第4話 巫女の役割
「お迎えに上がりました、大精霊の巫女様」
カラカルの森の守人だというお爺さんは、私を巫女と呼んだ。
「あの、申し訳ないんですけど。私は、巫女じゃないんです」
「ああ、これは済みませなんだな。もちろん解っておりますです。この国の巫女は、昨年亡くなりましたでな。……そうではなく」
大精霊を連れ、動物にも懐かれていて
気まぐれで人間に無関心な筈の妖精に、愛されて守護を受けている
無数の大小の精霊達を纏い、女神の祝福を持つ者
そういう特性の人は、人とそれ以外の存在との架け橋になれる可能性を持っていて、便宜上、巫女と呼んでいるのだとか。
「何も、瘴気を浄化し、
今の若い人々は、忘れておりますがの。
お爺さんは、そう言って可愛いけど困った孫を見るような表情で笑った。
《アンタ、名前は?》
「コールスロウズと申します、大妖精様……いや、妖精王様」
お爺さんは、にっこり微笑んで、戸棚から顔ほどもある大きな瓶を出して来た。
「ほれ、お約束のメイプルシロップですじゃ」
《なかなか、良質じゃナイ♬》
「お気に召していただけましたかな」
「あの、どうして、妖精王だって……」
「ああ、儂は早くに父親を亡くしましてな、長くこの子を宿してる分、精霊を見たり感じたりするのを共有しておりましてな。この子の知る事の一部は儂にも伝わりますのじゃ」
森で、木々の世話をしていた時、急に精霊が活発になり、妖精達がしきりに王が来た王が来たと騒いでたので、村に戻ってきた所、私に会ったのだという。
《アンタ、混じってるワネ》
小指にメイプルシロップをちょっとつけて舐めてるお行儀の悪いサヴィアンヌ。
「混じってる……て?」
《樫の木霊が憑依して長い内に、木霊の霊気とアンタ、コールの魂の一部が融合しちゃってるんダワ。ワタシ達妖精の婚姻と似た効果が出ちゃってんノヨ。価値観や感情がシンクロし易かったノネ》
これ以上メープルシロップを舐めないよう、荷物から出したカインハウザー様の花壇の蕾の蜜漬けを出してあげると、一つ一つ摘まみながら、もしもしと食べるサヴィアンヌ。
代わりに、匙で少しメープルシロップを掬い、グリーダリアの花にかけて蓋をする。
「幼い頃から共に居て、もはや儂の一部のような感覚になっておりましたが……」
《いいんじゃない? ワタシ達は、結婚できるほど近しい存在に出会える事は稀で、幸せな事ヨ》
コールスロウズさんを見て私が思ったこと。
96歳と聞いたけど60歳ほどにしか見えないのも、森の番人で身体を鍛えてるからってだけでなくて、精霊と一部融合してるからなのかな。
《ソウネ、もしかしたら、ずっと後に再びここに来た時に、アンタとはまた逢えるかもしれないワネ。コールスロウズ?》
「いつでも歓迎しますぞ」
台所からメープルシロップの甕を抱えたサヴィアンヌとリビングへ移動すると、わらわらと子供達が出て来た。
「お爺ちゃん、だあれ?」
「でっかいバウバウだぁ!」
「バウバウ、毛がつやつや~」
8人の子供が、シーグに纏わり付く。
ボーダーコリーに似た犬が、ヨボヨボと歩いてきて、シーグの背に乗ろうとしていた男の子の服の背を咥えて引きずり下ろし、首に両腕を回して張り付いていた女の子を引き剥がし、シーグの尾を引いていた男の子のお尻を囓り、と、順番に面倒を見ていく。
「曾孫達ですじゃ。牧羊犬、クーリーはだいぶお婆さんですが、もうずっとああして子供の面倒を見てくれて助かります」
大きな家だけあって、お子さんもお孫さんも、曾孫さんも、四代揃って住んでいるそうで、なかなか賑やかだった。
「メイベル。こちらは、ハウザー城砦都市から来られたフィオリーナさんじゃ。
フィオリーナ様、儂の孫娘のメイベル。巫女様と同じ、精霊と少しだけ話せるんじゃ。何か、お役に立てる話が出来るやもしれません」
目元がコールスロウズさんに似た、青みがかったプラチナブロンドの愛らしい女性で、リリティスさんと同年代か少し上くらい。
会釈のあと微笑んだ笑顔がとても素敵だった。
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