんですよ」

「ふむ…………そうだな、後顧の憂いは断つべきだろう。オレからもお願いする。できるのなら、徹底的にやってくれ」

「わかりました。じゃあ、行ってきます。二人はゆっくり休んで。パーティーは明日にしましょう」

「わたしも行きます!」


 シーラが飛びついてくるが、宥めた。


「大丈夫。シーラは十分働いた。すぐ終わるし、シーラが活躍できることじゃないから。大人しく休んでその顔を直したらいい。ラーベさん、ヒールポーションは無いですか?」

「あるぞ。シーラの傷は任せとけ」

「じゃあ、行ってきますね」

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