4 ストールグリンド伯爵領編
1■フェリシア・フランセン1
その夕暮れ、ノシュテット子爵、兼、ストールグリンド伯爵であるカナタ・ディマは、ノシュテットの近衛兵10人ほどと、婚約者3人をつれ、ストールグリンド伯爵領都グリンド市に入った。
ノシュテット城の3倍はあろう謁見場の絨毯を進む。両脇には跪いた人間がずらりと首を垂れている。
カナタが玉座につき、婚約者たちと近衛兵が左右に立つ。
「面を上げよ」
当番の近衛兵はノシュテット子爵領の3倍の30人。
官吏の数もノシュテット子爵領のほぼ3倍。
さらに、同じ地方に属する子爵が1人、男爵が5人。
伯爵領は子爵領と規模が違う。子爵が街の統率を任された地位であるならば、伯爵は地方の統率を任された地位であり、ここは領都である。男爵領や子爵領も他にもあるが、そこには代官が派遣されている。
ストールグリンド伯爵領はレクセル王国の南を守るストールグリンド山脈に寄り添い、南の国レーンクヴィスト王国と繋がる峠の入口に位置する王国の要害であり、かつ、重要な岩塩の産地である。レーンクヴィスト王国とは国交は無く、国境である峠の要塞エトスロットで暗黙の了解で細々とした交易がなされているだけだ。
その峠の要塞を預かるのは、元伯爵次男エトスロット子爵エーリク・フランセンだ。フランセン家は無益な戦争を起こして負け、その罪により伯爵を追われたが、他の大貴族がそうであるように、同じ地域内の爵位を子に名乗らせていた。
それはいい。問題は、過去に与えた領地だ。王の調停はそこまできれいな掃除をしてくれたわけではない。その他男爵領5つも元伯爵の遠い親族である。フランセン一族がストールグリンド地方を掌握しているのは明白だ。
カナタが伯爵としての強権を以って今すぐストールグリンド地方の貴族を一新することは不可能である。
だから、顔を上げたその面々を見て、カナタは思う。
参ったな……。
顔形以前にその憎々し気な表情から、その大半がフランセン家の血縁であろうことは簡単に推察できたからだ。
少し、間引かないといけないか……。
このままでは部下に領を乗っ取られてしまう恐れがある。
「多くの顔に前伯爵、フレデリク・フランセンの面影があるな。お前たちはやはり、フレデリクと同じように途方もない馬鹿なのか? ノシュテットの門に飾るのによく似合いそうだ」
謁見場に怒りと緊張が走る。元伯爵次男であり、エトスロット子爵エーリク・フランセンは顔を真っ赤にしカナタを睨みつけている。
一番手前の近衛筆頭が怒りに震え、甲冑を鳴らす。
ぎり、と歯ぎしりのような音がどこからか聞こえた。
「どうした。何も言えないのか? 馬鹿の上に勇気も無いと見える」
「この流民上がりがあああああああああ!」
近衛兵筆頭が立ち上がり、吠える。
それに呼応し、数名が立ち上がり、カナタへ向かって走る。近衛筆頭が抜刀し、玉座のカナタ目掛けて剣を振り上げる。
「ここに成敗……」
シーラの大剣が低く唸り、近衛兵を甲冑ごと上半身と下半身に切り分ける。血飛沫を上げ、上半身と下半身は別々のところへ向かって転がる。
死体を目の前に男爵の一人が悲鳴を上げる。
「ひ、ひぃ!」
「シーラ、今立った者を殺せ。貴族に向かって剣を抜いた時点で死罪だ」
「はい!」
シーラは向かって来る男を次から次へと一刀一殺で屠る。
「フランセン家の誇りをここで取り戻おおおおおおおす!」
新たに手前の男爵が立ち上がる。シーラの隣をすり抜けると玉座へと走り寄る。そして剣を抜く。
ソフィアが右手を上げる。
「右に炎、左に風、炎風」
不届きものは炎に包まれてもがき、その場に倒れる。
「あ、あ、あつい! あつい! うがあああああああああああああ!」
シーラが最後の一人を軽々と切り伏せる。鬼切丸の血を振り飛ばし、背中の鞘に納める。
「さて、自制の効かぬ者は他にいないか?」
カナタはそう言って皆を見回す。
皆、脂汗を垂らしながらこちらを見ている。エトスロット子爵エーリク・フランセンは一番悔しい立場であろうに、怒りに顔を歪めながらも己を保っている。
「外務長官トマス・トルネン殿」
「は、はっ……!」
焦燥しきった顔に玉のような汗を浮かべながらトルネンはカナタを見る。
「何度も顔合わせをしたものだが、ここで合うとはな」
「お、お戯れを……」
「トマス・トルネン殿には引き続き、外務長官を任ずる」
「はっ!」
「内務長官」
気の小さそうな細い男がびくりとする。
「はい、ステファン・ストールと申します!」
「ストール殿にも、引き続き内務長官を任ずる」
「はっ! 有難き幸せでございます」
「警備兵長」
「はっ! わたくし、テオドル・テグネールとお申します」
「テグネール殿、引き続き、警備兵長を任ずる」
「はい、謹んでお受けいたします」
内務長官、外務長官、警備兵長の3人は面従腹背だとしても、抑制が効かないということはないらしい。特に官吏はそうだろう。主君の一言で首にすることができるのだ。
「その他で、辞めたいものはいるか? 元主君を殺した者に仕えるのは我慢ならぬ者もいるだろう。それは当然だ」
しかし、誰も手を挙げることは無い。ノシュテットの内務長官、外務長官とは異なり、官吏が爵位を持っているわけではない。辞めたところで生活の充てが無いのだろう。
「では、カロリーナ・カンプラード、ここへ」
「はい」
カロリーナはカナタの前に移動し、跪く。
「カロリーナ・カンプラード、そなたをこの領の代官に任ずる。領内の政策を見直せ」
「承りました」
カロリーナは立ち上がると皆を睥睨する。
「官吏の皆さん。わたくし、カナタ・ディマの婚約者であるカロリーナ・カンプラードは、ストールグリンド伯爵領代官に任じられました。わたくしに対しては領主と同じと心得てください」
官吏たちが頭を下げる。カロリーナは下がると、また玉座の隣に立つ。
ちなみに、ノシュテット子爵領はニーダール夫妻をそのままに代官に任命してきた。
「次に、騎士シーラ・ラーベ」
シーラがカナタの前で跪く。
「そなたには、ストールグリンド伯爵領近衛兵筆頭を任ずる。警備兵長テグネール殿と相談し、近衛兵の選定をやりなおせ。必要あらば新たに募集せよ」
「はい!」
「最後にフィアルクロック男爵ソフィア・ニーダールよ。ここへ」
最後に小さなソフィアがカナタの前で跪く。
「そなたには、ストールグリンド伯爵領近衛魔術師筆頭を任ずる。能力を見て、必要あらば選定しなおせ」
「わかった」
「では、何か他に要望がある者はいるか?」
皆、跪いたまま力なく首を垂れている。
「いないようだが、今後、いつでも言うが良い。心の底からわたしを殺したいと思っていようが、仕事さえできれば重用するつもりだ。必要なのはわたしに対する忠誠ではなく、ストールグリンド伯爵領に対する忠誠だ。それと能力さえあれば、この領を統治する官吏として十分だ」
その言葉に官吏たちがどよめく。
それがしばらく続いたが、手を挙げるものはいなかった。
「では、解散だ」
■
次の日の朝、マクシミリアン・マグヌソンに変装したカナタは転移で郊外に出る。ストールグリンド伯爵領の領都グリンド市の城壁を改めて見上げる。辺境の新興都市であるサンダールやノシュテットと比べるとずっと古い都市で、不定形に増築された街は四の壁まである。
「やっぱり、ノシュテットより大きいな……」
マクシミリアンは城門で商人ギルドの銅札を見せ、街に入りなおす。
商人ギルドで銅札を見せこちらにもマグヌソン商会の支店を作るべく年会費を払う。年会費は規模によるが、銅ランクは店舗開業と従業員を雇う権利がある。
自宅兼小店舗を借り、店員の募集依頼を出し、箱型の荷馬車と馬を2頭発注する。大工を探し、明日店舗の修繕をしてくれるよう話をつけ、看板だけ発注する。最後に家具屋でソファとテーブルを発注する。
「やったぞ、これで俺は自由だ!」
借りた店舗の中で、どこかで聞いたことのあるセリフを吐く。
翌日は大工がやってきてマグヌソン商会の看板を設置し、他の職人も連れ、建物の傷んだところを確認する。
翌々日、朝、他の職人も合わせた見積書を提出され、確認。すぐに作業に取り掛かってもらう。内装に凝るということは無いので2日もあれば修繕は終るとのこと。
修繕が終わった日に家具が運び込まれ、発注した馬車と馬がやってくる。裏庭に馬の飼葉を運んでもらい、水生成で水桶を満たす。
これらを全て二の鐘から三の鐘までの間に行った。
■
その午後、一方代官となったカロリーナ・カンプラードは領主執務室にいた。
「ステファン・ストール内務長官殿、これはどういうことです?」
カロリーナは提出された書類にざっと目を通すと、その書類を突き返す様に机を滑らせる。
ステファン・ストールはおずおずとその書類に手を伸ばす。
「どう、と仰いましても……」
「塩で、領の利益がまったく出ていないではありませんか」
「はあ……」
「はあ、ではなく、どうして公売で利益が出ないのかと聞いているのです」
ストールは言いにくそうに口をもごもごさせる。
「それが、前伯爵フランセン家の3つの親族が商会を持っておりまして、その3商会が公売に指名されておりまして、談合していると言われています……。以前は今ほど安い値は付けなかったのですが」
「なるほど、今までは本家と分家で利益を分けていたところ、カナタ様が伯爵になったため、フランセン家が結託し、値を下げて領の利益を掠め取っているわけですね」
「といえるほどの法的な根拠はございませんし……」
「では、指名制を取り止めます。グリンド市に店舗を持つ全ての商会が競りに参加できるよう法を変えてください」
通常、その領に本店を置く商会のみが公売に参加できるようにして領内を保護する場合が多いが、ノシュテット商会がいるのでそれはしないほうがいいだろう。
「そうすると反発が……」
「あなたは、カナタ・ディマが持つ伯爵領の利益を、フランセン家が独占するのが良いと言うのですか?」
「いえ、とんでもございません!」
「では何が正しいのかは分かるでしょう」
「はい、至急、法的整備を行います!」
■
ストール内務長官は速足で領主執務室を出て行く。
大変なことになったぞ……。ストールは内心気が気でない。
「どうされた、ストール殿。青くなって」
廊下で向こう側から来たのはトマス・トルネン外務長官だ。
「それが……」
ストールは先にあったことを説明する。
「それは流石に閣下の言う通りですな。いつまでもフランセン家が伯爵領を支配するのは道理に叶いません。今後起こることを心配されているようですが、それと秤にかけることはできますまい」
「やはり、仕方のないことですか……」
小心者のステファン・ストールにはこれから起こるであろう混乱が怖くて仕方なかった。
■
翌日、内務官の親戚に聞いたのか、トゥンフロッド男爵ことトゥンフロッド商会会頭は、カロリーナへ面会に来た。
「閣下、これはどういうことですか!」
「どうもこうもありません。指名制をやめただけですわ」
「なぜ?!」
「逆にお聞きしますが、カナタ・ディマ様が持つ伯爵領を、あなた方の利益の為に捧げなければいけない理由がおありで?」
「なっ……」
「いつの先代伯爵かは分かりませんが、塩の利益をフランセン家で独占するためにした政策です。カナタ・ディマ様が伯爵になった以上、それを続ける正当性がどこにあるとお思いです?」
「あ、が……」
「ご理解いただけたようですね。それではお帰り下さい」
カロリーナ・カンプラードは涼し気な笑みでトゥンフロッド男爵を見送る。
■
そこはストールグリンド山脈の峠道を見下ろす高台にあるエトスロット城。1000年以上前から存在する歴史ある城である。
城郭ではあるが街という規模ではなく、要塞に毛が生えた程度で住人は1000人ほどしかいない。実質、南方のレーンクヴィスト王国との貿易関税や通行税を収入源とした領であるが、公的には国交は無いので暗黙の了解の行為である。
その城主、元伯爵の次男であり、エトスロット子爵であるエーリク・フランセンの執務室では、貴族たち4人がソファに座り、顔を赤くしたり青くしたりしていた。
「なんだと、指名制をとりやめるだと? 抗議はしたのか!」
激高するエーリク・フランセンを宥めるように、トゥンフロッド男爵が答える。
「閣下、そもそも指名制自体がフランセン家の為の恣意的なもので、抗議するにもよって立つところがございません……」
「塩は我々のものだ! 指名制取りやめられたらどうしようもないではないか! 同じフランセン家の親族であるお主らの商会を指名することで塩の利益を一族で分配していたのだぞ?」
「もっともですが……」
男爵三人は肩を落とし息をつく。
「あら、楽しそうなお話をされていますわね」
四人が顔を上げると、艶のある赤毛の美しい少女が部屋に入ってきていた。
「フェリシア、大事な会議中だ。勝手に入ってきちゃ駄目だろう?」
エーリクは怒れないのか優しく叱咤する。
フェリシア・フランセン、13歳。カナタが殺した元伯爵フレデリク・フランセンの孫であり、カナタが追い返しサードラスロテット子爵に敗れた元伯爵フランシス・フランセンの娘であり、エーリク・フランセンの姪に当たる。
フランシスの男子はサードラスロテット卿の兵士と戦い戦死したが、唯一の女子であるはフェリシアは叔父であるエーリクが保護し、エトスロット城に住まわせた。
エーリクはフェリシアに甘かった。兄とは反りが合わずとも、幼少のころからフェリシアを娘代わりに可愛がっている。子の無いエーリクにとって、この城の後継ぎでもある。
「いいえ、叔父様。出て行きません」
「フェリシア?」
「トゥンフロッド商会も、その他お二方の商会も、このストールグリンド伯爵領においては長い歴史と力を持っておりますわ」
「だったらなんだと言うのだ?」
「他の商会など、公売で競ったら潰すぞと、脅しをかければ済むではありませんか」
事もなげに言うフェリシアの言葉に、四人は顔を見合わせる。
「はっはっはっ! 確かにそうだ。そもそも公売など我らを縛る枷にはならなんではないか! よく言ってくれた、フェリシア」
エーリクはその意見に感銘を受ける。
「いえ、叔父様の為ですもの」
「分かりました。さっそく、商会の会合を開き、競りに参加しないよう脅して見せます」
トゥンフロッド男爵は笑みを浮かべて手もみした。
「あら、参加させたほうが良いと思いません?」
「どういうことだ?」
フェリシアの言葉にエーリクが顔を上げる。
「競りに参加しながら、競ることが無かった方が、説得力がありませんこと?」
「おお、フェリシアの言う通りだ! それなら談合をしているなどと言うことさえできまい!」
■
そこは伯爵領の執務室。
「内務長官殿、これはどういうことです?」
カロリーナは塩の公売の報告書を突き返した。
「……それが結果です」
「つまり、多くの商会が公売の競りに参加していながら、競ることが無かったということですか?」
「はい、その通りで……」
「分かりました。何か対策が思いついたら教えてください。わたくしも考えます」
カロリーナは歯噛みする。談合していることは確かだが、法的な根拠を得るのが難しい。この結果はストールグリンド伯爵領でのフランセン家の力を示していた。伯爵家を追い落とされてもその力は消えることが無い。彼女は味方が一人もいないまま大勢の敵に囲まれている錯覚に陥る。
わたくしには、難しい問題ですわ……。
官吏を父に持ち、官吏として育ったカロリーナには、法によって人の動きを制御する以外の方法が思いつかない。
カナタ様ならどう考えるのでしょうか?
その夜、夕食で談合についてカナタに相談した。
「分かった。談合を破壊してくる」
カナタの言葉はごく簡単なものだ。簡単すぎて、カロリーナには意味が分からない。
「どのようにやるおつもりです?」
「別に、難しいことじゃないだろ。より高値で買うやつがいればいいだけだ」
そこまで言われてカナタが何をしようとしているのか、カロリーナはやっと理解する。一商人だからこそ答えが簡単なのだ。
「分かってみれば簡単なことですわね。わたしくは官吏としての見方に縛られていたようです」
「本当ならノシュテット商会に一言いえば済むことだが、談合を崩すついでに様子を見て来るよ」
「よろしくお願いします」
■
「はじめまして、商人希望で紹介されたウルフと申します」
若い男がマグヌソン商会に入ってくれた。
「うちは、ノシュテットとストールグリンドを拠点として商売をしている。わたしは道楽で商売をしているため、午前中しか来ないし、毎日来るとも限らん。おまえ自身が店長だと思ってやってくれ。店長なので売り上げに比例して給金を与える」
マクシミリアンはちょっと偉そうな顔をして言う。
「て、店長ですか、頑張ります!」
「店の鍵は預ける。商売に出ていない日は店を掃除し、馬を管理してくれ。もしわたしがいない時に何かあったら机の鍵のかかった引き出しに報告書を入れてくれ。その鍵も預ける」
「わかりました!」
「それで、やりたい商売があるなら言ってみろ」
「そうですね、塩の公売が解放されたらしいので、ストールグリンド名産の岩塩を扱いたいです!」
「そうだな。それがいいと思う」
「今日は公売の日です。早速行きましょう!」
マクシミリアンはウルフと共に塩の公売へと出かける。
「途中、市場の値段を確認しよう」
「なるほど、そうですね」
大通りを歩き、保存食を扱う店に入る。
「岩塩はkg銅貨60枚というところですね。40枚で仕入れて小売りに50枚で売って利益が出そうです」
「そうだな。それくらいを目安に考えるか……」
通りを抜け、貴族街の二の壁の前の広場に行き当たる。大勢の商人が集まる中、あからさまに羽振りの良さそうな男達3人が前に出ている。
だが妙だ。その3人以外、ただぼーっと突っ立っているだけでやる気が感じられない。
「今回は岩塩10トンを売りに出す!」
官吏が叫ぶように言う。
「キロ銅貨20枚、3トン!」
前の男の一人が叫んだ。
「同じく、キロ銅貨20枚、3トン!」
「こちらも同じくだ。キロ銅貨20枚、4トン!」
そして、同じ値段での男2人が叫ぶ。
「キロ銅貨20枚、10トンに値が付いた! 他に買う者は居ないか?!」
官吏は声高く問うが、虚しいかな、誰も値を提示しない。明らかに、前の3人が独占するよう、他の商人たちを牽制している。
ウルフが期待に目を輝かせ、マクシミリアンを見上げる。
マクシミリアンは頷き、叫んだ。
「キロ銅貨30枚、10トン!」
商人たちがどよめき、マクシミリアンは注目を集める。
3人の男達も驚愕と怒りの目でマクシミリアンを睨みつける。
「き、キロ銅貨31枚! 3トン!」
3人のうち1人がこれでもかと対抗する。
「キロ銅貨35枚、10トン!」
マクシミリアンはすぐに被せていく。
「な、なんだと!」
男の1人がカナタの前に立ちはだかる。
「きさま、どこの田舎者だ! トゥンフロッド男爵様が会頭をなさっているトゥンフロッド商会の商売を邪魔する気か、いますぐ降りろ!」
マクシミリアンはそれを無視し、周囲を見回す。
「他にいないのならわたしが買いますが、誰か値を被せられる人はいますか?」
誰もいないようで、内務官はカナタに証書を渡す。
「貴様、聞いているのか、わたしはトゥンフロッド商会の人間だぞ!」
「だったら何だ? その会頭とやらに言っておけ。間抜け、とな」
「むうう、貴様、会頭は男爵だぞ! 貴族を愚弄する気か!」
「それは失礼した。なら、その貴族に塩を買えませんでしたと泣いて謝って来い」
■
マクシミリアンは塩10トンをキロ単価銅貨35枚で買うことになった。40枚までは許容範囲だったのだが、他の商会が遠慮してくれたおかげで安く買い物ができた。
しかしながら、10トンもの塩は捌き切れないので、そのまま、ノシュテット商会へと向かう。
「クリストフ殿はいるか? マグヌソン商会のマグヌソンだ」
マグヌソン商会の存在は既にクリストフに知らせてある。クリストフというのは、カナタ・ディマの関係者であることを示す符牒である。
「おお、これはマグヌソン殿。こちらへどうぞ」
「塩の公売で10トンの塩を買ってな。うちの商会では売り切れないので買って欲しいのだが。いかがだろう」
「おいくらです?」
「キロ単価銅貨40枚で9トンだ」
「それなら十分利益は出ます。買いましょう」
「それと、そちらにも利益になる話なのだが。公売の談合を崩したい。次の公売にはノシュテット商会も入って値を入れてもらえないか?」
「確か、カロリーナ閣下が指名制をとりやめた件ですね」
「それでもまだフランセン家の支配が強いのでなんとかそれを崩したい、とカロリーナ閣下のご要望だ」
「わかりました。ところで、あなたは何者なのですか?」
「カナタ・ディマに味方する者だ。それでは不満か?」
「いえ、十分でございます」
早速契約書を交わし、早速、金貨4枚銀貨50枚の利益を確定する。
ノシュテット商会を出るとわくわくした顔でウルフが待っていた。
「話はついた。9トンはノシュテット商会へ流す。残りの1トンをお前が売って来い」
「はい!」
ノシュテット商会の馬車9台と共にマグヌソン商会の馬車1台が広場に戻り、納入と支払いを済ませる。
そうして、ウルフは塩を売りに旅立って行った。
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