閑話②-4 『聖女』の焦り
マズい。マズいわ。マズいのよ~!!
さくらも、最初はなんにも出来なかったけど、漫画やアニメの真似をしたと言って、精霊を見つけ、契約を果たした。
光の精霊は、この世界の精霊の中でももっとも強力で、しかも私達が召喚された大元の理由、よくない感情やこの世の不要物から発生する〔穢れ〕と言うものを弱らせたり、その穢れが悪化して感染力を持った〔瘴気〕と呼ばれる毒素に変わったのを浄化させる唯一の力で、異界からやって来る悪魔や、悪意の気配を祓うのに有効な手段だという。
ここまでの説明も、大神官や大賢者のお爺さんから聞いた話と、彼らが知識を刷り込んだ魔力の塊が私達の中に吸い込まれて馴染んだものから引き出される知識、そのままの受け売りであり、実際にはまだよく理解できていない。
さくらは、その、この世界で一番強い種族の精霊と契約した。
私はまだ、どの精霊とも契約出来ていないのでよく解らないが、その精霊の力を借りて、女神の代行業をするのが私達だという。
「あ~あ、そんな、見たことも触ったこともない精霊なんてもの、どうやって見つけたらいいのよ」
さくらは、コツは居ると思って探すことだと言うが、それは探し物のコツだろう。居るかどうか解らない不確かな存在をどうやって見つけるのか……
憂鬱だ。優等生の
「ひっどぉい、美弥ちゃん。ぽやぽやって、3人の中では、私が一番お姉さんなのよ? もう、15歳だもん、この国では成人なんだからね」
腰に手をあて仁王立ちで、頰を膨らませて抗議するさくら。独り言のつもりが聞かれていたらしい。
神官達の刷り込んでくれた知識は、言葉や魔法に関することだけではなく、ちょっとした一般知識もあった。そこは神殿の中で暮らす浮世離れした聖職者の事、幾分偏った知識ではあったが、それなりに役には立っている。
その知識で行くと、この国含め近隣国では、15歳はすでに成人扱いなのだ。
私はあまり読まなかったけど、さくらや彩愛は、同じ漫画や小説でもファンタジーやSFをよく読んでいて、この世界にもすぐに馴染んでいた。
精霊って、魂や小人みたいなものかと思ってたけど、さくらが契約した光の精霊は、最初は実体のない蛍の光みたいなぼんやりしたものだったのに(なにせさくらが見つけるまで見えなかった)さくらが名前をつけて契約した途端、強く輝いて、ウサギかリスのような形のふわふわしたものに、変化した。
悔しいから口にはしないが、羨ましい。
私は、聖女として望まれて喚び出されたにも拘わらず、未だ力を発揮できないでいるのだ。
「やっぱり、聖女様なんだから、契約するなら光の精霊、あるいは全属性よね~」
「とりあえず、瘴気や穢れを浄化するのに光の精霊は必要みたいだから、まずは光の属性でしょうね」
「さくらのステラちゃんみたいなの見つけなよ~」
あーもう、マンガオタクは黙ってて! そんな、不思議設定、解んないわよ。
私が好きなのは、推理・ミステリーと、歴史・時代物と、恋愛小説よ。荒唐無稽な異世界物じゃないわ。
私がイライラしてるのが解るのだろう、彩愛が私の背を撫でながら、宥めてくる。
「焦っても仕方ないわ。魔法なんて無かった世界から来たのだもの、急には無理よね。解らないなりにそういうものとして捉えてみるしか……」
「黙っててよ! そんな事言っても
どうしてこうなるの?
早生まれで、さくらの言い方だと3人の中では一番年下(同い年だけど)の彩愛は、実際には、まるで何歳か上の姉のように私達の感情や行動のフォローがうまい。私の八つ当たりやさくらの脳天気発言にはいちいち動じない。
これ以上醜い姿を見られたくなくて、古文書庫から出て、上の階の与えられた部屋に帰る。
どういう仕組みかは解らないが、階段を上り廊下を進んだ先のただの壁にしか見えない石組みに手を翳すと、幅1m高さ2mくらいの範囲の壁の一部が蒼白く光り、スッと透明になった後、消えて部屋への入口となる。
室内は、白い石が壁を飾り、人が在室しているとうっすらと光る。今は昼間なので光っていないが、天井付近まで大きく穿たれた窓から、心地よい風と光が入ってきている。
この神殿の造りは、四方を壁に囲まれた石の箱の中のようで、窓があるのは、最上階の居住区だけ。古文書や魔道書のある書庫は劣化を防ぐためにも仕方ないとは思うけれど、全部がそうだと息が詰まりそうだ。
居ると思って探せとは言うものの、
神官達も見たことないのか、刷り込まれた知識とやらにも、精霊の姿や生態などの詳細はなかった。
だが、それでもさくらは見つけ、契約したのだ。
私と、何が違うのだろう。
彩愛に至っては、刷り込まれた知識が後押ししたのか、漫画やアニメの、魔法や超能力の治癒ならこうだよねという、思い込みと雰囲気だけで出来るようになったと言う曖昧さだった。
──なんなのよ、それ
魔法の治療はこうだよね~だけで出来るようになるなんてある?
精霊とか魔法とか、馴染みのない曖昧な世界は、なんだかいろいろとやりづらかった。
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