第2話 喚びだしたってなんの用なの?


 「まずは、何が起こっているのか、からの説明になりますですじゃ」

 いかにもお爺さんな物言いで、トートツに、状況説明が始まる。


「まず、第一に、ここは、貴女方が先程までおられた、生まれた世界とは違う世界ですぢゃ。

 ピンと来ないかもしれませぬが、在り来たりの説明で申し訳ないのですが、世界は卵だと思って下され」

 おお、物語によくある、世界の始まりと終わりとか、異界を渡るお話とか始まるんかな?

 でも、話が跳んで跳んで、唐突で脈絡が感じられない話し方だなあ?


 私は、漫画やラノベもよく読んでたから、ああ、ファンタジーな世界なのねで済んでるけど、美弥子やその友達はついて行ってないみたい。

 母の状態がよくないと父も不安で、精神的にも肉体的にも不安定となる人なので、そういう時は、関わらずに一人で大人しく本を呼んでいる。

 本はいい。どこまでも遠くへ行く事が出来る。知らない何かを識ることが出来る。


 ミステリーもファンタジーもSFも読んだけど、魔法や世界の外の話はよく出て来る。そして、その説明の多くが、卵に例えられていた。

 ハイ、異世界定番いただきました~。


「大地や海、世界中の大気と夜空の星々、私達の暮らす地のすべてを卵の黄身だと考えていただいて、魔素や神気、霊気、精霊、などが世界を取り囲んでおります。それが白身ですな」

「ちょっと待って、マソとかシンキって何?」

 美弥子が、疑問で口をはさむ。他の2人も頷く。SFやファンタジーが好きな人でなければ、字で見ないとピンと来ないものかな。


「文字通り、魔素は魔力の素。粒子の粗い何にも染まってないただの魔力とでも言いましょうか。

 神気も、同じく神の気配ですぢゃ。この神殿にも満ちております、神の霊験あらたかな聖なる力の事ですぢゃ」

 お爺ちゃんは、ドヤ顔で説明する。別に貴方が偉そうにする事でもないでしょうに。


 で、その白身を取り巻く薄皮が、世界と世界の狭間を隔てる純粋な力の幕で、そこまでは力のある魔術師とかだと行けるらしい。

 その薄皮と少しの空間の外に、殻があって、それを傷つけたり割ったり穴を開ける事が出来るのは、魔王(そんなのいるんだ!?)とか神とか、人知を超えた存在だけなんだって。


 でも、ただの魔力だけとか、実体を持たない知性の低い妖怪とかは殻も薄皮も素通りできるらしい。非物質な生き物ではない扱いなんだね。


 この世界には、そうやってやって来た悪意ある魔素や妖魔が蔓延ってて、人々は大変苦しめられてるそうで、それを祓える、神の力を借りることが出来る唯一の階位クラスが巫女と呼ばれる人々。


 だけど、昨年、その巫女様が妖魔にやられて亡くなられて、人々は妖魔や怪異に怯えて暮らす毎日になってしまったらしい。

 急遽、聖なる存在が必要となり、巫女がどうやって神に選定されるのか、古い文献を漁る内に見つけた聖女召喚術。殻の外の、別の世界に存在する聖なる存在をこの地に招き入れるために、強大な魔力が必要で、術式も複雑で緻密で難しいけれど、大賢者や大神官、たくさんの魔導師達が集まって、研究に研究を重ねられた。

 それは、人々の希望になると信じ、何度も失敗しながら、ようやく、聖女──美弥子が召喚されたというくだりのようである。


 私は、なんとなく無視されてる感を受けながらも必死に聞いていた。どこになんのヒントがあるか解らない。


 異世界? 聖女召喚? こちらの都合も訊かず、有無を言わさず強引に連れ出しておいて、それってただの誘拐やん。


 聖女様が……とかいいながら、立ちっぱなしで話し込んじゃって、逃げられないように取り囲んじゃって……

 お茶くらい出しなさいよ。

 立ち話もなんですから、とかなんとか、別室に案内して、座らせたらどうなの?

 私は、人だかりの輪の外で、地べたに座って観察していた。


 私にはまわりの大人達すべてが胡散臭く見えた。



 私は聖女様じゃないんだったら、さっさと日本に帰してくれないかな……



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  次回

3.親切なようでいて強引だよね?



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