2■辺境都市サンダール

 カナタは一昨日のことを思い返していた。



 頬を撫でる風が心地よい。

 若草の匂いがする。

 瞼が明るい。

 ゆっくり目を開けると、真っ青な空を背景に太陽が輝いている。


 はっと上半身を起こし見回す。

 そこはどこまでも続くような草原のど真ん中で、吹く風に短い草が撫でられ波打っている。

 頭はハッキリしているのに、何かがぼんやりしてる。

 何故ここに自分がいるのか、どういう状況なのか、全く理解できない。

 次第に不安がせりあがりぎゅっと胃を捕まえる。


「どこだ、ここ……?」


 いや、それ以前に……、


「俺は誰だ……?」


 愕然としてそう呟やいた途端、目の前の空中にリストが表示される。



【 名 前 】カナタ

【 性 別 】男

【 種 族 】ヒューマン

【 年 齢 】16歳


【魔術基礎スキル群】

空間魔術スキルLV1


【魔術応用スキル群】

魔術陣スキルLV1


【鑑定スキル群】

魔術鑑定スキルLV9 魔動植物鑑定スキルLV9 武具道具鑑定スキルLV9 魔道具鑑定スキルLV3 錬金鑑定スキルLV3 人物鑑定スキルLV10 鑑定偽装スキルLV10



「うわ、何だ……?!」


 どういう仕組みなのか分からないが、これは自分のことだろうか? これを信じるなら自分はカナタという人物らしい。

 どうして急に出て来た?

 疑問に思いつつもリストを確認すると、人物鑑定スキルという言葉で目が留まる。

 もしかして「俺は誰だ」という言葉に反応したのか?「……鑑定、自分」

 そう呟くと、再び同じリストが表示される。どうやら自分を鑑定できるために表示されたらしい。

 どうしたものか。ここがどこか、自分が誰か、記憶がない上に、魔術スキルとやらも意味も分からない。

 カナタは頭を抱える。

 どうすりゃいいんだ……?

 いや、初っ端から絶望しても仕方ない。まずは状況把握を進めないと。自分を鑑定できるなら、各項目も鑑定できるかもしれない。


「鑑定、スキル」



【スキルについて】

 スキルとは、その人物が持つ能力が魔力によって強化される効果です。

 スキルを実行し成功するとスキル経験が増え、一定を越えると新たなスキルを得る、またはスキルレベルが上がります。失敗しても僅かに経験は増えます。どのスキルが上がりやすいかは個人の資質に左右されます。

 魔力を外に放出するタイプのスキルは魔力を消耗しますが、眠ると回復します。



「おお、鑑定できた、良かった……」


 スキルは全てが魔法のようなものらしい。こうやって見えるのも魔法的な何かなのだろう。

 続けて自分のスキルを確認してゆく。



【空間魔術スキル】

 空間を操作する魔術を使用できる。消費魔力はスキルレベルによって軽減される。


 ■使用可能魔術

 【亜空間収納】

 レベル^2x100kgまでの物を亜空間に収納できる。収納内の時間は止まっている。生物は収納できない。


 【転移】

 目視できる範囲でレベル^2x1kg・kmまでの転移ができる。

 転移魔術陣を設置した場所へはレベル^2x100kg・kmまでの転移ができる。

 転移魔術陣同士の転移ではレベル^2x100kgまで無制限の距離を転移できる。

 触れた対象とは共に転移できる。



「転移魔術陣……?」



【魔術陣スキル】

 自分の使える魔術を魔術陣や魔術回路として書き込むことで魔術陣を作成できる。魔道具を作成する際に使用する。消費魔力はレベルによって軽減される。


 ■使用可能魔術

 【転移魔術陣】

 転移の目標となる魔術陣を描く。空間魔術スキルレベルの数だけ設置できる。それ以上設置した場合、古いものから無効となる。



 亜空間収納はレベル1の100kgでも便利だ。レベル10になると、レベルの2乗x100kgで、10トン持てるということになる。

 転移は、レベル1、目視なら、100kgなら10m転移できる。転移魔術陣へは、レベル1で、100kgなら1km転移できる。本来は転移魔術陣同士の転移がメインとなるのだろうか。


【魔術鑑定スキル】

 目視した魔術の、効果、希少度を知ることができる。


【魔動植物鑑定スキル】

 目視した魔物、動物、植物の、危険度、希少度、相場を知ることができる。


【武具道具鑑定スキル】

 目視した武器、防具、その他アイテムの、効果、希少度、相場を知ることができる。


【魔道具鑑定スキル】

 目視した魔術陣によって作られた魔道具の、効果、希少度、相場を知ることができる。


【錬金鑑定スキル】

 目視した錬金によって作られた薬などの、効果、希少度、相場を知ることができる。


【人物鑑定スキル】

 自分や目視した他人のスキルを鑑定することができる。スキルレベルにより鑑定できる深度が変わる。相手が鑑定偽装スキルを持つ場合、そのレベルを上回らないと正確な鑑定ができない。


【鑑定偽装スキル】

 他者の鑑定スキルレベル以上の場合、自分のスキル内容を偽装することができる。



「魔物ってなんだよ」



【魔物】

 動物や人類種と異なり、体内に魔石を持ち、その魔力の影響で動物より強い力を持つ。



「そんなものがいるなら、いつまでもここには居られないな……」


 一通りスキルを確認したのでウインドウを閉じようとして、『鑑定偽装』について気になった。人物鑑定スキルがあれば他人のスキルLVが覗き放題ということなら、覗かれることで不利になる事態も考えられる。

 とりあえず、各種スキルは見えないようにしたほうがいいだろうか。全くないのも不自然か。やり方はなんとなく分かる。


「鑑定偽装。空間魔術、魔術陣、鑑定偽装をスキル0に、その他スキルを3を上限で設定」



【 名 前 】カナタ

【 性 別 】男

【 種 族 】ヒューマン

【 年 齢 】16歳


【魔術基礎スキル群】

空間魔術スキルLV1(偽装0) 魔術陣スキルLV1(偽装0)


【鑑定スキル群】

魔術鑑定スキルLV9(偽装3) 魔動植物鑑定スキルLV9(偽装3) 武具道具鑑定スキルLV9(偽装3) 魔道具鑑定スキルLV3 錬金鑑定スキルLV3 人物鑑定スキルLV10(偽装3) 鑑定偽装スキルLV10(偽装0)



「あとは……」


 改めて自分の姿を確認する。足元は革のブーツと麻のズボン、上は麻のチュニックを着、ベルトには刃渡り30cmほどの短刀が鞘に収まっている。中には一応下着としてシャツとパンツは着ている。チュニックの懐をまさぐると服の内側に縫い付けられたポケットがあり、じゃらじゃらと金属音がする巾着袋が入っている。

 巾着を取り出し中を漁ると、貨幣のようなものが入っている。銀貨29枚、銅貨100枚。どの貨幣も穴が開いており、いくつか10枚ごとに紐が通してある。(所持金3000)


「鑑定」



【レクセル王国通貨】レア度:一般 相場:実際の金属の相場に合わせて作られており、鋳溶かしても価値はほぼ変わらない。

 金貨1枚=銀貨100枚=銅貨10000枚。

 逆相場として、

 市民の外食一食   銅貨50枚前後

 市民の宿一泊素泊り 銀貨5枚前後



 草むらに自分のものと思われる小汚い麻の袋を見つける。太い革ひもが上と下に縫われ、斜めに背負うものだ。袋の中を調べると、革の水袋、匂いの悪い石鹸、畳んだ革製のマント、替えの下着、など旅の装備がある。他、食料がいくらか入っている。


「これで全部確認か。とにかく、安全な場所に移動しないと……」


 魔物の存在が危険であることは予想つく。人里離れた場所で野宿する訳にもいかない。周囲をぐるりと見回すが、草原は緩やかな傾斜があり、下り側のずっと向こうに一面の森が見える。草原の上の方は稜線から先が見えない。

 袋を担ぎ、丘を上る。緩やかで大きな丘だ。草むらがガサリと動いてかなり遅れて短刀を抜くが、ウサギらしき小さな動物が驚いて逃げただけだ。

 やっとのことで丘の上まで移動すると視界が急に広がる。丘の下に馬車の轍のある道が左右に伸び、その道まで1kmほど。そこに3台の馬車が並んでゆっくりと走り、今まさに目の前を通り過ぎようとしている。

 カナタは慌てて駆けだす。あの馬車を逃すとここに取り残されることになる。


「すみませーん!」


 何度も叫びながら手を振り丘を駆け降りると、馬車がこちらに気づいたようで止まってくれた。



「本当にありがとうございます」

「たまたま帰りの商品の量が少なくて、場所が余ってたからな」


 3台の馬車はその男、商人のラーベという男のもので、荷馬車が少し空いているという理由で乗せてくれた。木の壁で囲われた荷馬車で、壁に申し訳程度、折り畳み式の座席がついている。親切な人に出会えて幸運だ。御者を兼ねた護衛なのか、剣を佩いた冒険者風の男が御者台と幌の中に1人ずついる。


「遠くの村から旅に出たのはいいのですが、数日前に迷子になり、食料も尽き掛けていたんです。助かりました」


 カナタは適当な設定を繕って話す。


「何日も迷子とは難儀な目に会ったもんだな。ところで、俺たちはサンダールの街に向かっているんだがそれでいいのか? 分かってるんだよな」

「サンダールの街?」


 首を傾げるカナタを見て、ラーベは呆れたように眉を上げる。


「ほんと何も知らずに出てきたのか。サンダールってのは、フィアーグラン辺境伯領の領都だ。日が暮れるまでには着くと思う」

「あの、辺境伯って何ですか?」


 ラーベはやれやれと説明を始める。


「辺境伯ってのはな、外敵に接する伯爵の称号で、侯爵に匹敵する地位だ。辺境伯領は軍を維持しやすいよう国への上納が軽いらしい。しがらみの少ない独立気風の強い領地だ。なんて言っても分からないか……」


 ただの村人なら確かにどうでもいい話かもしれない。


「なんとなく理解しました。それでその、外敵っていうのは……?」

「そりゃ、魔物に決まってるだろ」


 出たよ魔物……。魔物について聞きたいが、常識が無いのをどうやって誤魔化すか。魔物を知らないと言っていいのかが分からない。なので、微妙にすり合わせやすい聞き方を考える。


「……その、魔物って、どれくらい出るものなんです?」

「そうだな、辺境以外だと山間部や深い森にでも入らないと魔物はいないからな。中には魔物を見たことが無いやつもいるかもしれない。居たら居たで冒険者へ依頼が出るし、それでも駄目なら討伐隊が出る。ずっと蔓延るようなことはないからな。

 だが、辺境は違う。辺境の魔物の数は、そこが辺境である理由だ」


 もしかして……?


「魔物の脅威がそこを国境と決めているってことですか?」

「そうだ。フィアーグラン辺境伯は辺境地方傘下の領を合わせ五万の兵を持つ。魔物から領土を守っているが、領土を広げるための開拓団を編成できるほどは金も人も足りてない」

「なるほど……」

「とはいえ、辺境はいい。冒険者が多いし、やつらが手に入れた珍しいものが市場に出る。

 その代わり、商品を狙う盗賊も多いし魔物も出やすいからリスクが高い。護衛を増やさないといけないから経費も高くなる。だが、俺はまだ若いからな。金に飢えてるやつは多少は危ない橋を渡らないといけないってことだ」


 ラーベはまだ三十歳手前で、商人として独立して商売しているにはまだ若いらしい。


「じゃあ、辺境から珍しいものを買って中央で売り、中央で生活必需品を買って辺境で売るって感じですか?」


 カナタがそう言うと、ラーベは目を見開き、ぽかんとした表情を浮かべる。


 例えば、

 A地区は小麦の産地で小麦1kg銅貨100枚で、岩塩が1kg銅貨200の値とする。

 B地区は岩塩の産地で岩塩1kg銅貨100枚で、小麦が1kg銅貨200の値とする。

 A地区で小麦を買い、岩塩を売る。B地区で岩塩を買い、小麦を売る。

 異なる地方を行き来し地方による価値の差を利益として出すのが卸の商人だ。その競争により、流通は発達し、その価格差は小さくなってゆく。


「カナタ、おまえ商人になりたいのか?」


 ラーベはカナタが商人の動きを理解しているのが意外らしい。

 カナタにとっては逆にその質問が意外だったのでちょっと戸惑う。


「まだ決め切れていないです。旅をして見聞を広めたいのもありますし。今聞いた冒険者ってのも興味があります。金が無いと旅も出来ませんから商売もしたいですし」


 なんとか曖昧な返事でお茶を濁す。


「おまえにその気があるなら、うちで鍛えてやってもいいぞ?」

「はは、他にどうしようもなくなったら是非お願いします」


 カナタは出来るだけ無邪気に見えるよう微笑む。




 夕暮れ時、街に近づいていた。

 サンダールの街は高さ10メートルを超える城壁で守られた城塞都市だった。城壁には、閉じたままの軍用の大門、馬車用の中門、徒歩用の小門があり、中門に馬車、小門に人が並んでいる。


「入市税が銀貨1枚かかる。初めて入るなら入市証発行でさらに銀貨1枚かかる。宿も1泊銀貨5枚程度かかる。持っているか?」


 ラーベが心配そうに問う。


「はい、それくらいなら大丈夫そうです」

「俺たちは入市税以外にも商品の調査を受けるから、少し時間がかかる。おまえは小門に行ったほうがいい」

「わかりました。本当にどうもありがとうございます」


 そう言って何度も頭を下げ馬車を下りると、背中からラーベの声がして振り向く。


「ここサンダールの街とヴェストラプラ市に、ラーベ商会の店舗がある。主にここを中心に商売している。何かあればいつでも訪ねてくればいい。利益になることなら余計にな!」

「そのときは是非お願いします!」


 カナタは手を上げて挨拶し、小門の列に並ぶ。

 列が進み、自分の番になる。銀貨を2枚握り渡す準備をする。皮鎧を着て槍を持つ警備兵が話しかけてきた。


「証明書の類は?」

「遠い村から来たもので持っていません。入市証を発行してもらえると聞いたのですが」

「ああ、証明書がない者は人物鑑定を受け、入市証を発行することで街に入れる。また街を出ても入市証は繰り返し使える。おい、鑑定だ!」


 兵は後ろの兵に声を掛ける。他の兵が城門の内側にへばりつくように建っている小屋のカウンターへと案内してくれる。


「この魔道具は、名前、性別、種族、が分かる鑑定魔道具だ。嘘はつけん。この魔術陣に手を置け」


 魔道具は板に魔術陣らしきものが描かれており、端に黒く光る小さな玉がついている。カナタが魔術陣に手を置くと、兵士は空中を見て手元の帳簿にメモする。恐らく、カナタが鑑定を見ているのと同じ感じなのだろう。


『鑑定』



【人物鑑定の魔道具LV3】レア度:1% 相場:金貨1枚

 種族、性別、名前が分かる。



 種族、性別、名前だけなら偽装は見抜けないだろう。すこしホッとする。

 鑑定はすぐに終わり、掌くらいの木札を渡される。名前、性別、種族、入市日と、紋章のような焼き印が押されている。この領の紋章だろう。引き換えに銀貨を2枚渡すと呆気なく処理が終わり、門を通される。(所持金2800)


「手に職はあるのか? どこかギルドに入って証明書を持った方がいい。じゃないと、犯罪が起きた時に真っ先に容疑者者扱いされる。入市証はあくまで仮の措置だ」


 警備兵は厳つい顔をしているが意外と親切だ。


「冒険者か商人になりたいと思っています」

「そうか。この東大通りを真っすぐ進むと広場に出る。各ギルドは広場に面しているからすぐわかる。冒険者ギルドも商人ギルドもある。登録さえすればどの街でも身分証になるから早目に登録したほうがいい」



「なんだい、着火の魔術もできないのかい? それくらいは使えるようになっときな」


 宿の女将は指先を蝋燭の芯に向け、集中するように眉根を寄せる。数秒の後、ぼっ、と小さな炎が上がり、蝋燭に火が点く。



【着火】レア度:一般

 火魔術スキルLV1。着火する。



 女将が何をするのか集中して見ていたせいか、魔術鑑定スキルが発動する。内心、おお、魔術だ! と驚いていたが、珍しいことではないようなのでポーカーフェイスを維持する。

 部屋に戻り、閂を閉める。燭台をテーブルの上に置き、ベッドに腰かける。


「とりあえず1日目はなんとかなった……」


 知らない自分、知らない世界、知らない常識。それが重くのしかかり、ため息が出る。


「さて……、どうやって確認すればいいかな」


 一つ気になることがあった。

 空間魔術の、転移、亜空間収納が普及しているなら、物流革命が起きているはず。だが、ラーベは馬車に護衛をつけて危険な地域に商売しにいくのが当然なように言っていた。


「もしかすると、とんでもない有利な条件を手に入れてるのでは……?」


 思わずニヤつく顔を両手で叩く。空間魔術がどの程度レアなのかを調べる必要があるのだが、誰にどういう風に聞けばいいのか、藪蛇になりそうで難しい。


「参ったな。人じゃなく、書物とかで確認できればいいんだけど……」


 空間魔術のレア度を鑑定できればいいのにな……。


「あ、そうか……。鑑定、空間魔術スキル、レア度」


 自分のスキルに関わることであれば鑑定できる。



【空間魔術スキル】レア度:0.0001%

 古代に普及していたが、今では失われた魔術の系統。転移魔術陣のある遺跡は各国に残っているが、破壊されている。その他、亜空間収納の魔術陣をもつ『マジックバッグ』が遺物として残されている。



「おお、これは!」


 続いて、出て来た単語を連鎖的に鑑定する。


「鑑定、マジックバッグ」



【マジックバッグ】レア度:0.1% 相場:金貨100枚/容量100kg

 古代魔術文明時に作られた亜空間収納の魔術陣を内部に描いたバッグ。古代遺跡などから稀に発掘される。希少品ではあるが、大商会や高ランク冒険者は持っていることもある。



 0.1%ということは1000人に一人くらいは持ってるってことか。亜空間収納は最悪マジックバッグとして偽れば……。いや、そんな高価なものを持っていると知られればいつ襲われるか分からない。そういう意味では空間魔術ほどではないが、ある程度身を守れる術無しには持ち歩けるものではない

 一応、魔術陣スキルも希少度を確認してみる。



【魔術陣スキル】レア度:1%

 魔術陣スキルによって魔道具を制作できる。



 これについては騒ぎ立てるほどのものでは無さそうだ。魔道具を作る職人と考えると、むしろありふれたスキルかもしれない。

 次は、実際使ってみる。


「亜空間収納」


 椅子に手を触れてそう呟く。体の中で何かがぐにゃりと歪み、突きだした掌から押し出される。椅子が消える。さらには出してみる。言葉に出す必要は無さそうだ。中に何が入っているのかも念じるだけで分かる。これは使い勝手がいい。


「転移」


 次に、狭い部屋の中で数メートル転移してみる。その瞬間、くらりと視界が揺れ、足を踏みしめる。少々気分が悪い。これは転移のせいだろうか。

 再度、口に出さず、転移してみる。また視界が揺れて足を踏みしめる。さっきよりキツイ。

 そのまま蹲り、ゆっくり息を吐く。頭痛がし、視界がぼんやりして頭が働かない。指先が震え、うまく動かない。魔力切れというやつか……。

 カナタは四つん這いでベッドによじ登り、目を閉じる。

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