第16話 シーグの独占欲と精霊の不満
《シオリ、寝た!》
《ボクが報告するんだよ! 君は黙ってろ! セルティック! シオリはベッドですやすやだよ》
《シオリは、もう寝たよ!》
《シオリ、あの狼と寝てるよ、セルティックは一緒に寝ないの?》
「わたしはいいよ。ゆっくり寝かせてあげなさい」
《あの狼、ウザい》
「ウザい?」
わたしが眉を顰めると、リリティスはクスクスと笑い出した。
言の葉を操る風の精霊は、リリティスにも伝言を預けたりする馴染みのある子達なので、聴こえたようだ。
「あの
「そうなのか……」
《アイツ嫌~い》
《シオリ、独り占め、ヨクナイ》
《セルティック、取り返して!》
まだ幼稚な感情しか持っていない、昇格したばかりの精霊達は、不満をこちらに転嫁してきた。
「シオリの精霊力に心酔してるロイスや気安いナイゲル、彼女が頼りにしているヒラスさんなんかに、噛みつかんばかりに呻るそうですよ?」
「それは、なんというか…… まあ、……悪い虫がつかなくていいんじゃないか?」
「そういう問題ですか?」
「恐らくだが、シオリに近づく
「だといいんですが」
リリティスの心配ももっともではある。
領主館で保護している子供の飼い犬が、民を傷つけたなどという事件があってはならない事だ。
「一度、シオリにちゃんと聞いておくよ。シーグの知能はどの程度なのか」
「一般的な犬は、幼児なみの知能はあるとは言いますけど、シーグは、もっと、私達と変わらないくらいに会話が成り立ちますから、その分、感情に振り回される事はあるかもしれません」
リリティスの考えには、概ね共感できた。
「判ったよ、きちんと話す。女王陛下も交えてね」
「妖精王も、いざという時には頼りにならないかもしれませんよ」
おや? リリティスは、あの妖精王と気が知れて仲がいいのかと思ったが。
「本来妖精は気ままなものです。勤勉な精霊と違って、気分で意見を翻す事もあるかと。
第一、我々人間とは価値観が違います。私達の倫理や道徳は彼女達には意味のないものでしょう?」
その通りだ。妖精は、利害が一致している間は頼もしいが、それも、彼らの気分が大きく左右する。
彼らの大切にするものが、我々人間と共通するとは限らず、自分達のルールで押し通す事がある。
それをリリティスに教えたのはわたしなのだ。わたしもわかってはいる。
「勿論、解ってるさ。だが、シオリが
「確かに、今まで見たどの妖精よりも人間臭い部分を持ってますね」
気紛れで好奇心旺盛。多くの妖精と融合して知識と力を蓄えてきた歳古りし妖精王。
その好奇心が人との距離を縮めているのだろう。
「そんな事より、わたしは、一度、サクラの希望に添えるよう、大神殿に行ってこようと思う」
「本来、使者を出すだけでもいいんじゃないかと思いますけどね」
「約束したからね。それに、途中の村と大神殿の様子も見ておきたい」
「本当に、大丈夫なのでしょうか……」
リリティスが心配するのも当然だ。
大巡礼の者が街に落とした、瘴気の種となり得る
が、同じような、
瘴気になりきれていない内はアリアンロッドの光弾で滅せるが、瘴気になってしまったら、もしそれが街中だったら、もう手がつけられない。
そこかしこから闇落ちになった斃せない動く死者が発生するのだ。
どこでつけてくるのか、ちゃんと調査せねばなるまいが、衛士達に命じて瘴気や闇落ちに遭ったら、どんなに後悔しても何をしてもわたしには、彼らに償いきれない。
「かと言って、
……私は、反対です」
「一応、顔見知りの光の精霊を総動員で連れて行くさ。闇の精霊にも声はかけておくよ」
瘴気や闇落ちに有効な、唯一の効力、光の精霊。
それとて、
準じて、闇の精霊も、負の力や感情を制御する力を持っているが、やはり、女神の祝福を通さねば、その力は100%ではない。
わたしは、精霊に好かれる体質だが、魔力が少なく、
「もし瘴気に遭っても、1~2度なら、光の精霊が跳ね返してくれるだろう。シーグがその爪や牙で闇落ちを無力化出来たのと同じだよ」
リリティスは気づいてないようだが、シーグのまわりには、いつも風や地の精霊がいる。僅かに光の精霊も。シオリやわたしに比べれば数は少ないが、街の一般市民に比べれば、格段に多い。野生動物にはみられない量だ。
だから、花の親心の妖精サヴィアや花の小妖精達の言う、シーグが闇落ちを押さえつけ風の精霊と共に
「心配しなくても、危険だと判断したら、すぐに逃げ帰ってくるさ。彼らも、一応それなりの立場というものがある。領主の謝礼訪問として表立って行くのに、妙な小細工はして来ないだろう」
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